中年世代の一部に存在する「極端にアニメを嫌う人」 背景にあった「社会的事件」とは?
マグミクス / 2024年6月16日 7時25分
■「ある特定の世代」に一部見られる、アニメへの嫌悪感
今や、アニメは多くの日本人にとって日常の一部と化しています。かつてアニメが子供向けに作られていた時代には、「中学生くらいでアニメは卒業するもの」という社会的な通年もありましたが、現在のアニメは大人でも楽しめる高いクオリティを誇る作品も多く、老若男女問わずアニメを楽しむ人が増えています。
特に高齢の世代については、そもそも日本でアニメの放送が始まり、盛んになった1960年代や70年代に子供時代を過ごした人がまだまだ現役です。空前の大ブームを巻き起こした『宇宙戦艦ヤマト』が初放送されたのは1974年で、コミックマーケットが初開催されたのは1975年です。この時期に中学生や高校生だった方はいま60代ごろでしょう。定年退職などで時間ができた人が、たまたまTVで見かけたアニメのクオリティの高さに驚き、またアニメを観始めたという話も耳にします。
一方で、40代半ばから50代半ばまでの中年世代の一部に、「アニメを極端に嫌う人」も存在しています。企業などでアニメのコラボ企画を行おうとした際に、若い人たちが進めていた企画を、上司が「アニメなんかやるな!」と潰しにかかる事例が発生しているのです。
なぜ、その上司はアニメを嫌っているのでしょうか。アニメを嫌う理由は子供っぽいから、時間の無駄だから、暴力的だから、性的だからと、理由は人それぞれでしょう。しかし実は、ある特定の世代には別の理由もあります。
それは「アニメが好きな奴は社会の敵だから」という見方です。
そのような考えをもっている人は、おそらく「宮崎勤事件」の報道に遭遇した可能性が高いと思われます。
■報道によって作られた「アニメ嫌い」
宮崎勤は6000本ものビデオテープを所有していたという(画像:Photo AC)
「宮崎勤事件」……当時この事件の影響を受けた人間にとっては、口にするにも文字にするにも大変なエネルギーが必要です。
1988年(昭和63年)から1989年(平成元年)にかけて、東京都および埼玉県で計4人の幼女、女児が殺害される痛ましい事件がありました。宮崎勤はその犯人です。
なぜ、ここにアニメがからんでくるのかというと、宮崎勤は「アニメ好きのロリコンである」という報道が行われたからです。その結果、当時アニメ好きだった少年少女たちが、ある日突然「社会の敵」とされて「アニメ好きを倒すのは正しい行動だ」と考えた生徒たちにより凄惨ないじめを受けました。特にこの時期に中高生だった世代、つまり現在の40代後半から50代半ばの世代には、アニメを嫌う人が少なくありません。
問題は、そのマスコミの報道が「捏造」だった点です。宮崎勤は6000本ものビデオテープを所有しており、その点は当時の水準から考えると確かに異常ではありました。しかし、部屋に踏み込んだ記者の告白によると、その大半は『ドカベン』や『リボンの騎士』『ゲゲゲの鬼太郎』など、ごく一般的なアニメだったことが明らかになっています。
またホラービデオマニアとの報道もあり、犯人の異常性が強調されていました。しかし、ホラー作品の所有数もわずかでした。『ギニーピッグ2 血肉の華』という作品がコレクションのなかにあると報道されたのがきっかけで、「ギニーピッグ」シリーズは廃盤となりましたが、押収されたのはコメディ調の『ギニーピッグ4 ピーターの悪魔の女医さん』であり、宮崎自身は『ギニーピッグ2』を観ていないと供述しています。
また、多数の雑誌が散乱する部屋のなかで、マスコミ的にはおいしい被写体がなかったため、わざわざ埋もれていたポルノマンガを上に置き直して撮影するという、作為的な情報操作があったことも明らかになっています。当時の若い男性の部屋を漁れば、エロさを感じさせる本など1冊くらい見つかるものでしょう。
もちろん、映像作品について「好き」「嫌い」と判断することは、個人の価値観や体験に左右されるものであることは明白です。しかし、「宮崎事件の報道」に影響されてアニメ嫌いになった、というのではれば、もしかするとアニメを否定する気持ちは自分のものではなく、30年以上前の報道によって植え付けられたものかもしれません。その点を踏まえてもなお、アニメを否定するのであれば、せめて先入観を捨てて純粋な映像作品としてアニメを鑑賞したうえで、自分自身の気持ちから生まれた言葉で批評すべきではないでしょうか。
(早川清一朗)
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