【書評】歴史的に「別モノ」とされてきた「アニメと実写」の違いとは? 『映像表現革命時代の映画論』
マグミクス / 2024年4月7日 8時10分
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■『鬼滅の刃』や『トップガン マーヴェリック』を同じトーンで論評
『映像表現革命時代の映画論』(星海社)は、映画ブロガー・ライターを掲げる杉本穂高氏の初の単著。本書の特徴は、実写映画とアニメーション映画、洋画と邦画をシームレスに同じトーンで論じているところにあります。作品は『鬼滅の刃』から始まり、海外のインディーズアニメーション「Away』やVFX映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』、『トップガン マーヴェリック』などまでが広くカバーされています。
並べてしまえば違和感はありませんが、実際はここに著者である杉本氏の立ち位置の重要性があります。現在、実写映画とアニメーション映画の論評は分断しがちで、ここまでクロスオーバー出来るライターはあまり多くないからです。
本書はWebメディアの連載記事を中心にまとめ、加筆、修正をしたとしています。一般的に、メディアに連載された記事をひとつの本にまとめることはかなり難しい作業です。それぞれの評論は個別作品にフォーカスした独立した文章であると同時に、発表された時期や環境など時代性に結びついているためです。そこでバラバラの文章をひとつにまとめあげる作業が必要になります。そのため連載をまとめた書籍の多くは、むしろそうしたテーマの広がりや時代性を楽しむように作られています。
ところが杉本氏は、ここで別のアプローチを取りました。当初から各論考の裏にあった「『アニメーション』と『実写」の違いは何なのか』という論点を軸に持ってきました。その結果、全体を通して読んでみると、個別の評論として読んだ時とはまた異なった論考を味わえるようになりました。
本書の魅力は、まさにそこにあります。ひとつひとつが個別の作品論でありながら、同時に映画全体の知見を示す二重構造になっているのです。
たとえば第1章「現代アニメに息づく映画史」は、『鬼滅の刃』、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『すずめの戸締まり』といった話題作、人気作の評論が続きます。一見は個別の作品論になっていますが、全体を一度読み上げた後にもう一度読んでみると、別の印象を受けます。複雑に見える構成ですが、ここでは多くの読者が鑑賞している身近な映画を取りあげることで、読者をより大きな論題に誘うアプローチも築かれています。
■実写とアニメ 「境界のあいまいさ」が論点に
「実写」と「アニメーション」をテーマと考えた時、本書の最大の読みどころは第4章「実写とアニメーションの弁証法」になるはずです。
ここでは個別作品の論評から離れ、米国のアカデミー賞のシステムを軸に「実写」と「アニメーション」が世界の映画界でどうみなされてきたかを掘り下げます。さらにトーキー映画にさかのぼり、両者の分断の歴史を明らかにします。
同時に今日においても、「実写」と「アニメーション」を分けることが可能であるのか? とも問いかけます。「実写」と「アニメーション」の違いは、これまでもたびたび語られてきた論題です。しかし杉本氏は、豊富な知識と実証で、ここでその線引きの曖昧さという新たな論点を与えることに成功しています。
ただ結論については、もう少し一歩踏み出してもよかったのでないでしょうか。「実写」と「アニメーション」は不断のものなのか、それでも現在はまだ異なるものとして定義づけ出来るのか、出来るとしたら何で線が引かれるのか。状況をよく知れば知るほど、断定的な結論に慎重になることは理解しています。それでも次の議論を生み出すためにも、杉本氏のより強固な仮説、論考を読めればさらに深みが増したはずです。
第5章「AI時代の演技法」では、現在の映画業界が抱える別の大きな問題に焦点が当てられています。デジタル化と技術の進歩がもたらす映画業界に与える影響です。大きな議論であるだけに、ここでは「実写」と「アニメーション」にフォーカスした全体のトーンからややずれた印象が残りました。「実写とアニメーション」の論考をより掘り下げたほうが、より全体の理解が増したかもしれません。
逆にも言えば、著者が得意とするであろうAIも含めた最新の技術やデジタル化の動向の現在と未来は、さらに別の機会にじっくりと詳しく読んでみたいところです。
(数土直志)
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