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『機動戦士ガンダム』令和なら不適切? 「昭和」ならではのシーンや人物描写

マグミクス / 2024年6月10日 6時25分

『機動戦士ガンダム』令和なら不適切? 「昭和」ならではのシーンや人物描写

■殴られてナンボの世界?

 TVアニメ『機動戦士ガンダム』では、地球連邦軍とジオン公国軍の「一年戦争」を通し、主人公の「アムロ・レイ」が戦場で成長していく姿が描かれました。

 物語開始当初のアムロは15歳で、その言動にはまだ未熟さが見られます。これに対し、令和現在においては教育上、不適切とされかねない、人から殴られる場面が幾度となく見られました。

 例えば「ガンダム」の搭乗を拒んでいたアムロに対し、艦長である「ブライト・ノア」が顏を2度、殴打し、「おやじにもぶたれたことないのに!」とアムロが叫んだのは有名なシーンです。これにブライトは「殴られもせずに一人前になったやつがどこにいるものか」と返しており、このあたりは当時の価値観が見えるといえるでしょう。ただ、いつまでもクヨクヨしているアムロに活を入れてくれたおかげで、スッキリした視聴者も少なくないのではないでしょうか。

 ほかにもホワイトベースの一員である「リュウ・ホセイ」や、ジオン軍の脱走兵「ククルス・ドアン」と無人島で暮らしていた少女「ロラン」などにも顔を殴られており、アムロは自身の未熟な言動によって、けっこう痛い目に遭っています。

 しかし、殴られたことで自身の考えを見つめ直すきっかけにもなっていたため、決して彼にとってマイナスな経験ではないと考えます。現代とは違い、昭和の時代は体罰を受けることで、人は心身ともに鍛えられていくという考え方が根づいていたのかもしれません。ましてや軍隊ともなれば(ブライトに殴られた時点でアムロはまだ任官していませんが)、その考えはより強かったでしょうから、視聴者にとっても違和感のない描写だったことでしょう。

 とはいっても、途中からホワイトベースに配属された「スレッガー・ロウ」が操縦士「ミライ・ヤシマ」に手を上げたシーンには驚かされました。ミライの婚約者である「カムラン・ブルーム」が善意でホワイトベースの水先案内を買って出るも、ミライが冷たく彼を突き放そうとした時、そんな彼らを見兼ねてスレッガーは彼女を殴るのです。

 さらに殴った後にスレッガーは「この人は本気なんだよ」「そうでもなければこんな無茶が言えるか」とカムランを擁護し、さらに、「殴らなくたって話せば」と言うカムランに対しても「本気なら殴れるはずだ」と強気な発言を続けました。

 これは陽気なスレッガーがミライのために熱くなる場面であり、一気に彼の熱さに引き込まれた人も多いはずです。女性に手を上げるのは問題行動ではありますが、その分、彼の本気度がうかがえた場面でもありました。

■敵でありながら清々しい一面を見せた「ランバ・ラル」

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』第5巻 著:安彦良和/原案:富野由悠季、矢立肇/メカニックデザイン:大河原邦男(KADOKAWA)

 また、アムロにとって「ランバ・ラル」との出会いは、大きな出来事だったでしょう。ジオン軍の大尉で、生粋の軍人であり、いわゆる「大人」です。

 アムロは、ランバ・ラルおよびその内縁の妻である「クラウレ・ハモン」と酒場で居合わせます。その際ハモンは厚意でアムロの食事代を奢ろうとしたところ、アムロは「あなたにものを恵んでもらう理由はありませんので」と断りました。ランバ・ラルもアムロのことを気に入り、「それだけはっきりものを言うとはな」「わしからも奢らせてもらうよ」と伝えます。お互い、敵対する勢力に所属する者どうしであることに気付いていないなかでのやりとりで、個人的にはハモンやランバ・ラルの粋な計らいに清々しさを感じました。

 その後、アムロを探していた「フラウ・ボゥ」が、ジオン兵士に酒場まで連行されてきて、ここでアムロが連邦軍の一員であると発覚します。アムロが咄嗟に銃を握る行動を察知したランバ・ラルは、「それにしても良い度胸だ。ますます気に入ったよ」「戦場で会ったらこうはいかんぞ。頑張れよ、アムロくん」といって、彼らを見過ごしました。

 もしアムロやフラウがスパイと認識されたら、その場で射殺されてもおかしくない状況です。アムロたちの後をつけることが目的だったとしても、まだ子供だったふたりを見過ごしたのは、ランバ・ラルの度量の大きさを感じられる場面でした。

 個人的にファーストガンダムは、敵同士だとしても、対話でのつながりを描くのが魅力のひとつだと感じています。また筆者は、上述した場面に対して「昭和の人間ならではの気持ちよさ」と受け止めており、近年で言うところの「イケメンキャラ」とは違う魅力がにじみ出ているように思います。

 作品は変わりますが、アニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』のラストで、ヒロインの「クラリス」を置いてルパンたちや銭形警部が去った後、庭師の老人が「何て気持ちの良い連中」と評したのを覚えているでしょうか。ファーストガンダムを振り返ると、老人のセリフが当てはまるような数多くの立派な大人たちが登場したように思います。戦争に命をかけた彼らが散っていく様子は、そういった背景もあることから、より心に響くのかもしれません。

(LUIS FIELD)

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