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『機動戦士ガンダム』本当に「戦いは数」なのか 現実とは異なる「宇宙世紀の戦場」

マグミクス / 2024年4月19日 6時25分

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■実はドズル自身が少数で戦いに臨んでいるわけだけど…?

「戦いは数だよ、兄貴」

 劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』のなかで、「宇宙要塞ソロモン」を守るジオン軍司令官「ドズル・ザビ」中将が、兄でジオン軍最高指揮官である「ギレン・ザビ」総帥に言った、名セリフです。

 実際、軍隊の戦力評価には「ランチェスターの法則」という数理モデルがあります。例えば100人の兵士と60人の兵士が、銃火器を用い一方が全滅するまで戦った場合、100人の側は残り40人ではなく80人、生き残るという考え方です。ここだけ見ると「戦いは数」は正論と感じます。

 しかし『ガンダム』の宇宙世紀では往々にして、「戦いは数」ではありません。名セリフを発したドズル中将自身にしても、「一年戦争」序盤の「ルウム戦役」では少数の側で勝利しています。

 ルウム戦役での地球連邦艦隊の戦力は、戦艦48、巡洋艦63、その他202隻で合計313隻でした。対するジオン艦隊は戦艦4、重巡洋艦26、軽巡洋艦53、その他56隻で合計139隻ですから、性能を考慮しない場合、ジオン軍艦艇数は連邦軍の44%に過ぎません。巡洋艦以上の戦闘艦艇では、111隻対83隻と差が縮まりますが、艦隊の主力となる戦艦数で48対4ですから、いかにジオンのグワジン級が、連邦のマゼラン級よりも高性能の戦艦とはいえ、連邦軍の勝利は疑いないほどの戦力差があるといえるでしょう。

 ところがルウム戦役後の残存艦艇は、連邦軍が313隻中42隻(巡洋艦以上36隻)、ジオン軍が139隻中96隻(巡洋艦以上58隻)ですから、ジオン軍の圧勝といえます。先述した通り、数の差を覆せないのがランチェスターの法則ですから、戦局を逆転させた「モビルスーツ」の威力はあまりにも大きく、宇宙世紀の軍備が以後、モビルスーツ中心に整備されるのは当然という結果です。

 劇中で「戦いは質」を顕著に示しているのは、『機動戦士ガンダム』第33話で描かれる、地球連邦軍ホワイトベース隊と、ジオン軍コンスコン艦隊の戦いです。連邦軍の強襲揚陸艦1隻、モビルスーツ3機、宇宙戦闘機2機に対して、ジオン軍は重巡洋艦1隻、軽巡洋艦2隻、モビルスーツ12機(テレビ版では18機説もあります)を投入しています。

 ジオン側は艦艇数で3倍、艦載機数でも2.4倍の戦力を投入していますから、艦隊を指揮する「コンスコン」が戦闘開始前に勝利を確信するのは当然です。しかし、超人的技量を持つ「アムロ・レイ」が操縦する「ガンダム」の活躍で、ジオン軍側は全滅し、地球連邦軍は損害なしで終わっています。

 ジオン軍が連邦軍の物量に敗れたといわれる地上戦「オデッサの戦い」でも、ジオン軍逆転の切り札である水爆ミサイルを、「ガンダム」が撃墜することで防いでいます。これがなければ、連邦軍は負けていたかもしれません。

■宇宙世紀の戦場は「量より質」なのか?

「1/550 ジオン軍モビルアーマー ビグザム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

 ドズル自身も「戦いは数」といいつつ、わずか1機のモビルアーマー「ビグ・ザム」で、十数隻の連邦軍艦艇を撃沈しています。「ビグ・ザム」の建造費はムサイ級軽巡洋艦3隻分とのことですから、稼働時間こそ短いものの、費用対効果としては「とても優れた兵器」と評価せざるを得ません。

 TV版でドズルは「ビグ・ザムより、ドムの10機でも送ってくれ」と言っていましたが、ムサイ級3隻や「リック・ドム」10機が、「ビグ・ザム」の代わりになったとは思えず、「ビグ・ザム1機で2、3個師団に相当する」と言ったギレンの判断の方が正しかったともいえます(ドムの10機も同時に送るべきでしょうが)。

「ガンダム」はこの「ビグ・ザム」を葬り、またモビルアーマー「エルメス」も葬っています。「エルメス」の「ビット(メガ粒子砲と推進機関を搭載した無人兵器。ニュータイプのパイロットが脳波で複数同時に動かせる)」によるオールレンジ攻撃は、地球連邦軍が全く感知もできず、多数の艦艇を撃沈されていました。もし「ガンダム」がいなければ、対処法もないまま、さらなる被害を受けていた可能性が高いです。

 つまり、個の精鋭がそこまで戦況を左右する以上、ホワイトベース隊がジオン軍のエースである「ランバ・ラル」や「黒い三連星」を葬り、高い実力を持つ「シャア」を拘束して、ほかの戦線に投入させなかったことは、「大変な貢献」といえるのかもしれません。戦後に大戦果を挙げたアムロを危険人物と見なし、幽閉するのもうなずける「戦力評価」といえます。

 そう考えるなら宇宙世紀での軍事予算配分は、エース部隊「キマイラ」のように、「圧倒的な実力を持つニュータイプやエースに与えるための高性能兵器開発と精鋭部隊の育成を重視すること」が正解であり、ほかの部隊は「戦線を維持できる程度でいい」となるはずです。

 実際、地球連邦軍はアニメ『機動戦士ガンダム0083』に描かれた時期までは大艦隊を展開していましたが、ジオン軍エースである「アナベル・ガトー」の「ガンダム試作2号機」に核兵器で攻撃されて壊滅しており、それ以降の戦いである『機動戦士Zガンダム』などでは大艦隊同士の艦隊戦はほぼ発生せず、「ガンダム・チームなどの少数精鋭と敵のエース格のモビルスーツが戦う」こととなりました。これは、「少数精鋭部隊に予算を重点配分するのが正しい」という結論から来たものだと考えられます。

 宇宙世紀はやたらと「試作モビルスーツ」が多いと話題にされることがありますが、これも「パイロットの実力をどれだけ発揮できるか」が戦争の勝敗を決める世界観の中では「正解」なのかもしれません。

(安藤昌季)

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