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【地上波初放送】映画『翔んで埼玉』 ギャグの裏に隠された、意外な「テーマ性」とは

マグミクス / 2020年2月8日 7時10分

【地上波初放送】映画『翔んで埼玉』 ギャグの裏に隠された、意外な「テーマ性」とは

■大ヒットを支えたのは「埼玉県人」

「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」

 徹底的に埼玉県人をディスったセリフの数々で話題を呼び、興収37.6億円の大ヒットを記録した『翔んで埼玉』(2019年)が、2020年2月8日(土)21:00からフジテレビ系で地上波初放映されます。完全ノーカット放映ということなので、原作者・魔夜峰央さんと魔夜さんファミリーが登場する冒頭のダンスシーンから、エンディングに流れる「埼玉県のうた」までしっかり楽しむことができそうです。

 魔夜峰央さんが1983年~84年に発表した同名マンガを実写映画化した『翔んで埼玉』は、「埼玉県民は通行手形がないと東京都に入ることが許されない」など、埼玉県民が理不尽なまでに迫害される、もうひとつの世界を描いたコメディドラマです。

 ややもすれば地域蔑視や出身地ヘイトだと騒がれかねない内容なのですが、埼玉県民の救世主となる「隠れ埼玉県人」の高校生・麻美麗に46歳になるGACKT、麗に恋心を寄せる美少年・百美に二階堂ふみ、とフィクション度の高い配役もあって、炎上することなく劇場公開されました。

 映画『翔んで埼玉』の見どころは、『のだめカンタービレ 最終章』(2009年、2010年)や『テルマエ・ロマエ』(2012年、2014年)も大ヒットさせた武内英樹監督が見せる、振り切ったバカバカしい演出の数々です。

 通行手形の撤廃を目指す麗が率いる「埼玉解放戦線」は、阿久津(伊勢谷友介)をリーダーとする「千葉解放戦線」と江戸川を挟んで対峙することになります。エキストラ500人、デコトラ20台、デコバイク20台を動員した大掛かりなモブシーンですが、ここで繰り広げられるのは何とカードバトル。どちらの県がより有名人を輩出したかを競い合うことになるのです。この邦画史上空前とも言えるおバカ対決は、映画『翔んで埼玉』を象徴するシーンとなっています。

 郷土愛を持つことができずにいる埼玉県人に向かって、麗が罵倒するシーンもインパクトがあります。「埼玉県人が何と呼ばれているか知っているか? ダサイタマ、クサイタマ、ウサンクサイタマ……」とエンドレスで愛ある麗の暴言が続きます。

 そんな映画『翔んで埼玉』の大ヒットを支えたのが埼玉県民です。埼玉県だけで10億円以上の興収を記録しています。埼玉県民はジョークを理解し、とても寛容力のある県民性のようです。しかし、『翔んで埼玉』の何が、埼玉県人をはじめとする現代日本人の心に引っ掛かったのでしょうか?

■ハリウッド大作『ジョーカー』に通ずるテーマ性?

魔夜峰央氏による原作マンガ『翔んで埼玉』(宝島社)

 映画『翔んで埼玉』は興行的に成功しただけでなく、第62回ブルーリボン賞作品賞を受賞し、さらには第43回日本アカデミー賞でも優秀作品賞ほか最多となる12部門で優秀賞に選ばれています。コメディ映画がここまで賞レースを賑わせることは異例のこと。今回の日本アカデミー賞受賞作品を俯瞰してみると、あることに気づきます。

 同じく優秀作品賞に選ばれた人気コミックの実写化映画『キングダム』は、戦乱が絶えない古代中国で奴隷の身分から将軍を目指す若者、信を主人公にした歴史アクションものです。優秀アニメーション作品賞の『天気の子』は、社会福祉に頼らずに自分たちの力で生きようとする少年少女たちの姿を描いた恋愛ファンタジーです。優秀外国語作品賞には、ホアキン・フェニックスの怪演が話題となった『ジョーカー』が選ばれています。『翔んで埼玉』も含め、これらの作品はどれも「格差社会」をテーマにしていることで共通しています。

 映画は「時代を映し出す鏡」であり、ヒットした映画には、その時代を生きた大衆の心理が投影されていると言えるでしょう。『キングダム』は時代もの、『天気の子』はファンタジーアニメ、『ジョーカー』はバイオレンス色の強いサスペンスとして、それぞれ現代社会で深刻化している格差問題を扱っています。

『翔んで埼玉』は、そんな格差社会を笑い飛ばしたコメディだと解釈することも可能です。マウンティング化された職場や学校で忖度しながら過ごすことにお疲れ気味な人たちは、誰にも気兼ねすることなく思いっきり大笑いできるものを欲していたのではないでしょうか。自虐的な埼玉県民の姿に笑いながらも、地域格差を煽る東京の為政者に埼玉県民たちが怒りを爆発させるクライマックスは、爽快さを感じさせるものとなっています。

 名作と呼ばれる映画には、観た人がそれぞれ独自の解釈を楽しむ「深読み」の面白さがあります。『翔んで埼玉』は名作というよりも迷作(もしくは珍作)と呼んだほうがふさわしいかもしれませんが、主演した二階堂ふみとGACKTは共に沖縄生まれです。沖縄には米軍基地をめぐる問題が今も残されています。それまで虐げられてきた民衆がいっせい蜂起する『翔んで埼玉』のクライマックスは、『ジョーカー』の後半の怒涛の展開にも重なりますし、現実に日本各地で起きている地域格差をめぐる問題も彷彿させるものがあります。

 おバカなコメディと思われがちな『翔んで埼玉』ですが、意外と日本人の深層心理に訴えかけるものがあったのかもしれません。

※映画『翔んで埼玉』は、2020年2月8日(土) 21:00~23:20、フジテレビ「土曜プレミアム」枠で放送されます。

(長野辰次)

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