「Zよりアレックスの方が推力オバケ!?」世代進むもMSスペックはそう伸びていないワケ
マグミクス / 2024年4月3日 6時10分
■67年前の機体より低スペック……?
アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズでは、登場する人型兵器「モビルスーツ(以下MS)」に「ジェネレーター出力」「スラスター総推力」「センサー有効半径」といった性能データが公表されています。いわゆる「宇宙世紀」シリーズにおけるそれらMSの性能データを見ていて不思議に思うのは、「新しい機体だから数値が大きいとは限らない」ということです。
たとえば宇宙世紀0088年に登場した「ZZ(ダブルゼータ)ガンダム」と、同0153年に登場した「Vガンダム」を比較すると、以下のようになります。
「ZZガンダム」 ジェネレーター出力:7340kw/スラスター総推力:10万1000kg
「Vガンダム」 ジェネレーター出力:4780kw/スラスター総推力:7万9700kg
「Vガンダム」は頭頂高で「ZZ」より4.6m小さい小型機ではありますが、単純に比較すると低スペックです。出力重量比では「V」が上になるものの、65年も経っているわけですから、MSのスペックは伸びていないといえるでしょう。
年代に差がない場合でも、こうした事例はあります。0079年に登場した初代「ガンダム」と、その3か月後に完成した「ガンダムNT-1(アレックス)」、0083年に登場した「ガンダム試作3号機『ステイメン』」、0087年に登場した「ガンダムMk-II」「Z(ゼータ)ガンダム」を比較してみましょう。
「ガンダム」 ジェネレーター出力:1380kw/スラスター総推力:5万5500kg
「アレックス」 ジェネレーター出力:1420kw/スラスター総推力:17万4000kg
「ステイメン」 ジェネレーター出力:2000kw/スラスター総推力:18万8800kg
「ガンダムMk-II」 ジェネレーター出力:1930kw/スラスター総推力:8万1200kg
「Zガンダム」 ジェネレーター出力:2020kw/スラスター総推力:11万2600kg
0083年に登場した「ステイメン」は、0087年の「ガンダムMk-II」を上回っていることがわかりますし、0079年に登場した「アレックス」は、0087年の可変MS「Zガンダム」よりもずっと高い推力を有しています。
さらに、「ステイメン」がアームドベース「オーキス」と合体した「デンドロビウム」や、前述した「ZZガンダム」の同世代機である「EX-S(イクスェス)ガンダム」は、圧倒的なスペックを持ちます。
「デンドロビウム」 ジェネレーター出力:3万8900kw/スラスター総推力:226万5000kg
「EX-Sガンダム」 ジェネレーター出力:1万2250kw/スラスター総推力:118万2000kg
こうした機体の存在にも関わらず、0093年の「ν(ニュー)ガンダム」は以下のスペックです。
「νガンダム」 ジェネレーター出力:2980kw/スラスター総推力:9万7800kg
普通に考えるなら、ジェネレーター出力が高ければ高出力なビーム兵器が使えますし、推力が大きければ機動性で有利そうに感じますが、実際には「νガンダム」は「EX-Sガンダム」を100とした時に、8.2しか推力を「持たされていない」のです。
これはどういうことなのでしょうか。確実なことは「推力を大きくすることは難しくはない」ということです。「アレックス」は「Zガンダム」よりも小さいですが、推力は大きいわけですし、「EX-Sガンダム」は「νガンダム」とほぼ同じ頭頂高ながら、12倍の推力があります。
つまり、巨大な推力や、高すぎるジェネレーター出力は「いいことばかり」ではないから、スペックを「あえて」抑えているということになります。
■なぜ「あえてスペックを抑える」のか?
