いつから「ザク」は「ザクII」になったの? 歴史を振り返ると見えてきた誤解のワケ
マグミクス / 2024年5月21日 6時25分
■後出し設定により名前が変わってしまった「ザク」
時に、名前を誤ったまま覚えてしまうということはよくあります。それには間違えた理由というものがあるわけで、さかのぼって調べてみると、意外な事実が見えてくることもありました。
筆者が最近になって気づいたことのひとつが、「MS-06」を「ザクII」と呼ぶようになったことに関して、人によってタイムラグがあるということです。これはどうしてでしょうか。
『機動戦士ガンダム』放送中まで話を巻き戻しましょう。この時は「MS-06」といったMS(モビルスーツ)の型式番号は設定されておらず、ザクは「ザク」と呼ばれていました。このザクにMS-06という型式番号が設定されたのは、劇場版第1作『機動戦士ガンダム』のパンフレットといわれています。
ちなみに旧式にあたる「MS-05」は、TV版では特に名前の設定がされておらず、唯一の登場話である第3話「敵の補給艦を叩け!」では、「ザク」としか呼ばれていません。もっとも当時の設定資料には「旧ザク」と記されており、雑誌などでは「旧ザク」として表記されていました。
こうした状況に一石を投じたのが、「ガンダム」世界の設定基礎となった書籍「ガンダムセンチュリー」(みのり書房/1981年)です。この書籍によってさまざまな設定が考察されました。その中でザクに関しても、その後の設定に関する様々な考察が掲載されています。
ここで、これまで「ザク」と呼ばれてきたMSは「MS-06 ザクII」とされ、旧ザクは「MS-05 ザクI」となりました。さらにザクIIのバリエーションもいくつか発表され、外見的には変わらなくてもTV版に出てきた汎用型が「MS-06F」、地上用に生産されたものは「MS-06J」となります。
本来なら、雑誌主導で作られた設定は公式とは言い難いのですが、まだ時代がゆるやかだったこともあって、いつしか「ガンダムセンチュリー」に書かれた記述が公式のものとなりました。ただ、型式番号は公式で独自に進めていた部分もあり、違った部分も出てきてしまいます。しかし、現在では「ガンダムセンチュリー」で発表された型式番号が正式なものとなりました。
もっともこういった経緯があっても、ガンダムファンすべてが「ガンダムセンチュリー」を読んでいたわけではなく、一般的には「ザク」と「旧ザク」という呼び方が普通だったと思います。型式番号や「ザクII」といった呼び方は、メカニックな部分に魅力を感じる一部の人が使っていたというところでしょうか。
しかし、この情報が一気に浸透する出来事がありました。それがバンダイで発売していたガンプラ、いわゆるガンダムのプラモデルで新たに発売できるMSがなくなったことです。この状況を打破するために生まれたのが、「ガンダムセンチュリー」で文字設定だけあった「MSV(モビルスーツバリエーション)」でした。
映像では出てこなかったMSVをよく知ってもらうため活躍したのが、模型店などで販売されていた「模型情報」という小冊子です。こういった小冊子でMSVのくわしい設定が公開されました。その設定のもととなったのが前述の「ガンダムセンチュリー」で、このことがきっかけで一気にMS関係の設定は広まることになります。
もっとも、興味のない人間にはチンプンカンプンな情報だったのか、このMSVがきっかけで、とある名前を誤認する子供たちが現れることになりました。
■子供たちが誤解した「ザクII」という名前
1985年発売のキット。確かに「II」と表記されてしかるべきところではあるかも。「1/144 ザクマインレイヤー」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
誤認された名前。それはMSV最初のガンプラとして発売された「1/144 MS-06R ザクII」という商品名です。実は、この表記に間違いはひとつもありません。表記されている名前に誤字はひとつもないのですが、あえて言うのならば、正確な表記ではなかったということでしょうか。
このMS-06Rは、現在では「高機動型ザクII」というのが一般的です。しかし当時は「高機動型」という表記はほとんどなされず、「MS-06R」に「ザクII」と続く表記がほとんどでした。つまり、この言葉足らずが誤解を生んだわけです。
これでは「ザクII」とは「MS-06R」のことと思い込む人も少なくありません。ちなみに同時期に発売されたザクバリエーションは「MS-06K ザクキャノン」「MS-06D ザクデザートタイプ」「MS-06M 水中用ザク」となっていて、「ザク」だけではないプラスαの名前が付けられていました。
しかも誤解を増長することがほかにもありました。通常のザクIIのバックパック変更仕様である「MS-06F ザクマインレイヤー」です。ザクキャノンなどのように個別の型式番号が振られたものではなく、いわゆる汎用型である「MS-06F」の範疇にあるものという扱いであり、そして本来ならば「ザクIIマインレイヤー」のはずですが、すっぽりと「II」がありません。
逆に、ほかにも発売されたR型のガンプラを見ていくと、すべてが「ザクII」と表記されています。これではTV版のザクは「ザク」、R型は「ザクII」という思い込みをしても無理はないかもしれません。
もちろん、そのような思い込みはしていないという人もいると思います。筆者もそのような誤解はしませんでした。しかし、一部のガンダムファンの中から「ザクIIはR型のはずだったのに、いつの間にか普通のザクのことになった」という意見を時折、目にします。これに関しては検証した通り、事実が変わったというわけでなく、当時の記述が紛らわしかったということでしょうか。
一番の問題は、通常のMS-06をザクIIと表記するガンプラを出せなかったことにあるかもしれません。ちなみに、上述した「高機動型」以外で「ザクII」という名前がガンプラで使われたのは、1996年に販売されたOVA『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の「RX-79 ガンダム VS MS-06J ザクII」が初めてになります。
ブームだった「SDガンダム」のころの「カードダス」でも、「MS-05 旧ザク」「MS-06 ザク」「MS-06R ザクII」という表記がほとんどでした。これでは当時の子供たちが誤解したままでも無理はありません。
もっとも個人的には、どうして当時の担当者は「ザク」と「ザクII」という誤解しそうな表記を続けたのか、という点に疑問が残ります。この謎に関して新たな真実が明かされることはあるのでしょうか。
(加々美利治)
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