前代未聞「未完成です」 25年前の崩壊アニメ映画『GUNDRESS』の上映が止められなかった謎
マグミクス / 2024年5月24日 7時25分
■映画館に貼り紙「お詫びとお断り」
制作がギリギリで、なんとか公開日に間に合ったアニメ映画は、『宇宙戦艦ヤマト・完結編』『火垂るの墓』『機動戦士ガンダムF91』など、多数あります。しかし、公開直前に「未完成です」と公言された作品があったことをご存じでしょうか? いまから25年前、1999年3月公開のアニメ映画『GUNDRESS(ガンドレス)』で珍事は起きました。なぜ未完成のまま、映画は公開されたのでしょうか?
1999年3月20日の一般、スポーツ新聞に仰天の記事が出ました。各社は、「未完成のまま、本日映画公開へ。『GUNDRESS』は約90分の本編に、線画だけの部分やセリフ、効果音が動画と合っていないなど未完成部分が100カット以上あるが、そのまま封切り」などと報じました。
公開初日、全国約40の映画館では、来場者に1枚のプリント用紙が配られました。「残念ながら不完全な形で公開することを納得の上で、ご入場ください」、「後日(8月頃)、完全版ビデオを送ることでお詫びと代えさせて下さい」、という内容でした。観たくない人には前売り券代の返金が行われ、当日の舞台挨拶は中止され、ドタバタのなかで上映されました。いったいどんな出来だったのでしょう?
映画が始まり、絵がヘタ、というレベルの低さがすぐに分かります。3分もすると動きがぎこちなくなり、無着色部分がポツポツとあり、スタッフの指紋やゴミがハッキリ写ります。線だけで描かれた人物、色が塗ってあっても雑で単色のみ……と、作画が全体的に子供のお絵描きレベルに落ちていきます。さらに、口の動きが止まっているのにセリフが出る、銃を撃って数秒後に音が出るなど、音声もおかしくなります。
「未完成であることを理解して入場した」とはいえ、想像以上の「崩壊状態」に、あきれて劇場の席を立つ人が続出してしまいます。なかには、うわさを聞いて「逆に観たい」という来場者や、ホームビデオで撮影する違反者もたくさんいたといいます。結局、ほとんどの映画館は2週間ほどで上映を打ち切りました。
●制作会社たらい回し
映画『GUNDRESS』は、日活、東映など6社の出資から製作委員会を立ち上げて始まりました。予算は4億円です。ところがアニメ制作を依頼した「サンクチュアリ」は経営難で、2億円弱で下請けの「スタジオジュニオ」へ丸投げします。しかし、スタジオジュニオも経営難で、海外の会社へセル画制作を発注します。こうなると作業の確認や連絡、管理がずさんになります。負のスパイラルが巻き起こっていたわけです。
上層部が、映画が未完成と知ったのはなんと公開3日前で、2日前に試写で観て事態の深刻さを痛感したといいます。協議した結果、上映中止は多大な混乱とトラブルを招くと考え、「未完成での配給」に踏み切ります。そして、入場者には後日、完成ビデオを送るという対策でフォローしたのでした。
■誰か止められなかったのか? という謎
「未完成」と理解しながらも、あまりの酷さに席をあとにする人も続出したという(画像:Photo AC)
当時のリアルな状況を知るすべはないかと調べたところ、あくまでネット上での情報ですが、ふたつご紹介します。
ひとつは、『GUNDRESS』公式Webサイトにあった、スタッフブログです。(※現在、Webサイトは閉鎖されています)
「1999年3月某日 ~仕上げ処理を済ませた大量のセル画が、メインとなるスタジオに届けられた。最終撮出しを開始しよう。しかし、届けられたセル画を見て全員の顔が凍りつく! なんと、全て単色で塗り込められているではないか! つまり、完全に色指定が無視されていたのである。そればかりか、トレス線をはみ出して彩色されたセル画まである始末。かくして、作業は仕上げから修正に急遽変更。土壇場に来て熾烈な地獄絵図を展開するハメになってしまったのである! 恐るべし、某国アニメスタジオ!~」(『GUNDRESS』公式Webサイトより一部抜粋)
海外に発注していたセル画の出来が、あまりに酷かったようです。さらに、当時の制作現場を知るという人物(直接の関係者ではない)が書いた作品レビューから、一部抜粋してご紹介します。
「劇場公開前に絵コンテも全て読ませてもらった。劇場公開日の1週間前に劇場で流れる予告編の映像以外フィルムになっていない。その段階で100%間に合わないと思った。公開日前日、試写が終わるとどことなく『終わった』の声が。試写室から血相を変えて飛び出す(某)スポンサー担当者と思われる人がいた。本来、担当者とは制作工程を理解し予定通り進行しているか判断できる人を現場へ送り込むべきです。現場も嘘をつくから。そういうことが全くなっていなかったようで担当者は初号を観て初めて状況を知った、というのが真相らしい」(「Amazon」レビューより一部抜粋)
また、「途中から制作に参加したスタッフですら間に合わないと分かっていた」、とも記してありました。
早くからスタッフが気付いていたのに、なぜ誰かが声を上げなかったのか? 疑問はそこですが、製作委員会も制作現場スタッフも意思疎通ができないほど、関係が冷え切っていたのかもしれません。
●騒動のあと……
完全版ビデオは日活が制作、作業はスタジオジュニオが行いました。映画上映時間は約90分でしたが、編集後のビデオは約80分になりました。ビデオは約7000人に送られたといいます。
このビデオ制作には、さらに1億円の予算がかかったといいます。これにより、東映は日活に、日活はサンクチュアリに、サンクチュアリはスタジオジュニオにと流れるように損害賠償請求が行われました。ただ、この時点ですでにサンクチュアリもスタジオジュニオも経営破綻状態だったため、あえなくスタジオジュニオは2004年に活動停止。サンクチュアリも名前を聞かなくなりました。
『GUNDRESS完成版』は、2000年4月29日から2週間、「上野スターシアター」で上映されました。同年9月にDVD「完成版」と「3.20Ver(未完成版)」がセットで発売されています。
さて、ここで映画『GUNDRESS』のあらすじを紹介します。……西暦2100年の国際都市・横浜を舞台に、悪化した治安を回復すべく警備会社所属の美少女5人がテロリストたちと戦う……という物語なのですが……。
実は「完全版」も、未完成版を整えたレベルのお粗末さで、多くの人から叱責される始末でした。ストーリー展開や設定なども、特に奇抜さが感じられず「普通」と、評価は決して高くありません。
●谷田部監督のインタビューによると
谷田部勝義監督は、後年この騒動について、あるインタビューで振り返っています。ポイントを拾うと……「映画は90分なのに脚本が3時間というボリューム。完成度は高かった。でも監督なのに脚本に手を加えることができなかった」。初期の段階で制作は難航し、最後まで体制が改善されなかったそうです。
最終的には「ラストシーンを含むいくつかのシーンを自分が執筆するはめに」。現場の環境は劣悪で、スタッフは何人も抜けていったそうです。そして最終的に完成できず、「まさかあの状態で公開するとは思っていなかった」「私は『GUNDRESS』で仕事をなくしました」、と話しています。
アニメ映画史上、トップクラスの崩壊映画として悪名を残す『GUNDRESS』ですが、何か褒められるところはなかったのでしょうか? 筆者個人の感想ですが、「声優陣は良かった!」といいたいです。
(石原久稔)
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