『ドラクエ4コマ』中井一輝先生インタビュー 柴田亜美先生が認めた奇才
マグミクス / 2020年1月21日 17時10分
![『ドラクエ4コマ』中井一輝先生インタビュー 柴田亜美先生が認めた奇才](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_22394_0-small.jpg)
■『ドラクエ4コマ』で独特の存在感を示した中井一輝先生
エニックス(現:スクウェア・エニックス)から発行された『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』(以下、ドラクエ4コマ)は、『ドラクエ』の世界を個性豊かな作家陣が描き、当時の少年少女たちの人気を集めました。
コミックスの1巻が発行されたのは1990年。初期の作家陣には、後に「月刊少年ガンガン」で連載され、TVアニメ化もされた人気マンガ『南国少年パプワくん』の作者・柴田亜美先生も名を連ねていました。
『ドラクエ4コマ』は読者投稿の企画「4コマクラブ」もスタート。投稿作品だけを集めたコミックス『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 4コマクラブ傑作集』も発行されています。第1巻には人気作家が選ぶ賞があり、そのなかに「柴田亜美賞」を受賞した、異彩を放つ投稿者がいました。
当時、学生だったという中井一輝(なかい・かずき)先生です。独特のタッチとオチの破壊力で、投稿者ながら「一度見たら忘れられない」存在感を見せていました。柴田亜美先生は作品に対して「中井くん、君はいいぞ!」と絶賛のコメントを寄せています。
プロデビュー前から先輩作家や編集者にも「かわいがってもらった」という、中井一輝先生。中井一輝先生に、『ドラクエ4コマ』やオリジナル作品についての思い出を聞きました。
* * *
ーー『ドラクエ4コマ』を投稿したきっかけは?
「ゆう坊」こと堀井雄二先生の大ファンだったことが、投稿の動機になると思います。
私が子供だった1980~90年代は、出版業界がカルチャーやトレンドに対してすごく影響力を持っていた気がします。当時はインターネットもなく、みんなで何か盛り上がろう! 面白いことやバカなことをやろう! みたいな企画はだいたい雑誌が旗振り役で、ウケたがりな性格だった私は色んな読者参加企画にハガキ職人としてネタを投稿していました。
当時、堀井雄二先生はコンピュータ情報やゲームの開発裏話などが人気のフリーライター「ゆう坊」としても活動されていて、投稿系の雑誌にも連載を持っておられました。それらの記事を読んで「ゆう坊信者」みたいになっていた私は、初代の頃からとにかく『ドラクエ』に肩入れしまくっていて、その『ドラクエ』の投稿企画なら「自分が参加しないワケにはいかない!」と勝手に思い込んでしまったようです。
それまでは文字ネタばっかりでイラストやマンガは苦手だったのですが、その勝手な思い込みと情熱のおかげでなんとかマンガを仕上げることができました。
ーー初めて入選した作品を覚えていますか?
2巻に掲載された、最後が白黒になって終わるネタです。マンガだから白黒なのは当たり前なんですが、解る人は解ってくれると思います。(編集注:アリーナとクリフトが親しげにしているのを見てうらやんだ勇者が馬車を見ると、自分以外全てカップルに。ショックで白黒になってしまうというオチ)
■中井一輝先生ならでは! 「白黒」のコマが生まれた理由
中井一輝先生が「マグミクス」読者に描き下ろしてくれたサイン色紙
ーー「白黒になって終わる」ネタは、インパクト大なオチでした。それが「楽屋裏」などで描かれた自画像にもつながっているのですね。
はい、自分でも気に入っていて自画像に使っています。
そのコマが生まれたきっかけは本当に偶然でした。投稿系のマンガでは、最後のコマが劇画チックになる手法は昔から人気があって、私も大好きでした。
自分でもそういうのを描こうと思ったのですが、画力の問題でリアルタッチの表現がうまくできませんでした。それで、失敗した影の斜線をベタで潰してごまかしていくうちに、黒い部分が不自然に増えてしまったので、「いっそ全部ベタでつぶしてしまおう」と。さらに、なぜかオシャレでスタイリッシュな画風の作家さんのコマを参考にしてみました。
結果的に、そのスタイリッシュさが予期せぬ魔改造効果を生み出したようで、仕上がったコマを見て自分でも大笑いしてしまいました。
ーー投稿作品が『4コマクラブ傑作集』で柴田亜美先生に絶賛された時の気持ちは?
