『H×H』33巻から「ゴンが主人公」ではなくなった? 表記の変化が「意味深」
マグミクス / 2024年6月14日 16時55分
■ゴンやキルアはもう出てこないの?
「ゴン=フリークス」と「キルア=ゾルディック」を中心にさまざまなエピソードが描かれていた『HUNTER×HUNTER』では、もう何年にもわたってふたりの出番がありません。果たして彼らの物語は完結してしまったのでしょうか。
●王位継承を巡る暗闘と幻影旅団のヒソカ狩り
2024年5月時点の『HUNTER×HUNTER』では主にふたつのエピソードがパラレルに進行しており、多くの登場人物の思惑が入り混じっています。
ひとつは「暗黒大陸」行きの巨大船で繰り広げられるカキン帝国の王位継承をめぐる暗闘です。「ナスビ=ホイコーロ国王」以下、14人の王子やその護衛たちの行動原理や思考が分厚く描かれており、おおよそ少年マンガらしからぬ容赦のない展開が繰り広げられます。
それと同時並行で描かれているのが裏切り者の「ヒソカ」を狙う幻影旅団です。こちらも人数が多く、「クロロ」「ノブナガ」「フランクリン」「フィンクス」「ボノレノフ」「マチ」「シズク」「フェイタン」に加え、ゾディアック家の「カルト」と「イルミ」も乗船していました。さらに王子の息のかかったヤクザ組織まで登場し、王位継承と同じくらい複雑化しています。
そして、すでに表面化している状況の水面下では、暗黒大陸の探索を目的とする「ジン」や「ビヨンド・ネテロ」一党、巨大船の運行を管理している「十二支ん」メンバー、「ツェリードニヒ王子」が持つ緋の瞳を求める「クラピカ」の思惑が渦巻いています。
こんなにも多くの登場人物が閉鎖空間で異なる目的のために行動しているのですから、相当なシナリオ構成力がなければ描ききるのは難しいでしょう。ゴンやキルアが乗船していれば、彼らの視点が中心になったと思われますが、進行中のエピソードでは「視点の固定」を許さない状況が続いているようです。
『HUNTER×HUNTER』において現在進行中の「王位継承編」のようなシナリオ構造は初めてではありません。「グリードアイランド編」は各陣営が駆け引きをしながらカードのコンプリートを目指していましたし、「キメラ=アント編」でもハンターやキメラ=アントたちが自分の目的のために、死力を尽くしていました。
複数の視点や目的が組み合わさって巨大な状況が描かれるシナリオ構造は、冨樫義博先生が得意とするところです。その集大成が暗黒大陸へ向かう巨大船「B・W(ブラックホエール)号」でのイベントなのでしょう。
『HUNTER×HUNTER』の単行本の冒頭には登場人物紹介欄があります。実は暗黒大陸を目指すエピソードが始まる単行本33巻以降、ゴンの紹介欄から「主人公」の表記が消えていました。
32巻までは「この物語の主人公。」と明記されていたのですが、その後は「父・ジンを追いハンターになる。キメラ=アントとの戦いの後遺症でオーラが視えない。帰省中。」(34巻より)などとされており、物語の構造が大きく変化していることが分かります。
おそらくゴンの物語は世界樹の頂上でジンと語り合うエピソードで、いったん完結したのでしょう。『HUNTER×HUNTER』が父親を求めるゴンの物語だったとするなら、ここで終了していてもおかしくありません。
しかしタイトルはテーマと深い関係性があります。冨樫先生は最初から『HUNTER×HUNTER』というタイトル通り、複数のハンターの生き様が交錯する物語を想定していたのかもしれません。ゴンは物語世界への案内役を兼ねたハンターのひとりに過ぎなかったのではないでしょうか。
■期待されるゴンの再登場と連載再開
画像は『HUNTER×HUNTER DVD&BD Vol.1』(バップ) (C)POT(冨樫義博)1998年-2011年 (C)VAP・日本テレビ・集英社・マッドハウス
では、もうゴンは登場しないのかというと、そうとは限りません。現在、冨樫先生はX(旧:Twitter)にて原稿の進行状況をポストし続けています。2024年5月29日にはページ番号と思われる数字が記載された『HUNTER×HUNTER』のタイトルロゴ入り原稿の一部がポストされました。また2024年5月30日以降、カラーイラストも複数枚、掲載されています。
ゴンは、もう何年も物語に登場していないものの、単行本の人物紹介欄に掲載され続けており、2023年にテレビ朝日放送されたトークバラエティー番組『イワクラと吉住の番組』ではじめて明かされた『HUNTER×HUNTER』最終回のDパターンでも言及されています。Dパターンは冨樫先生が想定する4つあるエンディングのひとつです。そのなかに「ゴンじいは有名なハンターだった」というセリフがあるので、きっとゴンは念能力を取り戻して何らかの形で再登場するでしょう。
ただし物語の状況的には王位継承編が終了し、ヒソカと幻影旅団の決着がつき、巨大船が暗黒大陸にたどり着いてジンやビヨンドの冒険の結果が出てからになると思われます。何年先になるか分かりませんが、そのときにはキルアも再登場するでしょう。
冨樫先生は現在58歳です。年齢的にもおそらくあるときから『HUNTER×HUNTER』は単なる連載作品のひとつではなくなったのだと考えられます。重層的な物語構造や異なる考え方をする人物に哲学を盛り込むなどしている点は、明らかに商業性よりも作家性に比重を置いていることは明らかです。マンガが「難しくなる」ことによって一部のファンが離れていくのも承知の上でのことでしょう。連載継続の基準が厳しいことで知られる「週刊少年ジャンプ」で本作が打ち切りになっていないことから、編集部が冨樫先生の姿勢を支持している様子がうかがえます。
『HUNTER×HUNTER』の連載は1998年に始まり、休載を挟みながら26年にわたって物語を紡いできました。ひとりの作家のライフワーク(一生をかけた代表作)としてふさわしい作品です。
現在進行中の複雑さの極限ともいえる展開が一段落したら、きっとシンプルで力強い物語に回帰するかもしれません。そのときには、またゴンとキルアが中心になるでしょう。
※本文を一部修正しました(6月14日21時35分)
(レトロ@長谷部 耕平)
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