「怪獣使いと少年」には救いがあった!『帰ってきたウルトラマン』がたどり着いた境地
マグミクス / 2020年1月20日 19時10分
■「ウルトラマンに見捨てられたらどうしよう…」
2020年1月2日に亡くなられた脚本家の故・上原正三さんの代表作として知られるのが、『帰ってきたウルトラマン』(以下、新マン)の第33話、「怪獣使いと少年」です。幼少時に見た「怪獣使いと少年」のトラウマ体験と、それを払拭してくれた新マンの『ウルトラマンメビウス』への客演について、ライターの早川清一朗さんが語ります。
* * *
「勝手なことを言うな、怪獣をおびき出したのはあんたたちだ」
「新マン」こと郷秀樹は、逃げ惑う群衆の悲鳴に背中を向けたまま、暴れまわる大怪獣ムルチを硬い表情で見上げているだけでした。
当時、小学校低学年くらいだった筆者には、難しい話は分かりません。とはいえ、良少年が受けていたいわれなきいじめと迫害の酷さと、ムルチを封印していた善良な宇宙人、メイツ星人が地球人によって虐殺されたことは理解できました。
陰惨を極める展開に驚きながらも、最後はウルトラマンがなんとかしてくれる、ウルトラマンのカッコいいところ、スペシウム光線を撃つところが見たい。その程度のことしか思っていなかったはずです。
だからこそ、怪獣が現れ人を襲っているのに目もくれず、微動だにしない郷秀樹の姿は、純粋な恐怖でしかありませんでした。
ウルトラマンが怒っている。
ウルトラマンが地球人を見捨てた。
ウルトラマンは僕らを見捨てた!?
ウルトラマンに憧れる少年にとって、絶対的なヒーローに愛想をつかされる恐怖は、耐えがたいものでした。
最後はなぜか僧侶の姿で現れた伊吹隊長の説得で変身してムルチを倒してくれたものの、これからもウルトラマンは僕らのために戦ってくれるのか、次の回が放送されるまで心配で心配でしょうがなかった記憶があります。というか伊吹隊長、郷がウルトラマンだと知ってたんですね……。
それから十数年が経ち、当時大学生だった筆者は自分が見た話がウルトラシリーズきっての問題作である「怪獣使いと少年」であることと、脚本を担当した上原正三氏が提出済みの脚本を除けば最終回まで干されてしまったこと、東條昭平監督が助監督に降格され、活躍の場を他の特撮作品に移したことなどを知りました。
実は脚本段階ではもう少しマイルドな内容になる予定で、作中に一般人代表として登場する坂田家の面々や、郷が良少年をかばうシーンが入るはずだったのですが、映像では東條監督がそういった部分をカットしてしまい、凄惨極まりない作品になってしまったそうです。
■人の暗部を覗き見た先輩として…『ウルトラマンメビウス』に登場
『ウルトラマンメビウス』DVD12巻(バンダイビジュアル)。筆者に救いをもたらした第45話「デスレムのたくらみ」が収録されている
アニメや特撮、ゲームを追いかける人生を過ごしていれば、たびたび「怪獣使いと少年」の話は耳に入ります。筆者もその後、このエピソードをたびたび見返す機会がありましたが、そのたびに子供の頃に感じた恐怖を思い出していました。
そんな状況が変化したのは、2006年です。この年に放送された『ウルトラマンメビウス』は、昭和に放送されたウルトラマンシリーズの集大成とも言える作品で、多くのウルトラ兄弟が客演するのみならず、過去の作品でくすぶっていたストーリーに決着をつける展開も見られました。
「怪獣使いと少年」も、32話「怪獣使いの遺産」で、ムルチを倒したその後が語られています。この話では、地球人に殺害されたメイツ星人の息子であるビオが地球を訪れ、父を殺した地球人への憎しみをたぎらせますが、最終的には和解します。良少年は残念ながら行方知れずですが、小説版「ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント」では彼がメイツ星人の死後何をしていたのか、わずかですが描写されています。
しかしそれ以上に筆者にとって大きかったのが、45話「デスレムのたくらみ」への新マンの客演です。この話で、ウルトラマンメビウスこと主人公のヒビノ・ミライは人間から手ひどい扱いを受け、大きな精神的ショックを受けてしまいます。
仲間たちのもとを離れ、呆然とした様子で座り込むミライの前に現れた郷秀樹は、「人間の強さも、弱さも、美しさも、醜さもその両方を知らなければ、お前はこの星を愛することはできない」と諭します。
さらに郷秀樹は、「俺たち兄弟は戦い続けてきた。この星は守るに値する星だと信じて」と続けます。この言葉を聞き、新マンはかつて見せつけられた人間の醜ささえも受け入れて、この星、地球を愛してくれているのだと、筆者はようやく知ることができたのです。
そして、メビウスとともに戦い、再び地球を守り抜いた新マンの姿に、筆者はただ感動する他ありませんでした。こうして20数年にわたり心のなかにこびりついていた、ウルトラマンに見捨てられる恐怖心は、ようやく拭い去られたのです。
※編集部注:「帰ってきたウルトラマン」の正式名称は「ウルトラマンジャック」ですが、本記事では執筆者の意向を尊重し、「新マン」および「ウルトラマン」と表記しました。
(ライター 早川清一朗)
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