「EX-Sガンダム」の後背。超重装をものともしない推力オバケ。BANDAI SPIRITS「HG 1/144 Ex-S ガンダム」 (C)創通・サンライズ
なぜ、あえてスペックを抑えるようなことをしているのか、その答えは「ミノフスキー粒子」の存在が関係すると考えられます。
『機動戦士ガンダム』の劇中では、「高熱源体」の接近をセンサーが感知し、MSを発見するという描写が見られます。巨大な推力も、高すぎるジェネレーター出力も「高熱源体」となる理由そのものです。
一方、MSが宇宙戦闘機に勝る「白兵戦用機動兵器」であり続けられる理由は、「ミノフスキー粒子により、遠距離でのレーダーが機能しなくなることで、誘導ミサイルや長距離ビーム砲による狙撃ができなくなること」と説明されています。
つまり、「νガンダム」の約4倍のジェネレーター出力と、12倍の推力を持つ「EX-Sガンダム」は、センサーにより遠距離で容易に発見され、誘導ミサイルや艦砲射撃での攻撃を受けやすいということです。
実際『機動戦士ガンダム』では、ジェネレーター出力14万kw、推力58万kgを誇る「ビグ・ザム」に対して、地球連邦軍の戦艦、巡洋艦の砲撃はほぼ命中しています。
「発射した瞬間に命中」する宇宙艦艇のビーム砲は、推力が高い機動兵器にとっても脅威であり、センサーに感知されたら即撃墜もあり得るということです。「ビグ・ザム」「デンドロビウム」「EX-Sガンダム」が、ビームバリアによる対ビーム兵器防御を備えているのは、発見されやすさと無縁ではないでしょう。
また、高すぎる推力は「曲がれない」「止まれない」リスクがあります。MSは手足による姿勢制御(AMBAC)が可能とはいえ、基本的に「スラスターを吹かして得た速度」を打ち消すためには「止まりたい方向へのスラスター噴射」が必要となります。
ミノフスキー粒子で有視界戦闘を強いられる宇宙世紀の世界で、撃破すべき敵MSを発見した際に、たとえ敵の12倍の推力を持っていても、自分の速度を落とさなければ白兵戦に持ち込むことは困難です。速度を落とそうとしてスラスター噴射をすれば「高熱源体」の原因となりますから、そこで敵MSや艦砲による遠距離射撃を受けやすくなるわけです。
これを避けるためには「母艦からカタパルト射出することで、MS本体からのスラスター噴射を最小限にし、基本的には慣性で移動、方向転換は手足によるAMBAC、敵と白兵戦に持ち込む際や、防御行動時以外はなるべくスラスターを噴射しない」といった運用が基本になるでしょう。
この仮定に基づき、「ガンダム」と「デンドロビウム」が交戦したと想定してみます。
28倍のジェネレーター出力、40倍の推力を持つ高熱源体の「デンドロビウム」は、「ガンダム」に遠距離で感知され、先制攻撃を受けます。「ガンダム」の武器が実弾の「ハイパーバズーカ」なら「デンドロビウム」は甚大なダメージを受けることでしょう。一方、「デンドロビウム」は推力もジェネレーターも小さな「ガンダム」をすぐには発見できません。
ちなみに、現実世界における人類の乗りもので一番速いのは「アポロ宇宙船」で、秒速11.08kmです。仮に「デンドロビウム」がこの速度で「ガンダム」に接近した場合、センサー有効半径が10kmであったとしても、1秒も感知できないで通り過ぎることになります。そして減速しなければ、「ガンダムのいそうな辺りにメガ・ビーム砲やマイクロ・ミサイルをばら撒く」くらいしかできないわけです。
「デンドロビウム」が「ガンダム」を射撃するためには、相対速度を落として、センサーに捉えなければなりませんが、それをすれば「ガンダム」は「デンドロビウム」に接近して、白兵戦を挑めます。パイロットが「アムロ」なら、「ビームサーベル」で切り刻まれそうです。
そう考えるなら、「高ジェネレーターで高推力の機体は、発見されやすく、かつコストが高いだけでなく、戦闘効率も悪いので、ほどほどのスペックのMSを多数配備した方が強い」という考え方は成り立ちます。
これに対して、アナハイム内には「ニュータイプやエースの技量、あるいは高性能コンピューターの補助により、高機動、高火力機は使いこなせる」という意見もあり、その方向性で試作したのが「EX-Sガンダム」で、これがうまくいかなかったのでしょう。
そうした理由で「νガンダム」以降は、過剰スペックの機体はほとんど作られず、機体規模に見合う「白兵戦を挑みやすく、敵に発見されにくい性能バランス」の機体が多く作られるようになったのだと考えられます。
この「スラスター推力を上げてもあまり意味がないので、以後は抑えよう」という発想と潮流は、宇宙世紀0083年の「デラーズ紛争」を戦訓としたものなのでしょう。
■『Z』以降は具体的にどう推移したのか?
