ソーシャルゲームが続々開発中止のワケ 「儲からなければサービス終了」には落とし穴が?
マグミクス / 2024年5月23日 17時47分
![写真](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_232679_0-small.jpg)
■業界大手がソシャゲの開発を中止している?
近年、スクウェア・エニックスやバンダイナムコホールディングスなどの業界大手が次々とゲームの開発を中止しています。いずれも明確なタイトルは明らかになってはいませんが、複数のソーシャルゲームが含まれているようです。なぜ企業は投資を無にする覚悟で、開発を中止したのでしょうか?
スクウェア・エニックスが2024年5月13日に発表した2024年3月期決算は、衝撃的なニュースとして受け止められました。デジタルエンタテイメント関連の一部主要コンテンツ開発を中止したために生じた、コンテンツ等廃棄損220億8700万円が特別損失として計上されていたのです。
これに先立ち2月には、バンダイナムコホールディングスが2024年3月期第3四半期決算において、オンラインゲームの新作などに関わる評価損及び、タイトル編成の見直しに伴う開発中止による処分損約210億円を計上しています。
タイトルこそ明確にはなっていませんが、両企業とも開発を中止したタイトルのなかに、ソーシャルゲームが含まれていることは明確です。近年はソーシャルゲームが「当たれば非常に儲かる」と考えられており、多くの企業が先を争うようにして、多くのタイトルを開発しては世に送り出し、大半は顧みられることなく消えていきました。
なぜ、「当たり」を求めてゲームを乱造する事態となったのでしょうか。その理由は、ソーシャルゲーム及びブラウザゲームは、大型化が進むコンシューマゲームのなかでも比較的開発費が安く、また早く作れるという点があります。どんどん作り、当たったタイトルにリソースを集中して課金を呼び込み、人気のないタイトルは即終了するやり方でも、利益が出ていたのです。
特に新型コロナウイルス禍の状況下では、屋内にこもる人が非常に多かったことも、市場を後押ししました。屋外の娯楽にお金を使えない人が、課金にお金を回すようになっていたのです。
しかし、いまソーシャルゲームには逆風が吹いています。皆が普通に外出できるようになったこともありますが、それ以上に「サンクコスト」が重要な問題になっているのです。
■「サービス終了」が負の連鎖を引き起こした
ひとりの人間が遊べるゲームタイトルには限りがある(画像:Photo AC)
サンクコストとは「いままでつぎ込んだお金や時間、労力を惜しむ」気持ちが、意思決定に影響を与えることを指します。
現代人は忙しい上に、ゲーム以外にも膨大な量の娯楽があり、可処分時間の奪い合いが発生しています。ソーシャルゲームはプレイにそれなりの時間がかかるため、あまり多くのタイトルを遊ぶことはできません。個人差はありますが、社会人ならひとりにつき、2タイトル前後がせいぜいでしょう。
そして世の中には、すでに高い評価を受け、多くのユーザーがプレイしているタイトルが複数存在しています。膨大な数のソーシャルゲームやブラウザゲームが消えてゆくなかで生き残ってきたタイトルは、お金と才能と労力をどんどんつぎ込み、さらに優れたコンテンツとして昇華されて行きました。
いままで遊んできた面白いタイトルを止めてまで、新しいタイトルを遊ぶのか? と問われれば、多くの人が「NO」と答えるでしょう。遊んだとしても、無料で遊べるさわりだけになる可能性が高いと思われます。新しいタイトルが「可処分時間」を獲得するのは、極めて難しい状況となっているのです。
加えて、儲からないタイトルをすぐにサービス終了するスタイルは、ユーザーの信用を大いに損ないました。ユーザーが「あの企業のタイトルはすぐにサービス終了するから、課金は止めておこう」と考える、負の連鎖を引き起こしてしまったのです。エンターテイメントはユーザーを楽しませるものであり、不安を与えるものであってはいけません。ここに、大きな判断ミスがあったと思えます。
ゲームとは、娯楽とは、まず楽しさ、面白さを提供するのが第一です。ユーザーは「楽しい!」「面白い!」と感じたときにお金を払ってくれるものです。それが分かっている企業は、優れたクリエイターによる、コンテンツのブラッシュアップとアップデートを欠かしません。宣伝もまめに行い、リアルイベントを開催してユーザーに「実体験」を提供し、コンテンツとユーザーの一体化を推し進めています。
結局のところ現在は、新作を乱発する意味はほぼなくなっており、リソースを集中して力の入ったタイトルを開発、維持する方向にシフトするフェーズに入ったと考えて良いと思われます。よりハイクオリティなソーシャルゲームを遊べると考えれば、決して悪い話ではないはずです。
(早川清一朗)
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