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『ガンダム』お子様にはちと難しいカムラン・ブルームのカッコよさ その成長ぶりに涙

マグミクス / 2024年6月11日 6時25分

『ガンダム』お子様にはちと難しいカムラン・ブルームのカッコよさ その成長ぶりに涙

■安全圏に身を置く「父親頼り」のお坊ちゃま…だけど?

『機動戦士ガンダム』の中で「軟弱者」といえば「カイ・シデン」ですが、「優男」といえばこの人、サイド6の検察官にして「ミライ・ヤシマ」の元婚約者、「カムラン・ブルーム」です。

 カムランは『ガンダム』やガンプラに夢中になっていた男児の興味の範疇に入らないどころか、男児たちをとても苛立たせる登場人物だったといえるでしょう。メガネに貧弱な体型、敵と戦うどころか戦争に非協力的な振る舞い、その気がないミライに執着する態度など、「こんな男にはなるまい」と感じた男児は多かったのではないでしょうか。男児にも人気のあった屈強かつワイルドな職業軍人、「スレッガー・ロウ」と恋敵になってしまったのも、カムランのひ弱さを際立たせていました。

 しかし、男児たちも大人になり、さまざまな人生経験を積むとわかってくるのが、カムランという男のカッコよさです。『機動戦士ガンダム』の登場人物の中で、もっとも評価が変わったのがカムランといっても過言ではないでしょう。カムランとはどんな男だったのでしょうか。

●ミライとの再会

 カムランをひと言で説明するなら、「四角関係の中の負け役」です。『ガンダム』の中でも、もっとも複雑な恋愛関係であるミライ、スレッガー、カムラン、そして「ブライト・ノア」という四角関係の中で、ミライに手痛く振られたのがカムランでした。

 カムランの肩書は「サイド6の検察官」です。ミライとは親同士が決めた婚約者という間柄で、そしてミライの親は地球の超大物なので、カムランの親も相応の立場にいる人間だと推察されます。サイド6の首相官邸にもパイプがあるらしく、「ホワイトベース」が実業家「ペルガミノ」所有の浮きドックで修理できるようになったのも、カムランが首相官邸に働きかけたからです。

 ホワイトベースでミライと再会したカムランは、ミライを必死に探したことをアピールしますが、ミライは「なぜご自分で探してはくださらなかったの」とつれない態度をとります。その後もボディタッチを交えてグイグイ迫るカムランは、割り入ったスレッガーにコツンとやられて吹き飛んでしまいました。

●ミライへの一途な愛

 親が決めた婚約者とはいえ、カムランはミライに一途な愛を捧げていました。彼女を本気で探していたというのも嘘偽りはないのでしょう。ホワイトベースとコンスコン部隊との最初の戦闘に小さなパトロール艇で接近しようとしたカムランは、パイロットに咎められると「あの連邦軍の船には、私の未来の妻が乗り込んでいるんだ」と言い返しています。

 しかし、ミライにはまったくその気はありませんでした。あらためてカムランは「父の力を借りれば君がサイド6に住めるようにしてやれる」と迫りますが、「父」「父」と繰り返すカムランにミライは「わかってないのね」と涙を流します。

 カムランは自分から名乗り出て、ジオンの戦艦と「リックドム」がうようよしている中、非武装の宇宙艇でホワイトベースをサイド6の領空ギリギリまで先導しました。愛する女性を守るため、命を張って自分が盾になってみせたのです。

 別れ際、ミライは初めてカムランに心からの感謝の言葉を伝えます。

「カムラン、ありがとう。お気持ちは十分にいただくわ。でも、でも……。ありがとう、カムラン。帰ってください。お父様、お母様によろしく」

■ミライがカムランを拒絶した3つの理由

カムランの「逆シャアの後」が語られる『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』。表紙はブライト シナリオ:福井晴敏/コミカライズ:葛木ヒヨン(KADOKAWA)

