『Gガンダム』TV放送から30年 それまでの「ガンダム」を徹底的に壊したワケ
マグミクス / 2024年4月22日 7時10分
![『Gガンダム』TV放送から30年 それまでの「ガンダム」を徹底的に壊したワケ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_225645_0-small.jpg)
■あえて過激な「化学反応」を狙った『Gガンダム』
今日4月22日は、1994年に『機動武闘伝Gガンダム』の放送が開始された日です。今年2024年で30年が経過しました。「ガンダム」シリーズの大きなターニングポイントとなった本作について振り返ってみましょう。
本作の企画には紆余曲折がありました。当初、「ポルカガンダム」とのタイトルで進行していた時点では、火星移民者が地球へ帰還するために地球住民と戦うという物語だったそうです。比較的、それまでのガンダムシリーズと変わらない方向性の作品でした。
スタッフも決まって製作はかなりの段階まで進んでいたようですが、途中で企画は中止となります。これには諸説ありますが、従来通りの「ガンダム」では、ヒットは見込めないという判断だったのでしょう。
そこで新たな要素として加えられたのが、当時流行していた『ストリートファイターII』などの対戦型格闘ゲームの要素でした。リアルな世界観で築いてきたガンダム世界にとって、この要素は水と油に等しく、大きな化学反応を狙ってのことだったのでしょう。
この難行を引き受けることになったのが今川泰宏監督でした。その就任に関して、これまでの「ガンダム」シリーズを製作してきた富野由悠季監督から「ガンダムをプロレスものにしたほうがいい」と推薦されたといわれています。一方で、スポンサーからの意向だったという発言もありました。
諸説あっても、「ガンダム」という作品を新たなステージに立たせるには、今川監督しかできなかったというのが当時の意見だったのでしょう。その後の今川監督が関わったTVアニメ『鉄人28号』(2004年)や『真マジンガー 衝撃! Z編』(2009年)を見てもわかる通り、作品を新たな世界観で構築するという面において今川監督は秀でた才能を見せています。
こういった理由から難航した本作のスタートは、通常よりも遅くなりました。そして番組としてのスタートが従来の4月第1週からでなく、4月第4週までズレ込むことになります。そのため「プロローグ編」と呼ばれる、それまでの「ガンダム」シリーズのハイライトと『Gガンダム』の製作の舞台裏を紹介する特番が3本、製作されました。この番組の進行役は、当時の人気俳優であるマイケル富岡さんと内山信二さんです。
こうして従来の「ガンダム」を壊して、新たな「ガンダム」を生み出すという役目を持たされた本作『Gガンダム』は、それゆえに従来の「ガンダム」ファンからは敬遠されることとなりました。そのため、番組開始時はゼロからのスタートどころか、マイナスからのスタートと思えるほどの逆境的な状況だったのです。
■『Gガンダム』の隆盛がその後の歴史を変えた
「ゴッドガンダム」をモチーフにした『機動武闘伝Gガンダム』30周年ロゴ (C)創通・サンライズ
それまでのファンからの期待はマイナスからスタートした『Gガンダム』。スポンサーであるバンダイ側からは「放映開始から3か月間は商売にならなかった」というコメントが残されています。当時を知る筆者の肌感覚もそうでした。
この状況を大きく逆転、打破したのが「新宿編」と呼ばれる、第12話から展開されたエピソードです。ここで『Gガンダム』の顔とも言うべきキャラクター「東方不敗マスター・アジア」が登場しました。その活躍は『Gガンダム』を「ガンダム」の呪縛から解き放ったともいうべきものだったのです。
ほかにも「ガンダム」シリーズ定番の仮面キャラクター「シュバルツ・ブルーダー」の登場、さらにヒロインである「レイン・ミカムラ」のファイティングスーツ装着という見せ場が続々と続きました。この展開で従来の「ガンダム」作品になかった、『Gガンダム』独自の面白さが、それまでのファンの意識を大きく変えたといえるでしょう。
さらに付け加えれば、従来のファン層とは違う層へも人気が広がっていったのも、この時期からかもしれません。それは「SDガンダム世代」と呼ばれる小学生層です。荒唐無稽に思えるほどの爽快なドラマ作りが、それまでのリアルゆえにわかりづらかった「ガンダム」シリーズへ興味を持つきっかけとなりました。
その勢いは掲載雑誌だった、講談社の月刊児童マンガ雑誌「コミックボンボン」の存在も大きく影響しています。「SDガンダム」の発信元だった「ボンボン」での評判が、人気に直結したと考えられるからでした。そして、この「ボンボン」で『Gガンダム』の漫画を連載していたのが、ときた洸一先生です。
ときた先生は以前から「ボンボン」で『プラモ狂四郎』や『超戦士ガンダム野郎』などのメカデザインを担当していた、いわば裏方にあたる存在でした。やがて『ザ・グレイトバトルIII』や『ガイアセイバー』といったゲーム原作のマンガを担当するようになり、本作『Gガンダム』のコミカライズで本格的なマンガ家デビューを果たしました。
このときた先生の画風が「ボンボン」での『Gガンダム』の人気を決定づけます。人気投票でベスト3に入るほどの支持を得て、おまけマンガとして描かれた『がんばれ!ドモンくん』も好評を得たことで、やがて同時連載の形となりました。この『がんばれ!ドモンくん』は好評だったことから、後のシリーズ『新機動戦記ガンダムW』『機動新世紀ガンダムX』でもタイトルを変えて続けられます。
ときた先生はその後もいくつかの「ガンダム」マンガを描いており、マンガというジャンルでの「ガンダム」シリーズへの貢献は計り知れません。これも、きっかけとなった『Gガンダム』が後世に残した偉業のひとつといえるでしょう。
もちろん『Gガンダム』が与えた影響はほかにもあります。本作が次世代のガンプラファンを増やしたことで、それまでのガンプラ愛好者をターゲットとしたハードル(組み立て難易度、価格)の高い商品「マスターグレード(MG)」の発売につながったと、「川口名人」として知られるBANDAI SPIRITSの川口克己さんが述べていました。
さらに主人公「ドモン・カッシュ」を演じた声優の関智一さんの熱演も忘れてはいけません。関さんにとって初主演となったドモン役は、独特のイントネーションと熱い叫びでファンから大きな支持を得ます。この後の関さんの活躍は、本作のドモンあってのものといえるでしょう。
しかし本作最大の功績は、以降の「ガンダム」シリーズを自由に構築できるほど大胆に改革したことでしょうか。シリーズというものは、どうしても従来の作品から激しく逸脱することを嫌うものです。その点で『Gガンダム』は、これまでとまったく違う「ガンダム」を提示しいました。その点で、これまでに『Gガンダム』ほど異質なガンダム作品はないでしょう。
結果的に多くのファンを生んだ『Gガンダム』。30周年の今年は、周年企画の展開が発表され、新たなキャラクターのデザイン画も公開されています。何が出ても『Gガンダム』だから、驚きこそすれ納得できない展開はないでしょう。
(加々美利治)
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