TVアニメに「キモい」主人公が増えた謎 地上波ギリギリのセリフが出てくる理由
マグミクス / 2024年4月16日 20時25分
■最近は「キモい」キャラクターが受け入れられている
近年、TVアニメでは「キモい」といわれるキャラクターたちが視聴者に普通に受け入れられるどころか、高い人気さえ獲得しているのは、なぜなのでしょうか? 2024年冬アニメだけでも『勇気爆発バーンブレイバーン』の「ブレイバーン」や、『ダンジョン飯』の「ライオス・トーデン」、『スナックバス江』の「森田」などが「キモい」キャラの例として挙げられます。
※この記事では『勇気爆発バーンブレイバーン』の物語の核心に触れる描写があります。
『勇気爆発バーンブレイバーン』の第2話で、ブレイバーンが主人公の「イサミ・アオ」に操縦されているときの感覚を、実に恍惚とした雰囲気で、官能的に語るシーンがありました。その様子は、実に「キモい」ものでした。
後に、ブレイバーンの正体が、戦死したはずの「ルイス・スミス」が、同じく破壊されたはずの淫蕩(いんとう)を司るデスドライヴズ「クーヌス」(CV:田中敦子)と融合したものだと判明したため、キモさの理由も分かりました。しかし、謎が明かされる前は、勇者の姿をしたロボットの口から不健全ギリギリのセリフが次々と飛び出てくることに実に驚かされたものです。
勇者ロボの口からは、勇者としての言葉しか出てこない時代を知っている人間としては、ブレイバーンのようなロボットの存在が受け入れられるのか、少々心配ではありました。ですが、SNSでの反応を見る限り、それほど否定的な発言は見当たらず、おおむね喜んで受け入れられていました。時代がより柔軟に、アニメを受け入れるようになった証左ともいえるでしょう。
さて、ブレイバーンのみならず、近年はさまざまな種類の「キモい」主人公が受け入れられるようになっています。現在も大人気放映中の『ダンジョン飯』でも、主人公のライオスは極端な魔物オタクです。普段は冷静沈着なリーダーとして振る舞いながらも、魔物のこととなると急に早口でしゃべり始めるため、仲間たちに「気持ち悪い」と思われています。
アニメではライオスの「キモさ」をより際立てるような動きや演出も意識的に行われており、動く鎧(よろい)を襲撃するシーンでは、一つひとつ冷静にパーツを引きはがしていくなどマッドサイエンティスト的な怖さが際立つようになっています。情熱のブレイバーンとは異なり、冷静に淡々とキモさを積み上げていくのがライオスの特徴といえるでしょう。
■なぜアニメのキャラがキモくなっているのか
個性的なキャラばかりの『スナックバス江』 (C)フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同
最近、いろいろな形で話題となっているTVアニメ『スナックバス江』にも、主人公ではないもののレギュラー出演している、森田というブレイバーンやライオスと異なるキモさのキャラがいます。
スナックバス江の常連客である森田は、空気が読めずデリカシーもないスケベな男です。エセ関西弁で話す、モテなさそうな外見の肥満体型という、実社会で居場所を見つけるのが実に難しそうなキャラクターです。自己評価が低い割に、妙に学がある上に品も良いのですが、女性からわずかでも肯定的な言葉を向けられると突然おかしなことを言い出します。そのため、良い目を見られないという宿命を持っている、実に味のあるキャラです。
それにしても、なぜ最近はこうもさまざまな形の「キモさ」を持つキャラクターが、アニメやマンガに登場するようになっているのでしょうか。
ひとつには、マンガやアニメの文化が浸透し、複雑かつ多様なキャラクターを受け入れる土台が広がり続けていることがあるでしょう。特にブレイバーンのようなキャラは、勇者ロボットが数十年かけて熟成された結果、生まれた存在だと思われるからです。
しかしそれ以外にも重要と思われる理由があります。それは、TV地上波のコンプライアンスが日に日に強化されているからではないでしょうか。
かつてのTVではレイザーラモンHG(ハードゲイ)のような際どいキャラクターが当たり前のように登場し、卑猥なポーズを披露して笑いを取り、人気を獲得していました。しかしいまでは「ハードゲイ」という言葉が使えなくなり、HGは「ホットガイ」の略称となっています。また、いまでも小島よしおは海パン一丁で芸を披露し、とにかく明るい安村は考えぬいたポージングで履いているパンツを見せないようにする芸で一世を風靡(ふうび)しています。ですが、このふたりはあくまでもパンツを使った「裸芸」であり、性差別とは思われないラインを踏み越えないようにしています。タレントが「キモい」と思われるラインを越えてしまうと、それだけで大きなダメージになりかねない時代が来てしまったのです。
その点、アニメも規制は年々厳しくなっていますが、現実と違い男女を融合するなどの力技で批判を回避することもまだ可能な状況で、「キモい」を生み出し、表現しやすくなっています。
現実の規制が厳しくなればなるほど、「キモい」の表現はアニメやマンガの独壇場となっていくのかもしれません。
(早川清一朗)
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