特撮世界にもあった「忠臣蔵」? 怪獣やスーパー戦隊に取り入れられた絶妙さ
マグミクス / 2020年1月19日 15時40分
■怪獣たちの顔見世興行だった? 『怪獣総進撃』
元禄15年12月14日、現在の暦では1月30日、大石内蔵助ら赤穂浪士四十七士が主君・浅野内匠頭の敵である吉良上野介を討ちとった、世にいう「忠臣蔵」。歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』を筆頭に、これまで数多くの劇作品や映画、TVドラマの題材に選ばれてきました。
昨年2019年には「予算」をテーマに描かれた映画『決算!忠臣蔵』が公開されましたが、近年は「忠臣蔵」をもとにした映画やドラマの製作本数が減少し、「忠臣蔵」を知っている若者は少なくなったとも聞きますが、かつては誰もが知る物語のひとつでした。過去には『サラリーマン忠臣蔵』(1960年)や『わんわん忠臣蔵』(1963年)、『なにわ忠臣蔵』(1997年)など、「忠臣蔵」を翻案した映画作品もさかんに製作され、特撮ジャンルにおいても「忠臣蔵」を題材にした作品が作られていました。
まず最初に紹介したいのが、ゴジラシリーズの第9作目『怪獣総進撃』(1968年)です。企画段階での題名はまさに『怪獣忠臣蔵』というものでしたが、地球侵略を企むキラアク星人と人類、地球怪獣たちが戦う物語で、「主君の敵を討つ」という話ではないため、ストーリー面では「忠臣蔵」要素が希薄です。
本作の一番わかりやすい「忠臣蔵」要素は、敵であるキラアク星人でしょう。名前は「忠臣蔵」の悪役である吉良上野介から取られたものです。しかしその姿は銀色の衣裳に身を包んだ女性で、吉良上野介のような高齢の男性ではありません。
またクライマックスの怪獣バトルは、富士の裾野に集結した総勢11体の怪獣がキラアク星人の基地を襲撃するというものでした。画面いっぱいに怪獣たちが並ぶこの場面は、赤穂浪士たちの討ち入りを彷彿とさせます。地球怪獣の中心にいるゴジラ・ミニラの親子も赤穂浪士の大石内蔵助・主税の親子を意識したものではないでしょうか。ならばキラアク星人が操る宇宙怪獣キングギドラは吉良家の家臣である清水一学でしょう。
「忠臣蔵」は登場人物が多くそれぞれに見せ場がある点、豪華なセットが必要になる点から、各映画会社が威信をかけて製作するオールスター映画の、格好の題材でした。本作『怪獣総進撃』は怪獣たちのオールスター映画として製作され、登場する怪獣の数はゴジラシリーズ史上2番目に多い作品です。『怪獣総進撃』と「忠臣蔵」は“オールスター映画”という作品のセールスポイントが共通しているのです。
■時代を超えたカンフー忠臣蔵、『獣拳戦隊ゲキレンジャー』
『獣拳戦隊ゲキレンジャー』DVD9巻(東映)。第33話「フレフレガッチリ!カンフー忠臣蔵」を収録
次に紹介するのが、スーパー戦隊シリーズの第31作『獣拳戦隊ゲキレンジャー』(2008年~2009年)です。本作の第33話のサブタイトルは「フレフレガッチリ!カンフー忠臣蔵」(脚本:荒川稔久・監督:中澤祥次郎)。
この回は、元禄時代に飛ばされてしまったゲキレンジャーたちが吉良上野介に憑依した敵・臨獣アングラーフィッシュ拳のムコウアを倒すというストーリーです。『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003年~2004年)以降恒例となっていたスーパー戦隊シリーズの京都ロケ回で、東映京都撮影所をフルに活用した一編となっています。
『ゲキレンジャー』はカンフーをモチーフとする戦隊です。吉良邸へ討ち入った当初、ゲキレンジャーは刀で戦っていましたが、刀の扱いに不慣れなため途中から彼らが得意とするカンフーで戦います。ゲキレンジャーと戦う吉良家の家臣・清水一学を“日本一の斬られ役”として知られる俳優の福本清三氏が演じており、見事な剣さばきを披露しています。余談ですが、福本氏は映画『最後の忠臣蔵』(2010年)で吉良上野介を演じていました。
「忠臣蔵」を知らない子供たちへの配慮からか、宇崎ラン/ゲキイエローが漢堂ジャン/ゲキレッドに忠臣蔵の顛末を説明する描写が挿入されるのも本作の特徴です。ジャンは「虎に育てられた野生児」という人物設定だったため、自然な流れで「忠臣蔵」の説明が行われています。
巨大ロボ戦も「忠臣蔵」を意識したものとなっています。ムコウアがゲキレンジャーを「田舎侍」と罵ったり、巨大ロボ・ゲキリントージャがムコウアを攻撃したのが額と肩で、浅野内匠頭が吉良を斬りつけたのと同じ箇所だったりと、「忠臣蔵」のエッセンスを随所に折り込んでいることがわかります。
『怪獣総進撃』はゴジラシリーズの世界の中へ、「忠臣蔵」の要素を解体して取り込んだ作品となっている一方、『獣拳戦隊ゲキレンジャー』は作品の持ち味を活かしながら、タイムスリップと東映京都撮影所というふたつの切り札を用いて「忠臣蔵」の世界の中へと入り込む作りをしていました。どちらも「忠臣蔵」を題材にしていますが、作りが全く違うため、それぞれユニークな“特撮忠臣蔵”を楽しむことができます。
(森谷秀)
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