すごくうれしかったのと、期待に応えられた安心感の両方がありました。
実は、投稿作品が初めて掲載されたのをきっかけに、『4コマクラブ傑作集』が出版される前からちょこちょこ編集部に遊びに行っていました。オープンな雰囲気の編集部で、私はまだ学生だったので、大人である編集者さんと話してアドバイスをもらえるのは刺激になり、ありがたかったです。
柴田亜美先生には「投稿者の中井くんに会ってみたい」と言っていただけ、運よくご挨拶できる機会がありました。柴田亜美先生には、「めちゃくちゃ笑ったから、ああいうのをどんどん描きなよ!」みたいなアドバイスをいただきました。
舞い上がってしまい、その後、気合を入れて30本くらいネタを投稿しました。もちろん入選することも「柴田亜美賞」をいただけることも知らなかったので、発売された『4コマクラブ傑作集』を買ってドキドキしながら自分のマンガを探したことを覚えています。
■少年誌に載せていいのか!? 中井一輝先生のオリジナル作品
「月刊少年ガンガン」に掲載された『一撃必殺!!一発屋劇場』(中井一輝先生提供)
ーー中井一輝先生は「月刊少年ガンガン」で『一撃必殺!!一発屋劇場』、「月刊少年ギャグ王」で『ピエール刑事’94』を連載されていました。それぞれの作品が始まった経緯は?
『一撃必殺!一発屋劇場』が始まったのは、一時下火になっていた「笑いだけを追求した純粋なギャグマンガ」が再び注目され始めた時期で、編集部からもそういう作品が「ガンガン」に欲しいと聞かされていました。
『ドラクエ4コマ』をはじめとするゲーム4コマが、二次創作的な完成度が求められるジャンルとして成熟し始めているなか、どちらかというと完成度より笑いを取りに行くスタイルの私を抜擢してくださったのだと思います。
連載を始める時、当時の編集長から「ページ数をあげられないから10年続けないと単行本は出せない」と同時に「でも君の人生に必ず役に立つ仕事にしてみせるから好きにやれ!」とも言われました。タイトルの「一発屋」は、そういう経緯があってつけられています。
増ページなし、単行本なしが前提かよ(笑)と思いつつ、当時の編集長の熱意にすごく感動しましたし、実際に殆どなんでもありで自由に描かせてもらえました。
ーー確かに、「少年誌に載せていいの?」と思ってしまうくらい自由ですね。
そうですよ、しかも比較的低年齢層向けの雑誌です。
でも、編集長の言葉通り、私の人生に影響を与える大きな仕事のひとつにもなり、関係者の方々には本当に感謝しています。
『ピエール刑事’94』は、腕利きの編集者の方が、「中井を使って面白いマンガを作りたい」ということで始まったと聞いています。こちらもかなり自由にやらせてもらい、「ガンガン」で連載されていた『ハーメルンのバイオリン弾き』の渡辺道明先生、『ZMAN』の西川秀明先生をパロディで登場させたこともあります。
私の力が及ばず短期終了してしまいましたが、この時に理論的な発想法やお笑いなどの他ジャンルを研究して生かす方法などをたくさん教えてもらえたことが、その後の仕事にも生きています。
ーー社会人になってからの活動、現在の仕事は?
『ピエール刑事’94』の連載が終わった後はゲーム業界を軸に、色々な企画の仕事をしていました。職種としてはディレクターとかマネージャーなどの裏方です。管理職が多かったのですが、さまざまなメーカーで大きなものから小さなものまで色んなプロジェクトに関わらせていただき、私の経歴を知った若いスタッフに頼まれて、マンガを描いたこともありました(笑)。最初は真面目に描いていたものの、最終的に悪ノリをしてしまいましたが……。
運や仲間にも恵まれて、そこそこの実績を残すことができたので、2019年にゲームの仕事には一区切りつけ、今はライフサイエンス(生命科学研究)業界のIT推進事業に携わっています。実は、自分でもまだ職掌がよくわかっておらず、会社ではとりあえず「ITアーキテクト」で通しています(笑)。
* * *
『ドラクエ4コマ』と「月刊少年ガンガン」「月刊少年ギャグ王」に掲載された、個性の強い作品が生まれた経緯を話してくれた中井一輝先生。
インタビュー後編では、『ドラクエ4コマ』が今も愛される理由や、連載当時「月刊少年ガンガン」作家のそうそうたるメンバーと行った「編集部には秘密の遊び」について語ってもらいます。
(C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
(マグミクス編集部)
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