『機動戦士ガンダム』どうしてこうなった? 名前が一緒のMSが生まれたワケ
マグミクス / 2024年6月5日 6時25分
■名前が一緒な理由を考察で乗り越えたことも?
およそアニメやマンガなど創作物のシリーズが長く続くと、ケアレスミスのようなことが起こるものです。製作者の変更、メディアの違いといったような、シリーズ規模の大きくなることが原因なのでしょう。
40年以上シリーズが続いている「ガンダム」シリーズも例外ではありません。その長い歴史において、意図せず同じ名前のモビルスーツ(MS)が生まれることもありました。
その代表ともいえるのが「ドワッジ」です。2024年現在、ドワッジといえば、『機動戦士ガンダムZZ』で初登場した「MS-09G ドワッジ」を思い浮かべる人も多いことでしょう。そして、よく似た名前として「MS-10 ペズン・ドワッジ」を挙げることと思います。
実はこのペズン・ドワッジは、発表当時は普通にドワッジと呼ばれたMSでした。その名称変更の経緯について振り返ってみましょう。
もともとペズン・ドワッジが発表された媒体は、『機動戦士ガンダム』のプラモデル「ガンプラ」の企画案のひとつ「MS-X」でした。ちなみにXには「ペズン」とルビが付いた資料もありますが、一般的には「エムエスエックス」と呼ばれています。
この「MS-X」は最初のガンプラオリジナル企画だった「MSV(モビルスーツバリエーション)」に続いて展開される予定でした。「MSV」は既存のMSの改修型がメインでしたが、「MS-X」は「幻のMS」をコンセプトに企画されることになります。
ここでいう幻のMSとは、全43話で打ち切られた『機動戦士ガンダム』が、全52話を予定していた当初の構想を記したメモ、通称「トミノメモ」にて名前だけが設定されたMSでした。そのため、メカデザインは本編と同じく大河原邦男さんが担当、ストーリーは本編でもメインライターをつとめた星山博之さんという豪華スタッフでスタートします。
ところが、「MS-X」正式発表直後に『機動戦士Zガンダム』の製作が決定しました。TVアニメが始まるのに模型主導の企画はできないという判断から、「MS-X」は中止となります。木型(モックアップ)まで製作され、雑誌でも大きく扱われた「MS-X」でしたが、皮肉にも設定と同じく「幻」となりました。
そして、その2年後の『ZZ』のアニメ本編で同名のドワッジが登場するわけです。そう名付けた意図は不明ですが、おそらくトミノメモに記されたドムの発展型ということでドワッジと名付けられたのでしょう。発表当時、多くのファンからドワッジは既にいるのにという声はありました。
その後、緩やかにペズン計画のドワッジはペズン・ドワッジと名称が変わります。現在の設定では、「ドム」の後継機に付ける予定の名前がドワッジだったが、宇宙と地球という別の場所で同時期に試作されたので同じ名前になったとされていました。
ちなみに、同じくペズン計画で発表された「MS-17 ガルバルディ」も、『Z』で後継機である「RMS-117 ガルバルディβ」が登場したことで、「ガルバルディα」との表記が見られるようになっていきます。
■「ガンダム」のなかにも名前がカブった例も?
アクシズで開発されたザクII直系の後継機。「HG 1/144 ザクIII 量産型」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
同じく『ZZ』で登場したMS「AMX-011 ザクIII」も、実は名前カブりで、「ザクIII」を名乗るMSはそれ以前にもいました。「MSV」の主力商品だった「MS-06R 高機動型ザクII」のなかの1機に「MS-06R-3 ザクIII」というバリエーションがあったのです。
もっとも、後者の「ザクIII」は文字設定だけの存在で、デザインは作られていません。R-2型の1機を改修して「MS-14 ゲルググ」の試験機にしたという設定のみです。そのため、ザクとゲルググの中間的なデザインとなり、「ザクIII」という名前も開発チームが付けた愛称のようなものとなっていました。
しかし、この設定を流用したと思しきMSが後に誕生しています。雑誌「SD CLUB」で連載されていた「M-MSV(ミッシングモビルスーツバリエーション)」にて発表された「MS-06R-3 S 高機動型ザクII(ゲルググ先行試作型)」で、型式番号や設定に共通点があることから、同じMSだとする説が一般的です。
この場合、先に発表されたザクIIIがアニメ版に名前を譲って、別の名前になったと考えられるかもしれません。設定的にも無理のない解釈なので、前述のドワッジほどツッコミを入れる人も少ないことでしょう。
『機動戦士ガンダムSEED』に登場した「ZGMF-X10A フリーダムガンダム」も名前カブりです。もっとも、正確にいえば完全一致ではありません。「フリーダム」と「ガンダム」を組み合わせた機体があるということです。
その機体の名前は「GF2-014NA ガンダムフリーダム」と「GF7-023NA ガンダムフリーダム」です。型式番号からわかる人もいると思いますが、MSではありません。『機動武闘伝Gガンダム』に登場した、「ガンダムファイト」専用に開発されたMF(モビルファイター)です。
共にネオアメリカ代表のMFで、「ガンダムファイト」第2回大会と第7回大会にそれぞれ出場しました。第2回大会に出場したガンダムフリーダムは優勝も果たしています。それゆえ『Gガンダム』の文字設定に、歴代優勝MFとして記載がありました。
一方の第7回出場のガンダムフリーダムは、季刊マンガ誌「コミックボンボン増刊号」で連載された『機動武闘外伝ガンダムファイト7th』にて登場したMFです。このマンガはアニメ『Gガンダム』の28年前の時代を描いた作品で、主人公「シュウジ・クロス」は後の「東方不敗マスター・アジア」でした。
アニメに登場した先代のシャッフル同盟が物語の中心で、ガンダムフリーダムに搭乗していた「マックス・バーンズ」は、後の「クイーン・ザ・スペード」といわれています。ちなみに同一世界観で名称がカブっているのは、実績のある名前を受け継いだという好意的な解釈ができるかもしれません。
もともとは放送終了後も人気のあった『Gガンダム』のガンプラ用企画として立ち上げられたそうで、TV本編と同じくメカデザインは大河原邦男さん、キャラデザインは逢坂浩司さんが担当していました。しかし結果的には企画はマンガ以上には進まず、連載も3回で終了してコミックスが1巻、発売されたにとどまっています。そういった経緯から、『SEED』のスタッフが名前を知らなかったとしても無理ありません。
こうして並べてみると、大々的な展開にならなかった作品は見落としがちになるものなのでしょう。今後も新作の「ガンダム」シリーズで過去にあった名前が出ても不思議ではありません。もっとも今はネット検索で簡単に過去の名前は確認できるので、余計な心配だとは思います。
(加々美利治)
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