ゲームボーイにあった「謎の端子」 最初は「用途不明」の穴が、世界を変えた?
マグミクス / 2024年5月30日 21時25分
![写真](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_234413_0-small.jpg)
■「ゲームボーイ」右側面に備わった端子の正体は?
1989年4月21日に誕生した携帯ゲーム機「ゲームボーイ」(以下、GB)は、10年以上にわたってゲーム市場の最前線に立ち続けました。同ハードには「持ち運び可能でどこでもゲームが楽しめる」という特徴にくわえ、後のビデオゲーム史を変えたといっても過言ではない、「とある端子」が本体に搭載されていました。
初代のGBを改めて見ると、右側面に周辺機器を取り付けるための端子が設けられていることが分かります。これは「通信ケーブル」の専用コネクタで、「当初は具体的な用途を想定していなかったが、独創的な使い方ができるかもしれない」という開発陣の漠然とした意図により、実装される運びとなった模様です。また、GBに通信機能を追加したとしても、それほど製造コストに負担がかからなかった、という意見もありました。
では、ゲームボーイの通信機能が画期的だった点は何なのでしょうか。1989年当時も家庭用ゲーム機向け作品やアーケードゲームで、協力プレイや対戦プレイが楽しめる作品はごく普通にリリースされていました。「ファミリーコンピュータ」(以下、ファミコン)の初期タイトルを挙げるならば、『マリオブラザーズ』や『ベースボール』、『テニス』などが該当します。
これらの作品は「プレイヤーが同じモニターを介してプレイする」という点が共通していました。「分割された画面内で、相手プレイヤーの動きを横目に入れながら操作する」、「自分のキャラが動かせる番になるまで待つ」……などなど、ひとりで遊ぶ時とは異なった環境に置かれるケースが多かったのです。
しかし、ゲームボーイの場合はハードの仕様上、TV画面などのモニターではなく、それぞれのプレイヤーが手に持つゲームボーイを介し、「自分だけの画面」を見ながらプレイすることができます。手のひらに「スーパーマリオ」をはじめとしたゲームの世界が広がる目新しさ、そして当時としては斬新だった通信機能により、ゲームボーイは耳目を大きく集めました。
■『テトリス』の爆発的ヒットで普及した通信プレイ
パッケージに「通信ケーブルでモンスターをとりかえっこ!」と書かれている『ポケットモンスター 緑』(マグミクス編集部撮影)
ゲームボーイの通信機能が大流行するきっかけとなったのは、1989年6月14日に発売された『テトリス』です。同作は「テトリミノ」と呼ばれるピースを落下させてラインを消していく落ち物パズルゲームで、GB版よりも前にアーケードゲームやファミコン向けに展開されていました。
一方のGB版は、通信ケーブルを介した対戦プレイを初めて実装しました。それまでになかった「自分が消したラインを相手の画面へ送り込む」要素が、対戦ゲームとしての『テトリス』のポテンシャルを最大限に引き出したのです。自分の画面でテトリミノを消すと、向かい合ったプレイヤーから驚きの声が上がってきます。友人や家族と対戦プレイで盛り上がれる同作は、GB版だけでも400万本を超える大ヒットを記録しました。
ちなみにGBには、『テトリス』以外にも対戦プレイが楽しめるゲーム作品がいくつか発売されています。任天堂が手掛けたパズルゲーム『ヨッシーのクッキー』をはじめ、『雀卓ボーイ』(テーブルゲーム)、『熱血高校ドッジボール部~強敵!闘球戦士の巻』(スポーツゲーム)など、そのジャンルもさまざまです。なかには『F1レース』のように、最大4人プレイに対応したGB用ソフトも作られました。
『テトリス』の驚異的なヒットにより、GBはビデオゲーム市場で一定以上の存在感を放っていました。ところが1990年代の中盤に差し掛かる頃には、GB用の新作タイトルも数が減り、かつての勢いは陰りが見えていました。
そのような状況下で、ある1本のゲーム作品がGBの寿命を大幅に伸ばすことに成功します。その新作タイトルとは、今や日本のみならず世界にとどろく巨大IPとなった「ポケットモンスター」(以下、ポケモン)シリーズの第一作目『ポケットモンスター 赤・緑』(以下、ポケモン 赤・緑)です。同作は口コミ効果も相まって売上を伸ばし続け、各バージョン込みで3000万本を超えるソフト売上記録を叩き出します。結果としてGBの注目度を再び引き上げただけでなく、「二匹目のどじょう」を狙うフォロワーも数多く生まれることになりました。
1996年2月27日に発売された『ポケモン 赤・緑』は、不思議な生き物「ポケモン」と出会い、ポケモントレーナーとして対戦を繰り返しながら各地を冒険するRPGです。28年にわたって展開が続く人気シリーズの原点であり、「ポケモン」を象徴する対戦と交換の文化は、すでに当時の時点で確立されていました。
『ポケモン 赤・緑』は、GBの通信機能を用いた「ポケモンバトル」ならびに「ポケモン交換」に対応しています。前者は自身が育てたポケモンを繰り出し、ほかのプレイヤーと戦わせる要素のこと。そして後者は文字通り、ゲーム内で仲間にしたポケモンをほかのプレイヤーと交換することを指します。
対戦プレイは上述の『テトリス』やそのほかの作品を含め、それまでのGB用タイトルでも見られた仕様です。しかし、他者と自身が所有しているもの(ここではポケモン)を交換できるだけでなく、「バージョンによって登場するポケモンが違う」という「トレード&バトル」を前提としたゲームデザインは、まさしく発明といっても差し支えない代物でした。
今や携帯ゲーム機のポジションはスマートフォンが担うことになり、通信プレイもわざわざケーブルを用いるのではなく、オンライン環境が主流になりました。必要なものがそろっていれば、いつでもどこでも気軽に誰かと対人戦や共闘が楽しめるのです。便利になった世の中ですが、かつてはアナログな通信ケーブルが、ゲームのプレイ体験に新たな価値を生み出し、人と人の絆をもつなげてくれていました。
(龍田優貴)
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