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「今?」「だいぶ印象変わる」 実写化が好評だった小説のアニメ化が増えた理由は?

マグミクス / 2024年5月23日 12時25分

「今?」「だいぶ印象変わる」 実写化が好評だった小説のアニメ化が増えた理由は?

■大人に向けて懐かしさを、若い世代には新鮮な体験を

 1996年に出版された敷村良子さんの青春小説『がんばっていきまっしょい』が、アニメ映画となって2024年10月に公開予定です。発表時は「なぜ、今になってアニメ化を?」と驚いた人もいたのではないかと思います。

『がんばっていきまっしょい』は1998年に田中麗奈さん主演で実写映画化され話題となり、2005年には鈴木杏さん主演でTVドラマ化もされた人気小説です。筆者も公開当時にこの映画版を観ていて、さわやかで楽しい映画だったことを覚えています。「キネマ旬報ベストテン」邦画の第3位に選ばれるなど、批評的にも高く評価されていました。

『がんばっていきまっしょい』だけでなく、近年、かつて実写化された有名小説をアニメにする企画が続いています。2019年『ぼくらの七日間戦争』(原作:宗田理)や、2020年『ジョゼと虎と魚たち』(原作:田辺聖子)などが劇場アニメとして公開されたほか、TVアニメでも2020年に『池袋ウエストゲートパーク』(原作:石田衣良)、『富豪刑事』(原作:筒井康隆)などが企画されました。

 かつての実写でのヒット作を、アニメで復活させるこの傾向が生まれたのはどうしてなのでしょうか、考えてみたいと思います。

『がんばっていきまっしょい』は90年代に一世風靡した作品です。当時、ティーンエイジャーだった世代は今、40代となり、家庭を持っている人も多いでしょう。その世代の子供はすでに、当時の親たちの年齢に近くなっているかもしれません。つまり、今は小説出版当時から世代が一回りした状態です。

 そう考えると、このタイミングでかつての人気作品をアニメ化することは、「二世代コンテンツ」を作れる可能性を秘めています。

『ぼくらの7日間戦争』に関して、小説を出版しているKADOKAWAのアニメ事業局の工藤大丈局次長は、東洋経済ONLINEの取材で「基本的なターゲットは、やはり10代から20代前半ぐらいまでのアニメ好きな若い人たち。まずは彼らに楽しんでもらいたい。そのうえで、実写映画を観ていた親世代にも訴求できたら」と語っています。

 かつて、これらの小説が映像化された時は、アニメよりも実写作品の方が人気の高い時代でしたが、今はアニメ人気が高いので、新しい世代にアピールするにはアニメの方が良いという判断もあるでしょう。

 もうひとつ付け加えれば、観客だけでなく、作り手にもかつてこうした小説や映画作品を若い頃に観たという世代が意思決定権を持つ世代になっていて、青春時代に親しんだ作品に挑みたいというモチベーションを持っている人もいるかもしれません。さらに、今はアニメの製作本数が多く、マンガやゲーム、ライトノベルなど、定番の原作の他にもさまざまな原作をアニメが扱うようになっており、そこに一般文芸も加わってきているという現状があります。

 これらの企画で特徴的なのは、原作やかつての実写作品に忠実にアニメ化しているわけではなく、むしろ「かなり大胆なアレンジを施す」ケースが多いことです。昨今はマンガ原作の作品を中心に、原作に忠実であることが求められることが多いことを考えると、珍しい傾向です。

 これについては、やはり昔の小説、実写作品のテイストを令和の時代に再び描くのであれば、舞台を現代に置き直すことが求められ、価値観の変化などを反映した内容にして、現代の観客により強い訴求力を持たす狙いがあると思われます。

 こうした名作小説が時を経てアニメ化される作品の先行事例は、2006年の細田守監督の『時をかける少女』(原作:筒井康隆)でしょう。この作品はかつての原作小説と地続きの世界として描かれながらも、主人公を始め登場人物を一新し、新たな魅力を備えた物語として高く評価されています。

■原作やかつての実写版とは違う魅力を放つアニメ版

数字が漢数字から英数字に変わった『ぼくらの7日間戦争』ポスタービジュアル (C)2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

 そして、『時をかける少女』と同じくかつての角川映画のアニメ化である『ぼくらの7日間戦争』は、かなり大胆なアレンジを施しています。原作及び実写映画では、中学生たちが厳しすぎる校則を敷く大人たちへ抵抗し、廃工場に立てこもるという内容で、子供たちが戦う相手は管理教育の象徴である教師たちです。

