連邦もヤバい? 『ガンダム』一年戦争末期のパイロット不足ジオンより深刻だった説
マグミクス / 2024年6月17日 6時25分
■ジオン軍が陥った深刻な人材不足
アニメ『機動戦士ガンダム』は、人類が宇宙に進出した「宇宙世紀」を舞台に、一年戦争と呼ばれる壮絶な戦争を描いた作品です。この戦争は、後の時代にも多くの派生作品を生み出し、今なお語り継がれる深いドラマと壮大なスケールで人々を魅了し続けています。
一年戦争は、単なるエンターテイメントを超えた、深い考察の余地を残す側面があります。特に、戦争末期におけるジオン公国軍と地球連邦軍のモビルスーツ(MS)パイロットたちの状況を比較することで、戦争の悲劇と、その後の宇宙世紀の歴史に与えた影響について、新たな視点を得ることができるのではないでしょうか。
一年戦争末期、ジオン公国軍は劣勢に追い込まれ、パイロット不足という深刻な問題に直面します。多くのベテランパイロットが戦死し、戦局を挽回するためには新たな戦力を投入する必要がありました。しかし人材不足はジオンにとって大きな壁となり、学徒動員という苦渋の選択を余儀なくされます。
2004年から2006年にかけ制作された3DCGアニメ『機動戦士ガンダム MS IGLOO』には、そうした戦争末期に駆り出された少年たちの理不尽な状況が描かれていました。限られた訓練期間の中でMS(正確にはモビルポッド)の操縦を習得し、戦場へと送り込まれる少年たちの姿は、戦争の残酷さを改めて訴えかけます。
また、ジオン軍の新型高性能MS「ゲルググ」は、おもに学徒動員兵に割り当てられ、その性能を活かすことができなかったという設定もあるようです。
しかしここでひとつの疑問が浮かびあがります。パイロット不足は、はたしてジオン軍だけの問題だったのでしょうか。
■実は連邦の方がヤバかった説
一年戦争最終決戦の時点で、パイロットは全員まだまだひよっこ。「MG 1/100 RGM-79 ジム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
ジオン軍と戦った地球連邦軍は、戦争初期こそ劣勢に立たされていましたが、連邦軍初の量産型モビルスーツである「ジム」の実用化によって戦局を挽回し始めます。ところがその実用化時期は、早く見積もっても宇宙世紀0079年の秋であったと考えられ、したがって0080年1月1日の終戦までにもっとも長くキャリアを積んだパイロットでさえ、ジムに乗って戦場に出ていた期間は、せいぜい2か月から3か月程度しかなかったことになるのです。
以上のことから、連邦軍には「ベテランMSパイロット」が文字通りまったく存在しなかったことは明白です。戦闘機パイロットなどから機種転換した職業軍人も多数、存在していたに違いないとはいえ、多くのパイロットにとってMSは未知の兵器であり、いくら機体制御システム(「教育型コンピュータ」)の技術が進んだ宇宙世紀とはいえ、教えてくれる人がいないのですから、その操縦技術の習得は困難をともなったことでしょう。
一方のジオン軍は、一年戦争前からMS「ザク」を開発、運用してきましたから、いかに多数のベテランパイロットが戦死したとしても、少なからず残っていたことは様々な作品からも明らかです。そして彼らは「ソロモンの戦い」や「ア・バオア・クーの戦い」といった終盤の主要な戦役にも参加し、その豊富な経験と技術、リーダーシップで戦場を支えた描写もあります。
連邦軍、ジオン軍ともに主力を担ったのは経験の浅いパイロットばかりだったとしても、少なくともジオン軍は編隊を率いるリーダーだけでもベテランパイロットを配置することができたはずですから、リーダー含め全員素人の連邦軍に局所的な戦いでは優位に立てたこともあったはずです。
最終的に戦争に勝利したのは連邦であり、敗者となったのはジオンでした。そのためジオンの敗因と悲惨さが強調されているだけで、人材不足という問題は実はジオン軍以上に連邦軍の方が深刻であり、どちらも最後まで同じように苦しんでいたのではないでしょうか。
(関賢太郎)
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