『狼と香辛料』『ONE PIECE』ほか続く2000年代アニメ化作のリメイク、その裏にある諸事情と今後
マグミクス / 2024年4月4日 20時10分
■Netflixで配信される『THE ONE PIECE』
近年、2000年代アニメのリメイクが続いています。最近では『シャーマンキング』や『東京ミュウミュウ』の2度目のアニメが放送され、この春からは『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』や『バーテンダー 神のグラス』が始まりました。さらに今後、『ONE PIECE』のリメイク(こちらの現行作は正確には1999年10月スタートですが、ほぼ2000年代ということで)も発表されています。こうした動きはなぜ活発化しているのでしょうか。
まず、ここで言う「リメイク」とは、ある作品を新たに作り直すことです。原作の未アニメ化部分を久々のアニメで展開する『キン肉マン』や『BLEACH』(映画ですが『THE FIRST SLAM DUNK』もここに含められるかもしれません)、あるいは最近劇場上映を行った『天元突破グレンラガン』や『秒速5センチメートル』のようなリブート/リバイバルといえる作品とは異なります。それらと違い、リメイクすることによるメリットとして、すでにある程度の知名度があって既存のファンはもちろん、物語の最初から作り直すことで新規ファンの開拓にもつながることが挙げられます。
もちろん、これまでもリメイク作品はありました。現在も放送中の『うる星やつら』がその筆頭として挙げられるでしょう。同作については、小学館創業100周年を記念しての再アニメ化だと明らかにされており、同社で活躍し続ける高橋留美子先生のデビュー作を4クールにもわたって展開することにも納得できます。
このようなリメイクの事情を推測してみると、『ONE PIECE』については比較的分かりやすいでしょう。東映アニメーションによるアニメが放送されているなか、2023年12月にWIT STUDIOによって「東の海(イーストブルー)編」から再アニメ化されるという『THE ONE PIECE』の発表は大きな話題となりましたが、配信先はNetflixです。
近年は動画配信サイトによる作品への出資(およびそれに伴う独占配信)は多くの作品で行われています。Netflixは2023年8月に実写版『ONE PIECE』を独占配信しましたが、同作の世界的なヒットを経て『ONE PIECE』という作品のバリューを確信し、以前から進められていた『THE ONE PIECE』の企画も発表した……と想像できます。
■少し懐かしいライトノベルのアニメ化も続く?
『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』ビジュアル (C)2024 支倉凍砂・KADOKAWA/ローエン商業組合
『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』の原作は2006年から刊行されているライトノベルで、2008年と2009年にTVアニメが放送されました。2010年代後半からVR作品の展開もありましたが、2022年2月に新作アニメが発表された際は多くの人が驚いたでしょう。
国民的人気マンガ『ONE PIECE』ほどとはいきませんが、こちらも00年代にライトノベルやアニメを好きだった人で知らない人はいないといっても過言ではない知名度を持つ作品です。その直撃世代も30~40代となり、今ではアニメを企画する側になっているのは明らかでしょう。
そして「小説家になろう」から生まれた小説を原作とする「なろう系アニメ」が高い人気であるとはいえ、初作『ログ・ホライズン』から10年以上経ってさすがに競争の激し過ぎる飽和状態となっています。そのカウンターとしてライトノベル……そのなかでも、新作ではなく少し古いもののすでに一定の知名度があるものをアニメ化するのは商売として理に適っています。
また『狼と香辛料』の作風も見逃せないポイントです。本作は行商人のロレンスと狼の耳と尻尾を持つ美少女のホロが、馬車で各地を旅しながらホロの故郷を目指すという物語で、それほど戦闘やアクションで魅せる作品ではありません。
当然そのほかにこだわっている点もあるでしょうが、作画にかかるコストを抑えられそうな点は大きなメリットです。2010年代後半に近しい性格のライトノベル『キノの旅』や『ブギーポップは笑わない』も再アニメ化されただけに、アニメ企画時にはこうした要素も重要視されているのかもしれません。
もうひとつヒントとして、高橋丈夫監督の存在も考えられます。彼は2000年代のアニメでは監督、『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』では総監督ですが、後者を制作するのは高橋監督が取締役を務めるアニメ制作会社のパッショーネです。旧作で『狼と香辛料』という作品に何らかの強い思いを抱いた高橋監督が、2020年代に再びアニメ化しようとして生まれた、制作会社発の企画である可能性もあります。
『ケロロ軍曹』ビジュアル (C)吉崎観音/KADOKAWA・BNP・テレビ東京・NAS・BV
●アニメ化の対象となる原作の年代はより幅広く
先述した『東京ミュウミュウ』や『シャーマンキング』はいずれも原作のスピンオフや続編が進行しているタイミングに合わせて再アニメ化されたため、原作と相互で盛り上げようという意図もあったでしょう。その一方で春クールでは、2006年以来に『バーテンダー』が『バーテンダー 神のグラス』として再アニメ化されています。この原作マンガは10年以上前に連載が終了していますが、それでも大人をターゲットにした作品を探しているなかで白羽の矢が立ったのか……ここまではあくまで部外者の勝手な推測ですが、このようにリメイク作品が生まれる背景にはさまざまな事情が考えられます。
近年でも先に挙げた『うる星やつら』ほか『キャプテン翼』や『銀河英雄伝説』といった長くファンに親しまれている作品がリメイクされることはありますが、再アニメ化の対象となる原作の年代が後ろ倒しされつつあります。『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』や『トライガン』『魔術士オーフェン』なども1990年代後半のアニメ化作品でした。この原稿を書いている最中には、(まだTVアニメ化などは発表されていないものの)アニメ『ケロロ軍曹』の新プロジェクトも発表されましたが、ただでさえアニメやドラマの原作不足が叫ばれるだけに今後もこうした動きは強まっていきそうです。
(はるのおと)
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