『逆襲のシャア』漢気か背信か…なぜシャアはアムロに「サイコフレーム」を渡したのか
マグミクス / 2024年4月15日 6時10分
■そもそも「サイコフレーム」ってなんなの?
劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』について、1988年の公開当時から論争となっているのが「なぜシャアはサイコフレームをアムロに渡したのか」という問題です。純軍事的にいえば最新構造材である「サイコフレーム」を敵に渡すなどありえない話であり、事実、最終的にはモビルスーツ(MS)「νガンダム」に搭載されたサイコフレームの力が、アクシズの地球への落下を阻止しています(諸説あり)。シャアは何を考えていたのでしょうか。
そもそも「サイコフレーム」とは何なのでしょうか。その機能のすべてが明かされたわけではありませんが、大まかに言えば「サイコミュ」の機能である「ミノフスキー粒子の震動を受信、増幅し、ニュータイプの意志をそのまま機械に伝える能力」を持つ構造部材であり、MS「ヤクト・ドーガ」開発の際にサイコミュの装置を小型化したことによって省略された機能を代替するために開発されています。
アムロが使用したものは初期のサイコフレームで、強度が不十分であり、コクピット周りや機体各所に分散配置する形で使用されただけでしたが、それだけでも「νガンダム」の性能向上と敵ニュータイプとの交感にひと役買っていました。アムロがサイコフレームの扱いに慣れていなかった当初は、味方が人質にされた際に危険を感じ、防衛本能が反応して、サイコミュ兵器であるところの「フィン・ファンネル」が暴走、人質の死を招く事態も発生しましたが、アクシズを巡る攻防戦では、アムロがシャアの元へたどり着くために大きな役割を果たしたといえるでしょう。
仮に「νガンダム」がサイコフレームを搭載していなければどうなっていたのでしょうか。
アムロおよび「νガンダム」は、「ヤクト・ドーガ」とモビルアーマー(MA)「α・アジール」にかなり苦戦することになるでしょう。シャア配下のパイロットで「ヤクト・ドーガ」を駆る「ギュネイ」については、初戦で「目が良すぎる」癖をすでに見切っているので倒せるとは思いますが、「フィン・ファンネルバリア」はアムロの「やられる!?」という感情に反応して形成されており、つまりサイコフレームが無ければ構築されないため、この段階でアムロが倒されていてもおかしくはないのです。
■サイコフレーム無しではシャアの元へたどり着くのすら厳しかったかも?
BANDAI SPIRITS「METAL STRUCTURE 解体匠機 RX-93 νガンダム フィン・ファンネル装備」 (C)創通・サンライズ
なおOVA『機動戦士ガンダムUC』にて、MS「スターク・ジェガン」がMS「クシャトリヤ」に対して見せたファンネル対策は、『逆襲のシャア』で描かれた3年前の「第二次ネオ・ジオン戦争」に参加していた兵士が、フィン・ファンネルによるオールレンジ攻撃のパターンを見たことで生み出されています。つまり『逆襲のシャア』の時点で、アムロが所属する「ロンド・ベル」隊の一般兵はまだファンネルに対して有効な対策が無い状況であり、そうなると敵のニュータイプや強化人間はアムロが倒すほかはありません。
とはいえアムロなので、「クェス・パラヤ」の搭乗する「α・アジール」程度なら、サイコフレームがなくともきっとなんとかするでしょう。それでも武器の大半を失い、傷ついた機体でシャアのMS「サザビー」に挑んだところで勝ち目は薄いといえます。シャアも互いに万全の状態で交戦できるなどと甘いことは考えていないでしょうが、ロンド・ベルにはアムロのほかに強力なモビルスーツやパイロットがいないことは一度交戦した時点で理解していたはずです。ロンド・ベル側に「カミーユ・ビダン」が「Zガンダム」で参戦してようやく互角に届くかと思えるくらい、エースの数と力に差があるのです。
アムロは部下にMS「ギラ・ドーガ」の相手を任せ、自分で「ヤクト・ドーガ」と「α・アジール」を撃破し、それからシャアと戦うことを余儀なくされることになります。ネオ・ジオン総帥の立場からすれば、アクシズ落としを成功に導く万全の配置です。この体勢を崩す必要などありません。
それでもシャアがサイコフレームを渡してしまったのは、アムロとの因縁に決着を付けたかったのは間違いありませんが、それだけではないでしょう。
第2次ネオ・ジオン戦争にネオ・ジオンは総力を投入しましたが、その戦力は地球連邦軍の一部隊であるロンド・ベルとほぼ互角程度でしかありません。もう、次が無いのです。仮にシャアが渡さなくとも、サイコ・フレームの技術は直に地球連邦軍に渡ることになるでしょう。
それならば、いつ渡すか。逆に言えば、アムロとの決着を付けられるタイミングで渡すのがシャアにとって最も都合がいいタイミングなのです。シャアはアムロと思う存分戦い、もしかしたらジオニズムの殉教者として死ぬのも一興と考えていたのかもしれません。
(早川清一朗)
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