『機動戦士ガンダム』MSだけじゃなく「ヘルメット」も画期的だった? 富野監督も配慮し続けたデザインの秀逸さ
マグミクス / 2024年6月20日 6時10分
■アニメ制作で「ヘルメット」はやっかいな存在?
自転車に乗るときにも被るのが当たり前になりつつある「ヘルメット」は、私たちの生活には、もはや日用品といえるかもしれません。
ところが、かつて、特にTVアニメーションでロボットものが盛んに作られていた1970年代後半から90年代あたりまで、ヘルメットというものは、たとえば軍隊や工事現場、もしくはバイクのライダーやF1レーサーなど、特に子供たちにとっては少し特別なところにいる人たちの「カッコいいアイテム」という認識が一般的でした。
日本のTVアニメに限ったことでいえば、もっと昔のモノクロTV時代のヒーローたちも多くはヘルメットを被っています。
しかし白黒放送なので、ヘルメットについているバイザーフード部分はたいてい黒で、これを目の上まで降ろしてしまうと、鼻と口しか見えなくなってしまい表情は口元のみになります。目元が隠れるのは、それはそれでカッコイイですし、当時のTVアニメクオリティでは問題になりませんでした。
ところがカラーTVになり、クオリティが上がるにしたがって変わっていきます。
特筆すべきは1972年から放送がスタートした『科学忍者隊ガッチャマン』です。
この作品で、主人公たちが被っているヘルメットのバイザー部分はメンバーによって色が違ううえ、普段から顔のかなりの面積を覆い、奥が透けて見えます。このバイザー部分を「エアブラシ」という、絵の具を霧状にして吹き付ける方法を使って表現しているのです(全部のカットではありません)。
詳しい説明は省きますが、この方法は大変手間と時間がかかり、今でも業界では語り草になるほど。よほど潤沢な制作期間と資金があったのではと邪推する人もいるほどです(真実のほどは私は知りません)。
一方、それに遅れて1973年、『0(ゼロ)テスター』というTVシリーズからSF路線に参入したサンライズ(当時は、創映社とサンライズスタジオという別会社)は、バイザーがかかった部分は、色の付いたグラス越しに見える色という考え方で、通常の肌の色とは違う色でその部分を塗り分ける方法をとりました(他の制作会社でも行われています)。
この方式は、後に続くさまざまなTVシリーズに引き継がれていきますが、バイザーが鼻のところまでしか降りないデザインの場合、鼻から下は通常の肌色、バイザー部分はグラス越し色、という手間がかかってしまいます。
■富野監督も推奨した「ヘルメット」の画期的な制作手法
劇場版『機動戦士ガンダム II めぐりあい宇宙編』DVD(バンダイビジュアル)(C)創通・サンライズ
そこに登場したのが『機動戦士ガンダム』の顔全面を覆う宇宙服型のヘルメットです。この形であれば、ひとつの絵で2種類の肌塗り分けは不要。続く『伝説巨神イデオン』のヘルメットも同様です。
さらに『聖戦士ダンバイン』ではヘルメットにフードがありません。そのうえ、口元が隠れるデザインなので、業界で「口パク」と呼ばれる、しゃべるときの口の動きの動画さえ不要なのです。
アニメに詳しい方ならもうお分かりですね?
できるだけ制作現場の手間を省き、作画の枚数も減らす。富野由悠季監督お得意の、時間と費用の節約、今でいえばSDGsな制作手法です。
もちろん、この後に続く作品が全部同様ではありません。まず重視されるのは「見た目の魅力」ですし、作品内容との整合性ですからね。
付け加えるなら、高橋良輔監督の『装甲騎兵ボトムズ』で主人公をはじめとする人型ロボット兵器「アーマードトルーパー」に乗る兵士たちのヘルメットに至っては、顔全体が覆われ、いわゆるバイザーもありません。つまり、口パクどころか目の部分を覆うスコープをあげない限り顔が全く見えないのです(作品内すべてというわけではなく、別タイプのヘルメットも登場しています)。
しかしそれを逆手に取り、スコープだけを上げ、その鋭い目線を視聴者に向ける主人公のシーンやイラストなどにハートを持って行かれたファンが実はたくさんいるのです。
ヘルメット、されどヘルメット。
そんな部分に注目して古い作品を見てみると、また新たな楽しみ方ができるかもしれません。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。
(風間洋(河原よしえ))
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