こちらもまた推力オバケ(と推定される)。BANDAI SPIRITS「MG 1/100 スーパーガンダム」 (C)創通・サンライズ
スペックが押さえられて以降の主要機を比較してみます。
「ガンダムMk-II」 ジェネレーター出力:1930kw/スラスター総推力:8万1200kg
「Zガンダム」 ジェネレーター出力:2020kw/スラスター総推力:11万2600kg
「νガンダム」 ジェネレーター出力:2980kw/スラスター総推力:9万7800kg
・「ガンダムMk-II」に対する「Zガンダム」
頭頂高:1.07倍/ジェネレーター出力:1.05倍/スラスター総推力:1.39倍
・「ガンダムMk-II」に対する「νガンダム」
頭頂高:1.19倍/ジェネレーター出力:1.54倍/スラスター総推力:1.21倍
技術力で大差ない「ガンダムMk-II」と「Zガンダム」では、「ジェネレーター出力は機体規模の拡大に見合った範囲、推力は可変MSとして増大させたが、最低限の範囲」と見ることができるでしょう。また、5年の差がある「ガンダムMk-II」と「νガンダム」では、装甲材質などの技術向上で、発生熱量の隠蔽技術が進歩したのか、ジェネレーター出力は増大したものの、推力は機体規模の拡大に見合った範囲に止められているのがわかります。
ジェネレーター出力については、機体が大きくなって、手足が大型化したり、「フィン・ファンネル」や「バインダー」などの付属品や可動部が増えればそこに割く電力も増えたりするでしょうから、必要最低限だけ増やしているのでしょう。
ちなみに「ガンダムMk-II」は「Gディフェンサー」と合体することで「スーパーガンダム」となります。「Gディフェンサー」は「Zガンダム」のビームライフルを上回る「ロングライフル」を搭載しているので、ジェネレーター出力は2000kw以上あるでしょう。つまり合体すると、以下のようなスペックが推定されます。
「スーパーガンダム」(推定) ジェネレーター出力:3930kw/スラスター総推力:16万6000kg
「Zガンダム」を上回るスペックですが、劇中では「ガンダムMk-II」と「Gディフェンサー」は別個に出撃するシーンが多く見られました。「高推力、高ジェネレーター」の機体には弊害があるという認識があったのでしょう。
続く「ZZガンダム」(7340kw/10万1000kg)では、推力は抑えたものの、ジェネレーター出力は大幅に増大という機体バランスとなりました。ただ、それも続いていない以上、「パイロットがニュータイプだからあまり被弾しなかったけど、高火力のメリットより、発見されるリスクの方が大きい」という結論だったのだと思われます。
0096年の「ユニコーンガンダム」や、0105年の「Ξ(クスィー)ガンダム」では、「ガンダムMk-II」を基に考えると、機体規模の拡大に比べ大き目のジェネレーターと推力となっていますが、それでも「アレックス」以下の推力ですから、その時代の技術力に応じて「無理のない機体バランスがMSには必要」という考えが続いていたことがわかります。
MSのスペックが伸びないのは、「ミノフスキー粒子下で有視界戦闘を行う機動兵器として適切なバランスが必要だから」で説明できそうに思える次第です。
(安藤昌季)
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