●どうしてミライはカムランを受け入れなかったのか

 どうしてミライはカムランを拒絶したのでしょうか。まず、「そもそも好きじゃなかった」。身も蓋もありませんが、これは大きな理由でしょう。

 カムランが「父の力」に頼ってばかりいたのも、ミライを苛立たせたはずです。現実世界でも父親頼りの大人の男は情けなく見えるもので、そしてそもそも『ガンダム』の世界は、大人たちへの不信がベースにあります。大人の乗組員がいないホワイトベースで奮闘してきたミライにとって、父のことばかり口にするカムランは不甲斐なく映ったことでしょう。「お父様、お母様によろしく」は痛烈な別れの言葉だったのです。

 そしてもっとも大きな理由が「戦争への関わり方」の違いです。ミライはホワイトベースで戦場の修羅場を何度もくぐり抜けてきており、一方のカムランは安全な中立地帯にいました。ミライがカムランに「あなたは戦争から逃げすぎて、変わらなすぎているのよ」と告げる場面があります。また、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(著:安彦良和)では、ミライがカムランについて「戦争を自分とは関係のないもののように考えてる」と語る場面がありました。カムランには戦争についての当事者性が欠けており、戦争を自分ごととして考えているか、そうでないかはミライにとって大きな問題だったのです。

 カムランはミライへの一途な愛を捧げていたものの、自分から能動的に動くことのない男でした。戦争にも関心を持っていません。ふたりは戦争がなければ見合いで結ばれたかもしれませんが、完全に心はすれ違っていました。しかし、カムランは最後にようやく自分で動き、自分の命を張ってみせます。だからミライは最後に別れの言葉ともに感謝の言葉を述べたのです。

 戦争は容赦なくふたりを引き離します。戦場に出ていくホワイトベースとサイド6へ帰っていく宇宙艇からそれぞれ見つめ合う別れのシーンは、そのことを映像で端的に示していました。

●『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でのカムラン

 ここからがカムランのいいところです。カムランはテレビシリーズの9年後に公開された映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に驚きの再登場を果たします。

 格段に出世し、地球連邦政府の会計監査局の代表として登場したカムランは、スペースコロニー「ロンデニオン」で行われた地球連邦政府とネオ・ジオンの和平交渉に立ち会い、小惑星「アクシズ」がネオ・ジオンに有償で譲渡されることを知ります。代金である金塊をチェックするのがカムランの役割でした。

 しかし、その場にいたネオ・ジオン総帥「シャア・アズナブル」を見て、カムランは直感で彼と彼らネオ・ジオンの裏切りを看破します。カムランはロンド・ベル隊司令に就任していたブライトに面会し、シャアがロンデニオンにいることを報告、さらにシャアの陰謀を止めるため、核弾頭を15発もブライトに託しました。露見すれば終身刑レベルの犯罪行為でしたが、そのような恐れをぶっちぎって行動を起こしたのです。かつての恋敵を心から信用しているところにもグッときます。

 もし、カムランが行動を起こさなければロンド・ベルは敗北し、シャアの「アクシズ落とし」は成功していたかもしれません。地球にいるミライは無事では済まないでしょう。「私はミライさんに生きていてほしいから、こんなことをしているんですよ」。こうさりげなく言うカムランがとてもカッコよく見えました。

●カムランは変わった

 かつて「変わらなさすぎている」とミライに言われたカムランでしたが、『逆襲のシャア』では大きく変わっていました。非常に能動的な男になっていたのです。むろん、「父の力」など関係ありません。自分の責任で行動し、自分の役割を果たしています。戦争に対する当事者意識も芽生えていました。

 カムランはミライとの出会いと別れを自分の糧にして、大きく成長したといえます。けっして最初からカッコいい男だったわけではありません。カッコいい男になったのです。カッコ悪い失恋だって人生の糧になる。これが富野由悠季監督から視聴者に向けた隠れたメッセージだったのかもしれません。そして、このような脇の登場人物にもいいドラマがあるのが、多くの人から愛される『ガンダム』の奥深いところなのです。

(大山くまお)

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