流行がタイムリープ→異世界転生へ 人間の「欲深さ」で変化も?
マグミクス / 2024年5月13日 20時25分
■時間をテーマにした作品は名作ぞろい
アニメやマンガ、小説において、「時間移動」は繰り返し語られてきたジャンルといえます。誰もが一度は抱くであろう、「最善の未来を選択したい」「過去の過ちを精算したい」といった、願望をテーマにした作品は数多いです。この記事は高い評価を獲得したタイムリープ作品を紹介し、そこに共通する人類普遍の願望について考えてみます。
●シュタインズ・ゲート
『シュタインズ・ゲート』は過去の過ちを精算し、理想の未来へ到達するため過去改変を繰り返す物語です。本作は2009年にXbox 360でリリースされたアドベンチャーゲームで、その人気の高さから複数のゲームハードに移植され、アニメ化や映画化も果たしました。
主人公の「岡部倫太郎」は「牧瀬紅莉栖(まきせ くりす)」の死を回避するため、偶然作ってしまったタイムマシン「電話レンジ(仮)」によって、メールや意識を過去に飛ばして何度も過去改変を試みます。問題となりうる行動を変化させることで「世界線の移動」を引き起こすのです。しかしその行動は思わぬバタフライ効果を及ぼし、やがて世界の運命を左右する大きな問題へと発展していきます。
何度タイムリープをしても悲劇を回避できなくて心が折れそうになったり、タイムリープの余波で大事な人を傷つけたりする困難を乗り越え、「すでに観測してしまった過去を変更せずに未来の結果だけを変える」という難問を解決する展開には胸が熱くなります。情緒とロジカルな思考が見事に融合した名作です。
●魔法少女まどか☆マギカ
時間を移動することで過ちを精算する作品として、2011年にTV放送され大ヒットした「まどマギ」こと『魔法少女まどか☆マギカ』も外せません。本作でも「暁美ほむら」が「鹿目まどか」の救われる未来を目指して何度もタイムリープを繰り返しています。
しかし前述の『シュタインズ・ゲート』のように、根性とアクロバティックな発想で解決したりしません。実は「ほむら」がタイムリープを繰り返す行為そのものが「まどか」の運命と大きく関わっていたからです。タイムリープによる救済行為は「愛」なのか「執着」なのか、物語は時間軸の把握や過去の行動のコントロールといった、「知的な問題解決」の枠をはるかに超えた地点へと着地します。
そして続編となる『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』では、TV放送版の結末をひっくり返す衝撃のクライマックスを迎えました。2024年冬には『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』が公開予定です。きっと「やり直し」行為を伴う「愛」と「執着」のテーマがさらに深堀りされるでしょう。女児向けアニメを思わせるタイトルとは裏腹に深い情念がこもった作品です。
■タイムリープと異世界転生の共通点とは
タイムリープは思春期の少女にはよくあること?時間の大切さと未来への希望が詰まった名作 画像は『時をかける少女』Blu-ray(角川エンタテインメント)
●時をかける少女
現代日本におけるタイムリープ作品の草分けともいえるのが、1965年に連載が始まった筒井康隆先生による『時をかける少女』です。本作は複数回にわたって映像化されており、細田守監督による2006年のアニメ版を含めて、それぞれ細部や舞台設定が原作と異なります。
しかしどの作品も、思春期の少女が偶然手に入れたタイムリープ能力によって、起きてしまった事故をなかったことにしたり、葛藤したりする点は共通しています。青春と時間の貴重さ、希望の予感を力強く描いており、半世紀にわたって愛され続けるのも納得ですね。
●タイムリープは異世界転生と同じ願望?
数あるタイムリープ作品からわずか3作品だけを紹介しましたが、どの作品にも共通しているのは「すでに起きてしまった好ましくない出来事を改変する」という点です。作品ごとにタイムリープする動機や過去改変のルールが異なっていますが、結果を変えたいという動機は共通しています。これは人類普遍の願望であるため、強力なテーマになります。
そしてこの願望を更に先鋭化させたものが、昨今流行している異世界転生系作品ではないでしょうか。タイムリープ作品は事故や恋人など、変えたい問題が明確です。裏を返せば、その問題さえなければうまくいくという希望があります。
しかし自分自身や社会が問題だと感じた場合、どこを改変するべきか、どの時点まで戻れば希望のある未来に到達できるのか明確になりません。しかも未来に希望を感じられないので、確定した結果が欲しいのです。
だから世界を丸ごと改変し、場合によっては自分自身すら別人となるアイデアとして異世界転生が選ばれ、流行っているのではないでしょうか。しかも管見の限りにおいて異世界転生系作品はタイムリープ作品よりもはるかに数多く、しかも現在進行系で増え続けています。異世界転生作品の多さは「やり直し」を希求する声の反映なのかもしれません。
(レトロ@長谷部 耕平)
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