偶然じゃなかった? 歴史的アニメ映画3作が1984年に上映された理由
マグミクス / 2024年6月7日 7時25分
■40年前に『ナウシカ』『愛おぼ』『うる星やつら2』が放送された奇跡
いまから40年前の1984年には、歴史に名を残す3つの映画が上映されました。いずれも、現在も人気の高い作品で、テーマ、演出、作画など、さまざまな面でアニメの水準を大きく引き上げました。なぜこの時代に、優れたアニメの劇場作品が次々と登場したのでしょうか?
まず『風の谷のナウシカ』(1984年3月11日公開)は、後にスタジオジブリ作品で世界的名声を得る宮崎駿監督が手掛けた作品です。戦争により科学文明の崩壊後、異形の生態系に侵された世界に生きる主人公「ナウシカ」を中心とした物語が描かれました。
作品世界は壮大で、強大な「蟲」や森を侵す胞子たちの脅威にさらされながらも、懸命にその日を生き抜こうとする人びとの姿は深い哲学的テーマをうかがわせ、アニメ史上でも重要な位置を占めている傑作です。後に『新世紀エヴァンゲリオン』などを手掛ける庵野秀明氏も制作に参加しており、「巨神兵」の登場シーンを手掛けたことでも知られています。
『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(以下、愛おぼ/1984年7月7日公開)は、1982年に放送されたTVアニメ『超時空要塞マクロス』の劇場版で、人類と異星人の間で展開される戦争を描いたSF作品です。ヒロイン「リン・ミンメイ」を演じた飯島真理さんの歌唱曲や、新進気鋭時代の美樹本晴彦氏による美麗なキャラクターデザインなどで高い評価を得ており、アニメにおける音楽やキャラクターの魅力の重要性を示しました。
『マクロス』はTV版でも主力兵器である「バルキリー」の変形機構や、アニメーターとして参加した板野一郎氏が生み出した特殊な戦闘演出「板野サーカス」など、時代を飛び越えた斬新なシーンが多く見られた作品です。劇場版ではさらなるクオリティアップが図られており、アニメ界の「オーパーツ」と呼んでも過言ではない、ハイレベルな仕上がりとなっています。
『愛おぼ』にもやはり庵野氏が参加しており、二足歩行の兵器「デストロイド・モンスター」が出撃時に床を踏み抜くシーンを、3か月かけて作画したというエピソードが残されています。
■『ビューティフル・ドリーマー』は冷戦時の漠然とした不安に対するアンサーだった?
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』ポスタービジュアル (C)1984 東宝 (C)高橋留美子/小学館
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年2月11日公開)は、1981年に放送開始したTVアニメ『うる星やつら』の劇場版アニメシリーズ第2作です。監督を務めたのは後に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』などを手掛けた押井守氏で、本作が出世作となりました。
『ビューティフル・ドリーマー』は、ギャグテイストの本編とは打って変わったテイストの作品です。学園祭を明日に控えた「友引高校」の面々が、延々と文化祭の準備を繰り返すなか、次々に驚愕の事態が起こります。何が起こっているのか、突き止めようと悪戦苦闘する登場人物たちの物語が描かれ、その幻想的な作風は視聴者に大きな衝撃を与えました。
なぜ、1984年にアニメ史に残る3つの劇場作品が登場したのでしょうか。
第一に、『宇宙戦艦ヤマト』そして『機動戦士ガンダム』が起こしたアニメブームや、『仮面ライダー』や『ウルトラマン』といった特撮を愛好していた者たちのなかから才能あるクリエイターが現れ、頭角を現し始めたのが、この時期だと考えられます。庵野氏などはその筆頭といえるでしょう。
第二に、世の中がバブル時代に突入寸前だったことが挙げられます。多くの人が前を見ており、どんどん世の中が良くなるという意識に満ちていた時代でした。若い人間のチャレンジも受け入れられやすく、経験ある人間にとっても、いままでできなかったことができるようになる時代でした。
第三に、冷戦の真っただなかだったことも挙げられるでしょう。当時はアメリカとソ連(現:ロシア)が暗闘を繰り広げており、核戦争がいつ始まり、いつ世界が破滅するか分からないという、漠然とした不安が世界を覆っていました。
おそらく、この不安感は1973年に発売された書籍『ノストラダムスの大予言』による「1999年7月に人類は滅亡する」という噂も一役買っていたでしょう。さらにいえば、『ナウシカ』は戦争により一度文明が滅んだ世界が舞台で、『愛おぼ』も人類と異星人の戦いで地球が壊滅し、『ビューティフル・ドリーマー』も先の見えない漠然とした不安感に包まれた作品でした。
つまり、『ナウシカ』は文明が破壊されてもたくましく生きる未来を描き、『愛おぼ』は絶望的な敵に立ち向かう手段と強さを現し、『ビューティフル・ドリーマー』は漠然とした不安を打ち破る行動力を示していたのだと考えられます。
この3作品は、当時の社会を覆う不安感へのアンサーとなっていたのかもしれません。
(早川清一朗)
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