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「アニメ業界が一夜にして崩壊する可能性も」 アニメ制作と「生成系AI」にまつわる危機的状況とは

マグミクス / 2024年4月15日 10時50分

「アニメ業界が一夜にして崩壊する可能性も」 アニメ制作と「生成系AI」にまつわる危機的状況とは

■アニメ業界とAI開発者が抱える課題

 近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい進化を遂げており、その発展のスピードは留まるところを知りません。わずか1年前には不自然さが目立っていたAIによる画像や動画も、今では本物と見分けがつかないほどのクオリティで生成できるようになり、商用利用も現実味を帯びてきました。

 このAI技術の急速な進歩は、アニメ業界にも大きな影響を与えることが予想されます。慢性的な人手不足に悩むアニメ業界にとって、AIを効果的に活用できれば課題解決の糸口になると期待する声がある一方で、「クリエイターの職が奪われるのではないか」「類似した作品が大量生産されるのではないか」といった懸念の声も上がっています。

 さらに、国内のAI開発者からは、現状のままでは資金力のある米国や中国の大手IT企業との競争に太刀打ちできず、彼らの都合に合ったルールや取り組みが優先されてしまう可能性があるという心配の声もあがっています。

 今、国内のアニメ業界とAI開発者は、これらの課題にどのように向き合うべきでしょうか。そこでマグミクスでは、アニメ制作支援のための倫理的なAI開発を目指す「アニメチェーン合同会社」と、アニメ業界のクリエイターの権利を守る活動を行う「一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)」に取材しました。AI開発者とアニメクリエイターたちが協力できる道があるのか、両者への取材を通じて迫ります。

■AIをアニメ制作にどう活かせる?

アニメチェーンのメンバーでAIHUBのCTO・新井モノ氏

 そもそも「AIをアニメ制作に活かす」といっても、具体的に何が出来るのでしょうか。

 1枚1枚手描きでつくられるアニメーション作品において、とくに動きのキーとなる絵と絵の中間を描く作業とその絵を「中割り」といい、これには多くの時間と手間がかかります。しかし、AIを活用し、キーとなる絵やモデルに指示を与えるだけで、この中割りが自動的に生成され、工数を大幅に削減することができます。

 さらに現状では企画や脚本作り、絵コンテなど、いわゆる「プリプロダクション」の領域は人間の方に分があるようですが、それ以降の作業のかなり部分でAIがサポート可能だとアニメチェーンのメンバーでAIHUBのCTO・新井モノ氏は語ります。

 もしそれが本当に可能であれば、アニメ制作の人手不足解消に貢献できそうです。さらにクリエイターがAIにサポートしてほしい箇所に対して工数削減を実現させ制作ペースを早くすることもできれば、よりクリエイティブな部分、シナリオや絵コンテ・キーになる原画などに人間は時間を割けるようになるかもしれません。

 実際に、今アニメ業界は慢性的な人材不足が指摘され、どこのスタジオも「何年も先まで予定がいっぱい」といわれます。世界で高まるアニメ需要に対して、現場の生産力が追いついておらず、ここをいかに解決してゆくのか、何らかの対策が必要なこともあり、「AIが人材不足の解消になるのでは」と期待する声もあるようです。

■アニメ業界のクリエイター7割がAIに懸念?

NAFCA事務局長・広報で声優の福宮あやの氏

 しかし、アニメ制作工程の大部分を担えるのであれば、やはりクリエイターの仕事は最終的には奪われてしまうのではないかと思えてきます。実際にアニメの現場で働くクリエイターたちはどう思っているのでしょうか。

 NAFCAがアニメ業界で働く人に向けてアンケート調査を実施したこところ、有効回答3854件の回答があり、「例外を除いて原則規制すべき」が46.3%、「全面的に規制すべき」と答えたのが27.4%で、何らかの規制を求める声が7割を超えています(参照:アニメ業界を対象とした生成 AI に関する意識調査の結果 https://nafca.jp/survey01/)。

 一方、「極端なもの以外は規制すべきではない」が16.1%と、現時点でも新たな技術に期待している人もいるようです。実際に、現場からは人手不足解消のため「使えるものなら使いたい」や「(権利的に)クリーンならば使ってみたい」という意見も出ている状況であると、NAFCA事務局長・広報で声優の福宮あやの氏は語ります。

 また、NAFCAの理事を務め、長くアニメ業界で演出として活躍してきたヤマトナオミチ氏は、アニメ業界でも過去にAI研究はあったが、なかなか進まなかったといいます。それは、アニメの制作現場は作品ごとに離散集合し、長期的なアニメプロジェクトが少なくなっているため、研究も引き継がれないためだといいます。

