小学生の女の子が『推しの子』展に殺到した理由 少女たちが観るアニメがない?
マグミクス / 2024年5月16日 19時10分
■「【推しの子】展」の入場者で目立った層とは?
2024年7月からTVアニメ2期が放送される『【推しの子】』は、本来のターゲットは青年層でしょう。ですが、小学生の女の子からも高い人気を獲得しています。なぜ、女の子たちは『【推しの子】』に夢中になっているのでしょうか?
2023年4月にTVアニメ1期がスタートした『【推しの子】』は、放送当初から高い注目を集めました。YOAOBIが担当したオープニングテーマ曲の「アイドル」が2023年6月10日付の米ビルボード・グローバル・チャート「Global Excl. U.S.」(Billboard Global 200から米国を除外したチャート)で首位を獲得するなど、圧倒的な人気を振りまきながら終幕を迎えました。放送終了後、即座に2期の制作が発表されたのも当然でしょう。やらない理由がありません。
通常、アニメは放送が終了すると、すぐに次のクールの作品に話題が移り変わるものですが、『【推しの子】』は原作も興味を引く展開が続いています。TVアニメ2期もすでに発表されていることもあってか、2023年のNHK紅白歌合戦で「アイドル」が披露されるなど、話題が絶えない状態が続いています。
その流れを受けて、さらにほぼ間違いなくTVアニメ2期への弾みを付けるため、2024年に入り、『【推しの子】』1期の全体像を振り返る「TVアニメ【推しの子】展~推しの舞台裏~」が日本各地で開催中です。
筆者も東京会場をのぞいてみましたが、そのとき気になるポイントがありました。小学生の女の子がかなり多かったのです。
『【推しの子】』は原作が集英社「週刊ヤングジャンプ」(原作:赤坂アカ、作画:横槍メンゴ)連載のマンガであり、「ヤンジャン」の対象年齢は18歳から23歳とされています。もちろんもっと年下でも、対象年齢を遥かに超えていても、日本ではアダルト指定されていないかぎり読むのも見るのも自由です。
そもそも子供とは、少し年上の世界に憧れるものでしょう。「星野アイ」がアイドルとして派手なライブシーンで活躍する姿を、小学生の女の子たちが見たくなる気持ちは分かります。アイが16歳で子供を産むというインモラルな展開を見せていいのかどうかは意見が分かれるかもしれませんが、かつて集英社「りぼん」で連載された『NANA』(作:矢沢あい)が際どい描写が多い作品でありながら大人気となったことから考えても、致命的な問題にはならないのでしょう。
■『プリキュア』を卒業した女の子を対象とした作品がない?
現在放送中の「プリキュア」シリーズ最新作『わんだふるぷりきゅあ!』 (C)ABC-A・東映アニメーション
ただ、ひとつ気になる点も存在しています。それは、「最近は小学生の女の子を対象としたアニメは放送されているのか?」という問題です。
女の子向けアニメといえば、「プリキュア」シリーズがありますが、対象年齢は4歳から9歳までとされています。では10歳から12歳、13歳から15歳の女の子を対象にしたTVアニメとは何なのでしょうか。
数年前までは、データカードダスを原作としていた「アイカツ!」シリーズや、アーケードゲームと連動した「プリティシリーズ」など複数の作品が放送されており、「プリティシリーズ」は今なお最新作『ひみつのアイプリ』が放送されています。しかしハイティーンの女の子は基本的により上の世代へと背伸びしたがるものです。この要求に応え得る力を持った覇権コンテンツが存在していれば、最初からハイティーンの女の子を対象に作られたコンテンツは不利を余儀なくされてしまうでしょう。
特にいまの若い人にとってアニメやゲームは重要な「コミュニケーションツール」であり、学校という同じ空間で同じ人と時間をともにするときは、「同じ時期に同じものを見て、同じ体験をする」ことが重要となります。この需要にこたえる力を持った作品が、『【推しの子】』だったのではないでしょうか。
バンダイナムコホールディングスの2024年3月期決算資料(IP別売上高)によれば、「プリキュア」シリーズ売り上げは64億円とのこと。「スーパー戦隊」の65億円とほぼ同額ですが、『アンパンマン』の101億円どころか、『ドラゴンボール』の1406億円や「機動戦士ガンダム」シリーズの1457億円には遠く及びません。「プリキュア」は人気のあるシリーズですが、対象世代が狭いこともあり、売り上げではほかのタイトルにはなかなか及びません。よりさまざまなことに興味を持つハイティーン世代向け作品となれば、さらに仕掛けが難しくなるのは確実でしょう。
かつて『アイカツ!』や「プリティシリーズ」が人気を博していた時期は、まだアニメの海外配信が主流になる前でした。アーケードとの連携を軸としていた作品は、海外での展開に大きなハードルを抱えてしまうのも確かです。ハイティーンの少女向けアニメの展開は、新たなジャンルとしての開拓が必要な時期に来ているのかもしれません。
※本文の一部を修正しました。(2024.5.17 23:30)
(早川清一朗)
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