ファミコンの説明書はよく読むと「後味悪い」? 謎すぎる開発陣からのメッセージ
マグミクス / 2024年6月3日 21時25分
■魅力あふれるファミコンソフトの「説明書」
昨今のビデオゲーム作品はゲーム内のチュートリアルが充実しており、パッケージ版を買ったとしても、「取扱説明書」が付属されていないケースが多々あります。またダウンロード版はそもそもソフトの現物がないため、もし説明書を読みたい場合はインターネット上で確認する必要があります。
しかし、1980年代から1990年代のビデオゲーム作品は、ソフトと一緒に紙の説明書が当たり前のように同梱されていました。待ちわびていた新作ソフトを手に入れた帰り道、待ちきれず説明書を先に読んで期待に胸を膨らませる……。当時のプレイヤーなら一度や二度、このような体験をした方も多いのではないでしょうか。そして当時の説明書を開いてみると、操作方法などを記した単なるマニュアルにとどまらず、読み物として注目すべき記述もありました。
「ファミリーコンピュータ」(以下、ファミコン)向けに発売されたゲーム作品にフォーカスし、アクションゲームやRPGを中心に、ユニークな記載が目立つ説明書をご紹介します。
●『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂)
発売から40年近くたったいまもなお、名作として語り継がれる『スーパーマリオブラザーズ』は、任天堂の人気キャラクター「マリオ」の出世作であり、横スクロールアクションゲームのスタンダードとして歴史に名を刻んだゲームです。
その説明書を見返してみると、ゲーム内では語られていない事実がふんだんに記載されていました。
同作品の説明書はゲームの遊び方紹介に続いて、プレイヤーの目的を明らかにする、ストーリー説明のパートが設けられていました。内容は「キノコ王国に住まうキノコ一族は、カメ一族の魔力によって岩やレンガに変えられてしまい、王国は滅びてしまった」とあり、プレイ中にブロックを壊してから読むと、なんともいえない後味の悪さが残ることでしょう。
また少し先のページをめくると、マリオと相対する敵キャラの説明文が載っています。「キノコ王国を裏切った悪いキノコ」(クリボー)、「カメ帝国の兵士」(ノコノコ)……という具合に紹介されていますが、注目すべきは「色ごとに異なるノコノコの性格」です。赤ノコノコは「気が弱くてのんびり屋」と書かれている一方、緑ノコノコは「性格は凶暴」とはっきり区別されています。ノコノコはゲーム内のグラフィックでは色違いの敵キャラに過ぎませんが、簡易ながらもテキストベースで世界観が形作られていることが分かります。
●『神仙伝』(アイレム)
1989年発売『神仙伝』タイトル画面 (C)1989 TAMEX (C)1989 IREM CORP.
ビデオゲーム作品の説明書に書かれているのは、ゲームに関する基本的な情報だけではありません。『スーパーマリオブラザーズ』のように、データ容量の都合で描かれていない、ゲーム内の世界にまつわる設定などが書かれている説明書も、その一例といえるでしょう。
同じように、ゲーム作品を開発したスタッフ陣のメッセージがそのまま載せられているケースも多く見られます。例えば1989年冬に登場した『神仙伝』には、開発陣からのただごとではないメッセージが収録されていました。
『神仙伝』は、西洋風ファンタジーの世界観ではなく、アジア圏(主に中国)のエッセンスを大々的に押し出した作品です。説明書を何気なくめくってみると、2ページにわたって文字がびっしりと埋め尽くされた「ゲームデザイナーからの一言」という部分が目に入ってきます。
同ページの一行目は、「誰が造ったものでもない。ずっと昔から宇宙はここにあった」という、スケール感の大きい文言からスタートします。「我々の世界は単純ではない」「コンピュータとは、次元転移機なのだ」(中略)……。「このシステムがすごい!」といったゲームシステムにかかわる話ではなく、難解ないい回しが続きます。
一見すると、上記のメッセージは『神仙伝』と関わりがなく、SF作品に言及するかのような文言かもしれません。しかし改めて読み込んでみると、実はビデオゲームを遊ぶプレイヤーと、その開発環境を指していることがそれとなく伝わってきます。同作は敵キャラを捕まえて戦闘に投入できる「ポケットモンスター」のようなシステムをはじめ、画期的な試みを採用していたゲームですが、説明書に書かれた「開発陣からの言葉」が最もインパクトが大きかったといえるかもしれません。
■やたらと規模がでかいゲーム大会
ブロックを破壊したあと、説明書を読むと後味悪い? 『スーパーマリオブラザーズ』 (C)Nintendo
●『飛龍の拳II ドラゴンの翼』(カルチャーブレーン)
ビデオゲームやコンピューターゲームで人と人が向き合い、勝利を目指して競い合う「eスポーツ」は、以前よりも国内で注目度が高まっています。その先駆けと言えなくもないあるゲーム大会の情報が、1988年夏発売『飛龍の拳II ドラゴンの翼』(以下、飛龍の拳II)の説明書に明記されていました。
格闘アクションを題材にした「飛龍の拳」シリーズにおいて、とりわけ良作と評判も高いのが『飛龍の拳II』です。世界を混沌におとしいれようと企む大魔神の悪行を食い止めるべく、プレイヤーは主人公「龍飛」を操って各地を奔走します。
同作品の説明書で特に目を離せないのが、後半ページにて告知されている「異種格闘技世界選手権大会」です。6人のキャラクターから1人を選んで相手と戦う「VSトーナメント」モードを使い、『飛龍の拳II』No.1プレイヤーを決める大会のようです。イベントは地区予選からはじまり、勝ち進んだ16名のプレイヤーが後楽園ホールに集い、最強の座をかけて激突します。さらには1位に輝いたプレイヤーを「アメリカ旅行にご招待」とまで書かれています。
ゲーム大会や競技というくくりであれば、当時の時点で『スターフォース』や『スターソルジャー』などのシューティングゲームを題材としたキャラバンのほか、ゲーム雑誌などと連携したスコアアタック文化も定着していましたが、『飛龍の拳II』で企画されたこの世界大会は、文言だけでも異色なテイストをかもし出していました。
本稿でご紹介したファミコンソフトの説明書は、数あるもののなかでも一部に過ぎません。また上述の『スーパーマリオブラザーズ』を含め、人気作品の説明書はいまでも任天堂などの公式サイトで電子版を読むことができます。当時の世代の方は、自身が持っていたソフトの説明書をこの機会に振り返ってみてはいかがでしょうか。
(龍田優貴)
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