 一方、2019年のアニメ版では、主人公たちを高校生へと変更しています。しかも、原作の世界と地続きの世界として描かれ、原作の出来事があった30年後を舞台としていました。

 そして、彼らを取り巻く環境には現代的な要素が大きく反映されています。地方の衰退と東京の一極集中、不法移民の少年との出会い、炭鉱に立てこもる主人公たちに襲い掛かる台風という自然災害、現代の子供たちが向き合わなければいけないのは教師だけではなく、多くのものと戦わないといけないことを上手く反映しています。

 また、『ジョゼと虎と魚たち』はもともと原作が短編小説のため、長編映画にするにはエピソードを追加する必要があり、映像作品の作り手たちがいかに膨らましていくかによって大きく変わっています。本作は車椅子に乗った女性がヒロインの作品で、ポイントとなるのは障害者の描き方です。実写映画では性的な描写と障害者への差別的な要素が描かれる作品な一方、アニメ映画版はそうした差別要素が薄まり、ふたりの純愛と前向きに夢を追いかける姿を描いた内容となっています。

 これは、明確に時代の変化が反映されていると思われます。障害者差別は現代にもまだ根強く残りますが、実写映画が制作された2000年代前半は今よりも強かったのでしょう。2020年のアニメ映画版は、障害者でも健常者同様に夢を見る存在として描かれます。実写映画版は良くも悪くも障害をベースにした恋愛劇だったのですが、アニメ版は障害者を特別視せずに、よりフラットな目線で描こうと試みていると言えます。

「障害者.com」では、映像作家のMXU氏が本作を「障害を純愛ストーリーを盛り上げるための手段にせず、真正面から障害者差別の本質に向き合っている」と評価していました。全体的に前向きな作品になっているのは、時代の変化を反映していると言えるでしょう。また、ジョゼが絵を描く才能を持った存在で、絵から生まれる想像力をアニメならではの方法でファンタジックに描いたシーンなどは、アニメならではの醍醐味も感じさせます。

『池袋ウエストゲートパーク』に関しては、むしろかつての実写ドラマ版が原作小説を大きくアレンジしており、TVアニメ版は原作とドラマ版、どちらの魅力も取り込もうとした内容と言えます。実写版で窪塚洋介さんが演じたキングはアニメでは内山昂輝さんが演じており、その性格の違いが話題になっていますが、これはどちらかいうとアニメ版の方が原作に近いです。ただ、実写版のシリーズ構成も参考にしている節があり、窪塚さんがサプライズ出演するなど、実写版のファンも意識していると思われる内容です。

 また、『富豪刑事』は、現代のアニメファンの嗜好に合わせて、大人の男性キャラクターの「バディもの」となっています。主人公のひとり、加藤春はオリジナルのキャラクターで、金で解決しようとする神戸大助のやり方に反発する設定です。

 熱血漢で全うな正義感を持つ加藤と、違法スレスレな手段も辞さず金で何でも解決してしまう冷血漢の神戸という、好対照なふたりが反目しあいながらもコンビで事件を解決していく構成で、シリーズ全体を引っぱっていく内容となっています。

 また、原作小説は70年代に発表されているので、時代に合わせてアニメ版の富豪の描写にも変化が見られました。アニメではAIやドローンなど、最新のガジェットが登場し、現代の富豪を表現しています。ちなみに2005年の実写ドラマ版では、主人公は深田恭子さん演じる女性になっていました。性格はわりとおっとりしていて、これは原作の主人公に近い設定です。

 まだ詳細は不明の『がんばっていきまっしょい』については、現在公開されているあらすじを読む限り、やはり原作とも実写映画とも異なる物語になっていると思われます。公式サイトの掲載されたキャラクターたちも、原作には登場しない人物です。原作とのつながりなどは不明ですが、こちらもやはり現代的なアレンジを加えてくるのではないでしょうか。

 こうした企画群の魅力は、原作や実写版との比較や、解釈やアレンジによって作品は別の輝きが生まれるところです。やり方が千差万別で、そのまま再現するばかりが選択肢ではないと思わせてくれるこうした作品は、忠実さが求められるマンガ原作のアニメとは違った楽しみ方ができるという点で、貴重なものと言えるでしょう。

(杉本穂高)

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