「スパロボ」で知った『聖戦士ダンバイン』の無情な結末 富野由悠季監督「らしさ」
マグミクス / 2020年2月4日 7時10分
■『聖戦士ダンバイン』との出会いは『スーパーロボット大戦』
1983年から1984年にかけて放送されたロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』(以下、ダンバイン)は、ゲーム『スーパーロボット大戦』シリーズへの参戦で大きな知名度を得ました。本放送時はほとんど見ることはできなかった『ダンバイン』に『スーパーロボット大戦EX』で出会い、オーラバトラーの強さの虜となったライターの早川清一朗さんが、同作の魅力について語ります。
* * *
「うわ、ビルバイン回避しまくり!」
「ビーム完全無効ってなんだそれ!」
「オーラ斬り強すぎだろ……」
『スーパーロボット大戦EX』でダンバインをはじめとする各種のオーラバトラーを使った時、その防御力と攻撃力に驚かされたのを覚えています。回避力、防御力共に高い上にビームを完全にはじくオーラバリアがあり、気力が上がると分身して50%の確率で攻撃を無効化し、オーラ斬りやハイパーオーラ斬りで敵ユニットをなぎ倒す、とても頼りになる存在でした。『第4次スーパーロボット大戦』でも引き続き登場し、オーラバリアこそ弱体化していたものの、やはり圧倒的な性能を見せて活躍してくれました。
さて、実は筆者は本放送時に『ダンバイン』をほとんど見たことがありません。土曜の夕方から放送されていたのは知っていたのですが、この頃スイミングスクールに通っていたため、見ることはできなかったのです。当時は家庭用ビデオデッキの普及率も低く、インターネットは影も形もないため配信もありません。アニメは放送時間にTVの前に陣取り、家族とのチャンネル争いに勝利して初めて見ることができるものだったのです。
『スーパーロボット大戦』シリーズをきっかけに『ダンバイン』に興味を持った筆者はなんとかアニメを観てみたいと思い、知り合いを当たってTV録画している人を探しましたが、残念ながら見つけることはできませんでした。まだDVDやBlu-rayのボックスが一般的に発売されるような時期ではなかったので、古いアニメを観るには再放送に頼るか、TV放送を録画している人を探す、もしくは高価なレーザーディスクを手に入れる必要があったのです。
そんな状況が変化したのは1995年の9月でした。この年の3月に『第四次スーパーロボット大戦』が発売されたのでその影響でしょうが、VHSビデオで『ダンバイン』が発売されたのです。
■精いっぱい生きようとする『聖戦士ダンバイン』のキャラクターたち
プレイステーション用ソフト『スーパーロボット大戦EX』(バンプレスト)
最初に驚かされたのは、1話で主人公機であるはずのダンバインに乗っていたキャラクター、トカマクがあっさり撃墜されて墜落死したことでした。
『スーパーロボット大戦』シリーズのイメージが強かったこともあり、このシーンには「え? ダンバインってこんなあっさりやられるの?」と唖然とさせられました。
その後もさまざまなキャラクターが次々と現れては亡くなる光景に、小さい頃に観た『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』を連想したので調べてみれば、監督は同じ富野由悠季氏。富野監督が「皆殺しの富野」と呼ばれるほどに登場人物を退場させるタイプの方だと認識したのがこの時だったと思います。子供の頃は当然、誰が監督かなんて、気にしたこともありませんでした。
また、特に印象に残った点としては、中世ファンタジー風の世界観のなかを、オーラバトラーが闊歩している不思議な光景です。今でこそ中世ファンタジーは認知度を上げていますが、日本にファンタジーを普及させる大きな原動力となった『ロードス島戦記』の1巻は1988年刊行なので、『ダンバイン』当時は人びとにあまり馴染みがないジャンルだったのではないでしょうか。富野監督のチャレンジ精神が強くうかがえます。
登場人物の生々しさも、子供向けとは思えない点がありました。野心をむき出しにしながらもどこか人間臭さを残しているアの国の国王ドレイク・ルフト。その妻ルーザはクの国の王ビショットと不義の関係にあり、娘のリムルは敵対勢力であるニー・ギブンの元へ走り両親と戦います。主人公のショウ・ザマは両親と不仲で、父親は不倫中。ライバルのバーン・バニングスはショウを討とうとしますが果たせず「私は騎士の出のはずだ!」と涙を流します。トッド・ギネスは出世のため、母親に良い生活をさせてやりたいと戦いに身を投じ、激戦の末に散りました。
『ダンバイン』をすべて見終えた筆者が感じたのは、皆、自分の人生を精いっぱい生きようとする人間だったのだ。皆が自分の全てをかけて戦い、無情な結末を迎えたのだという寂寥感でした。大変な傑作であると感じましたが、子供の頃の自分が観ていたら面白いと感じたかは正直怪しいとも思えます。
もしも昔、『ダンバイン』を観て「つまらない」と感じた方がいらしたら、今改めて観ることをお勧めします。あの頃は分からなかった面白さが、理解できるようになっているかもしれません。
(早川清一朗)
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