『Gマジンガー』主人公のモミアゲが細くなったワケ 大ヒットに垣間見る制作陣の苦悩
マグミクス / 2024年4月24日 7時25分
![『Gマジンガー』主人公のモミアゲが細くなったワケ 大ヒットに垣間見る制作陣の苦悩](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_226101_0-small.jpg)
■完璧過ぎた『グレートマジンガー』の主人公「剣鉄也」はなぜ戦力外に?
1974年9月1日、TVアニメ『マジンガーZ』最終回において、主人公の「兜甲児」および彼の駆る巨大ロボ「マジンガーZ」は、強大な敵に大苦戦していました。そこへ「剣鉄也」の搭乗する新型ロボ「グレートマジンガー」が現れ、この敵をものの数十秒で倒し、圧倒的な格の違いを見せつけます。その後、甲児はロボット工学を学ぶためにアメリカに渡り、鉄也は次の週から始まったTVアニメ『グレートマジンガー』にて主人公を務めるのでした。半世紀が経過してもなお語り継がれる、衝撃的かつ鮮やかすぎる主人公交代劇の顛末です。
ところが鉄也はその後、どうにも主人公らしからぬ「扱いの悪さ」が垣間見られるようになります。それはいわゆる「やらかし」のエピソードに加え、「グレートマジンガー」をタイトルに冠した劇場作品にもかかわらず出番がなかったことまであるほどです。劇場版や後の番組などに引っ張りだこだった甲児に対し、なぜ鉄也はそのように不遇だったのでしょうか。
空を飛べず水中も苦手な「マジンガーZ」が徐々にパワーアップしていったのに対し、「グレートマジンガー」は最初から空を飛べる完璧な存在です。鉄也自身も甲児の父である「兜剣造」博士に孤児院から引き取られ、「グレートマジンガー」に乗るパイロットとして長年、訓練を受けてきたプロフェッショナルでした。訓練なしで「マジンガーZ」に乗り込み、手探りで操縦を覚えていった甲児とはまるで違います。
原作者の永井豪先生は「魔神聖書 マジンガー・バイブル」(双葉社)のなかで、「グレートを作るときには『とにかくZの弱点をすべて補うもの』ということを念頭に置いていました。より強く、美しい完全なロボットを生み出したつもりだったんですが、(中略)グレートがあまりにも完全なものになり、鉄也ともども冷淡な印象しか与えなかったのです」と語っています。
国民的アニメ『ドラえもん』で例えると、「のび太」に代わって「出木杉」が主人公になるようなものでしょうか。欠点がなさ過ぎて「ドラえもん」の出番もなさそうです。
永井先生は続けて、「やはりアニメやマンガのキャラクターというものはどこかしらに欠点があり、それを克服していく要素を入れ込まなければいけないのでしょう」とも話しています。その完璧過ぎた鉄也のキャラクターには、物語の途中で修正が加えられており、22歳だった年齢設定は若い視聴者とのギャップがあるとして第19話から18歳に変更し、太いもみあげも細くなりました。
さらに、勝ち負けにこだわるあまりに、協調性を欠いて大きな失敗を招くという欠点が加わりました。
たとえば第32話「鉄也よ解け!! 心の謎を…!!」では、小学校時代、カナリヤを飼う親友の「サブロー」に対抗意識を持った鉄也が鷹をペットにし、あろうことかサブローがその鷹に目を突かれて失明、トラウマを抱えた鉄也は自ら記憶を封印していた、というエピソードが描かれました。
また同時期に上映された1975年春の「東映まんがまつり」の1作『グレートマジンガー対ゲッターロボ』では、「ゲッターロボ」のパイロットたちに対抗意識を燃やして功を焦ったために、かえってピンチを招いています。
■「グレートマジンガー」の映画なのに出番なし…?
確かに鉄也の姿は見えない。『UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー』ビジュアル (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
鉄也が取り返しのつかない大失敗をしてしまうのが、前後編で放送された第55話、第56話(最終話)のエピソードでした。
それ以前の第53話「偉大な勇者!! ファイト鉄也・ダッシュ甲児!!」から、鉄也はアメリカ帰りの甲児およびその甲児が搭乗する「マジンガーZ」と共闘することになりました。ところが、実の親子である甲児と剣造博士の関係を目の当たりにした鉄也は、自分のポジションが奪われるのではないかと危機感を抱き、次第に甲児に対抗意識を持つのです。
「わざと機械獣を逃がしてミケーネ帝国の本拠地を突き止める」という作戦が遂行されるなか、甲児の忠告を無視した鉄也は機械獣を破壊してしまいました。鉄也と甲児にわだかまりが生まれた隙を突かれ襲撃を受けた「マジンガーZ」と「グレートマジンガー」は、ともに戦闘不能へ陥ります。
絶体絶命で迎えた最終回では、敵の要塞「デモニカ」が「グレートマジンガー」に迫ったとき、剣造博士が科学要塞研究所の管制室ごと「デモニカ」に突入し、自分の命とひきかえに鉄也を救いました。最終的にはダブルマジンガーの攻撃で「デモニカ」にとどめを刺せたものの、剣造博士は亡くなり、鉄也自身も重傷を負ってしまいます。
鉄也は自分の浅はかな行動によって、甲児やシロー(甲児の弟)を孤児にしてしまったことを悔やみ、そして重傷を負いながらも、亡き剣造博士の愛に報いるために再起を誓うのでした。
こうして『グレートマジンガー』の物語は幕引きとなり、翌週より続編『UFOロボ グレンダイザー』の放送がスタートします。しかし、その後約1年半にわたり放送された同作において、「兜甲児」がレギュラーメンバーを務めた一方で、「剣鉄也」が再登場することはありませんでした。「懐かしのTVアニメ99の謎」(二見書房)によると、実は『グレートマジンガー』の最終回で鉄也を死亡させるプランもあったようです。死ななかっただけでもまだマシだったのかもしれません。
その後、1976年春の「東映まんがまつり」の1本『UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー』では、あろうことか鉄也は登場せず、甲児が「グレートマジンガー」を操縦しています。
鉄也が新規アニメ作品に再び登場したのは、1976年夏の「東映まんがまつり」の1本『グレンダイザー・ゲッターロボG・グレートマジンガー 決戦!大海獣』でのことでした。ただ、この作品でも甲児と衝突して険悪な空気となり、トラブルメーカーの役回りを担わされてしまいます。
このような扱いを受けていた鉄也と「グレートマジンガー」ながら、一方で番組視聴率や玩具の売上は共に『マジンガーZ』よりも好成績だったのです。なのに、なぜ鉄也はこれほど不遇をかこっていたのでしょうか。
制作に関わったダイナミックプロの菊池忠昭氏は、かつてムック本のインタビューに応じ、「グレートマジンガー」は『Z』最終回での初登場が最高すぎて、それ以上のことができなかった、といった趣旨の発言をしています。
最高の登場をした「グレートマジンガー」と鉄也を、その後どう演出すれば番組が盛り上がるのか、製作陣も扱いかねていたことがうかがえます。『UFOロボ グレンダイザー』にレギュラー出演した兜甲児や、海外でも人気を博した「デュークフリード」と比べて、剣鉄也は不運な主人公でした。
※本文の一部を修正しました(24日12時25分)
(LUIS FIELD)
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