『未来少年コナン』が生まれた怒涛の1978年 空前のSFブーム、伝説のアイドルのデビューも
マグミクス / 2024年4月28日 8時10分
■天才アニメーター宮崎駿監督の最高傑作
「アニメ界の生きる伝説」こと宮崎駿監督が、監督デビューを果たしたのが1978年のTVアニメ『未来少年コナン』(NHK総合)でした。このとき、宮崎監督は37歳。今なお、『未来少年コナン』を「宮崎アニメの最高傑作」と評する声もあります。
2024年5月24日(金)から、そのTVアニメ版『未来少年コナン』の第1話から第4話までが劇場公開されます。また、5月28日(火)からは舞台『未来少年コナン』も上演されます。加藤清史郎さんが「コナン」、影山優佳さんが「ラナ」、門脇麦さんが「モンスリー」という配役です。
多くのクリエイターたちに影響を与え続ける『未来少年コナン』が放映された1978年は、どんな年だったのでしょうか。振り返ってみると、現代とも密接に結びつき、ポップカルチャーシーンにおいて重要な1年だったことが分かります。
●マルチエンドの先駆け『さらば宇宙戦艦ヤマト』
高度に進化しすぎた文明に対する批評的メッセージ、自然児コナンの躍動を描いたアニメーションとしての醍醐味、巨大爆撃機「ギガント」に見るミリタリーものへの偏愛……。『未来少年コナン』全26話には、宮崎監督のすべてが詰まっていると言っても過言ではありません。
原作は米国の児童文学『残された人びと』ですが、ストーリーもキャラクターも思いっきり脚色されています。宮崎監督が原作を忠実にアニメーション化していたら、ここまで魅力的な作品にはなっていなかったでしょう。
第1話「のこされ島」で、孤島育ちのコナンは、海辺に漂着した少女ラナと出会うことになります。「おじい」に命じられたコナンは、ラナが着ていた衣服を小川まで洗いに行きますが、ラナの衣服に鼻を近づけて「変な匂い~!」と大はしゃぎするなど、早くも宮崎監督ならではのフェチぶりを感じさせます。
劇場アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が夏休みに公開され、前作の劇場版『宇宙戦艦ヤマト』(1977年)を上回る大ヒットを記録したのも1978年でした。主人公の「古代進」が「森雪」をともなって「白色彗星帝国」へと特攻するラストシーンは、賛否を呼びました。
しかし、『さらば』とうたいながらも、同年10月からはTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト2』(日本テレビ系)の放送が、しれっと始まります。また、TVシリーズの結末は、劇場版とは異なるものでした。『機動戦士Zガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』に先駆けた、マルチエンディングだったといえるでしょう。「デスラー総統」に似ていることを自負していた西崎義展プロデューサーの人気が絶頂期を迎えたのも、この年でした。
■『スター・ウォーズ』が招いたSFブーム
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1978年は、空前のSFブームが到来したことも特筆されます。スティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977年)が、2月に公開さました。空飛ぶ円盤との「第三種接近遭遇」を、ドキュメンタリータッチで描いた衝撃作でした。
そして、7月にはジョージ・ルーカス監督の話題作『スター・ウォーズ』(〈米〉1977年)がついに日本でも公開されます。
スピルバーグ監督とルーカス監督は、米国の映画界を一新させました。それまでは「ニューシネマ」と呼ばれるジャンルが米国では人気でした。ベトナム戦争に対する反戦メッセージや主人公たちがアンハッピーエンドを迎える作品が多いのが「ニューシネマ」の特徴でしたが、『未知との遭遇』と『スター・ウォーズ』は、これまでになかった新感覚の娯楽作品として迎え入れられたのです。スピルバーグとルーカスの登場が、「ニューシネマ」の時代を終わらせました。
とりわけ、日本の時代劇からも影響を受けている『スター・ウォーズ』は、日本人に不思議なデジャブ感を与えました。鎧武者のような「ダース・ベイダー」を真似て、子供たちはライトセーバーごっこに夢中になりました。
米国で大ヒットした『スター・ウォーズ』の日本公開を前に、あわてて東宝は『惑星大戦争』(1977年)、東映は『宇宙からのメッセージ』(1978年)を公開します。喫茶店に置かれたビデオゲーム「スペースインベーダー」が、大流行したのも1978年でした。
●「新時代のアイドル」薬師丸ひろ子
新時代の到来を予感させるSFブームと相反するように、ある「都市伝説」が日本中を震撼させました。「口裂け女」の噂が子供たちの間に広まり、「口裂け女はポマードの匂いが嫌い」「実は3姉妹らしい」などとディテールが加わりながら、全国へと伝播していきます。大人の知らない、子供たちだけの世界があることが浮き彫りになった年でもあったのです。
もうひとり、都市伝説級の美少女が芸能界デビューしたのも、1978年です。薬師丸ひろ子さんが、オーディションで選ばれた角川映画『野性の証明』(1978年)で女優デビューを果たしています。黒目がちな大きな瞳が印象的で、たちまち新時代の人気アイドルとなりました。
また、『未来少年コナン』に絵コンテで参加していた富野喜幸(富野由悠季)監督が手がけた、TVアニメ『無敵超人ザンボット3』(テレビ朝日系)に続き、『無敵鋼人ダイターン3』(テレビ朝日系)が放送されたのもこの年です。シリアス調だった『ザンボット3』から一転して、『ダイターン3』はコメディタッチの快作になっていました。独特な余韻を残す最終回でした。
そして、富野監督は翌年の『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で、いよいよアニメ界における新時代の扉を開けることになるのです。
※記事の一部を修正しました。(2024年4月30日 11:09)
(長野辰次)
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