「企画はクライアントのものなので、研究成果も現場で引き継がれていきません。制作現場の会社の財産となっていけば、継続的に研究を続けられる可能性はあると思いますが、現状はそうなっていないんです」(ヤマト氏)

 またヤマト氏は「アニメ制作は常に新しい技術を取り入れ発展してきた歴史があるため、新ツールが有効活用できるならしたいと思う人は当然いる」ともいい、単純に技術が「良いか悪いか」ではないと補足します。

NAFCA理事、アニメ演出家のヤマトナオミチ氏

 しかし、AIを実践投入する場合には、著作権などの権利に気を付ける必要があります。

 NAFCAはAIに関する内閣府の審議会「AI時代における知的財産権」に提出したパブリックコメントの内容を公表しており、現状のAIが既存の作品を無断で学習しているという認識で、その法整備が追いついていない状態に懸念を表明しています。

 この点については、現場からも「今の混乱している状況で、商業作品でAIを使用するのはリスクが大きいので、今すぐにAIを使うという話は聞こえてこない」(福宮)とのことです
(参照:パブリックコメント「AI時代における知的財産権」 | NAFCA 一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟 https://nafca.jp/public-comment01/)。

■AI開発者が鳴らす警鐘「ビッグテックに全てやられる」

Turingum株式会社の顧問でアニメチェーンのメンバー・三瀬修平氏

 一方、国内のAI開発者たちも、クリエイター側とは別の懸念を抱いているようです。インターネットの歴史をなぞるかのように、このままではビッグテックにすべて飲み込まれてしまうのではないか、というのです。

 例えば、YouTubeは今や誰もが利用する動画プラットフォームですが、誕生した当初は著作権侵害の巣窟でした。今世界的な覇権を握るデジタルサービスのなかには、そうした権利問題を度外視して「とにかくやったもの勝ち」という姿勢で大きくなってきたものも少なくありません。そして、一度プラットフォームを握られてしまうと、向こうの作ったルールに従わないと表現活動も事業展開までも、ままならなくなるのです。

 それに、現在日本のアニメは世界中に配信され、多くのファンを獲得していますが、それらの流通を担うのは海外のプラットフォーム企業です。その配信権も、固定の買い取りになっている場合が多く、大ヒットしても現場に還元されないこともあるといいます。

 Turingum株式会社の顧問でアニメチェーンのメンバー・三瀬修平氏は、AIに関しても同じことが起きる懸念を抱いています。

「基本的にビッグテックは、まず大きな投資を行ってスタンダードを作り、安い利用料で提供して大きなシェアを握ってから締め付けを行うというやり方を取っており、このままではAIでも他の選択肢がなくなる状況になってしまいます。そうさせないために国内で団結して、日本のプロが使いやすいもの、対抗馬となるものを作る必要があると思うんです」(三瀬氏)

 アニメチェーンは、海外のビッグテックとは異なる開発の仕方を目指すようです。それはAI学習のデータ利用にもしっかりと許諾を取り、提供してくれたスタジオやクリエイターにも利益を還元するというもの。そしてそのAIデータを各社に提供し、それぞれが追加学習をさせたうえで、スタジオごとに特色を持った使いやすいAIにしていくというものです。

 新井氏は、「ビッグテックに対抗しなければ、一夜にして日本のアニメ産業が危機的状況に陥ってしまう可能性もある」と警鐘を鳴らします。

 しかし、それぞれのアニメ会社には、AI開発のための資金力もないし設備投資は簡単にできません。そうこうしているうちに、海外の会社がシェアを取ってしまえば、将来的にはその会社のツールを使うしかなくなります。

 例えば、Adobe Creative Cloudのように、ある優れたツールが業界標準になると、大多数のクリエイターは活動を継続するためにそのツールの利用料を払い続けなければならない……という状況が起こります。生成AIの素材はクリエイターが作ったものであるにもかかわらず、クリエイターには還元されないまま、お金を払い続けるといった状況がAIでも起きるかもしれないという懸念を、アニメチェーンは抱いているということです。

 アニメ業界は、著作権や学習素材データの無断利用などに、非常にセンシティブになっている状況ですが、アニメチェーンはそこに配慮する必要があることを認識しているようです。

 では、実際にアニメチェーンはその課題にどう向き合い解決していくことができるのか。また法律のみならず、倫理的な面でもクリーンで説明可能なAIを目指し、ビッグテックにも対抗可能なのか……後編の記事ではそれらに迫ります。

(杉本穂高)

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