『勇者アベル伝説』「打ち切りエンド」しか観ていないファン 第2部で描かれた結末とは
マグミクス / 2024年6月19日 21時25分
■「第2部」ではなく「第1部」の印象が強いのはなぜ?
マグミクスは、1989年放送のTVアニメ『ドラゴンクエスト 勇者アベル伝説』(※放送時は『ドラゴンクエスト』とのみ表記、以下『アベル伝説』)に関する考察記事「『ドラゴンクエスト 勇者アベル伝説』EDしか覚えていない理由 OPってなんだっけ?」を配信しました。EDしか覚えていない人が多い理由として、「第1部全32話と第2部全11話のうち、第1部にはOPテーマ(歌)がまったくなかった」ことを取り上げました。
読者から寄せられたコメントでは、第1部26話まで使用された徳永英明さんが歌うEDテーマ「夢を信じて」に関する思い出も見られ、「イントロからしていい」、「名曲中の名曲」、「今も歌詞をすべて覚えてる」などの声が寄せられました。
そんななか、ファンたちの心に強く残っている思い出として、「最終回」に関する声も多く見られました。それも、第2部ではなく第1部の最終回です。なぜ「第1部」の最終回が思い出深いのでしょうか。
●魔王は倒したが、勇者たちも生還できなかった衝撃の打ち切りエンド!
『アベル伝説』は、大人気RPG「ドラゴンクエスト」シリーズを原作とするTVアニメ作品です。「モンスターたちは宝石から作られているため、倒すと元の宝石に戻る」など、「敵をたくさん倒すとお金を稼げる」ゲームならではの設定に独自の説得力を持たせる工夫も見られ、細部まで練り込まれた作品でした。
アリアハンの村に住んでいた少年「アベル」が、大魔王「バラモス」にさらわれた幼なじみの少女「ティアラ」を助けるために旅立ち、仲間との冒険を経て立派な勇者として成長していく王道の冒険ストーリーが描かれます。
「中世ヨーロッパ風」というには民族色が強いアベルやティアラのファッション、配下が離反するという魔王軍の内部分裂の様子、魔王軍の侵攻や支配で心が荒んでいく人々の姿など、ゲームの『ドラクエ』ではなかなか描かれない独自の描写も魅力のひとつでしたが、期待していたほどの反響が得られなかったのか、32話で打ち切られることになってしまいました。
伝説の竜をよみがえらせるために必要な聖剣があるという、空に浮かぶ「青き珠の神殿」へ行くための不死鳥「ラーミア」復活も目の前で、いよいよバラモスとの決戦の時が迫る……と話が盛り上がってきたところで、場面は平和な一軒家の風景に様変わりします。そこにいるのはひとりの老婆と、幼い少年少女でした。
老婆は、おとぎ話のように「大勇者となったアベルが大魔王バラモスを討って世界に平和を取り戻した」ことや、「モコモコ、デイジィ、ヤナックら旅の仲間たちは生きて帰れなかった」ことを彼らに語って聞かせます。
やがて、子供たちが話を聞き終える前に寝静まったのを見て部屋を出ようとする彼女の脳裏を、アベルとの思い出がよぎります。おそらく老婆は年老いたティアラで、この時点ではアベルすらもこの世にいないであろうことがうかがえます。見方によってはエモいということもできそうですが、絵に描いたような打ち切りエンドでもありました。
■第2部の最終回は?
「ドラゴンクエスト 勇者アベル伝説 コンプリートDVD-BOX」(イーネット・フロンティア)
本作は『ドラクエ』ならではの要素として「レベル」にもフィーチャーしており、第5話を「Level5」というように話数をレベルで表記し、さらに各話の最後にはレベルアップのファンファーレとともに、アベルたちのレベルやステータスが表示される演出が入るのがお約束でした。
打ち切り直前となる第31話ではアベルはレベル33で、第32話は「Level32」と表記されていました。筆者は本作の放送当時にファミコンの『ドラクエIII』をクリアしていました。ゲームではこのくらいレベルが高ければバラモスを倒して生還できるので「そこまでレベルが上がっていれば(犠牲を出さずに)勝てるだろおお!」と、悲しみともツッコミともいえぬ感想を抱いたものです。
ちなみに全11話で構成される第2部はモコモコ、デイジィ、ヤナックらアベルの仲間たちは誰ひとり欠けることなく最後まで戦い抜き、前述の老婆が語った物語とは異なる結末を迎えました。
実はデイジィの生き別れの弟だった新キャラクターの剣士「アドニス」(本名はトビー)や、最後までティアラを守った心優しいモンスター「ドドンガ」など魔王軍との激戦で尊い犠牲は出てしまったものの、おおむねハッピーエンドであったといえます。
また、最終的に無事だったとはいえ、アベルはバラモスとの戦いで共倒れ寸前というところまで追い込まれており、「仲間たちがやられたうえ、この時にアベルも生還できず相討ちに終わった世界線が第1部の最終回だったのだろうか……」とも解釈できそうな展開だったのは、なかなか趣き深いです。
今日では、第1部32話と第2部1話の内容がミックスされた編集版が新たな32話となっており、当時は全43話だったアニメが今は全42話となっています。2008年発売の「ドラゴンクエスト 勇者アベル伝説 コンプリートDVD-BOX」には、映像特典として放送当時の32話(打ち切り版)と第2部第1話も収録されていますが、現在では超レアアイテムです。もし持っている方がいたら、大切にして下さい。
『勇者アベル伝説』は、「全国ネットの放送で打ち切り最終回→各地のローカル放送で最終回の結末だけをなかったことにして第2部を放送」という紆余曲折をたどったものの、最後は無事にハッピーエンドを迎えました。
なお、本作はdアニメストア、FODプレミアム、U-NEXTなどで全42話が配信中です。「え、第2部なんてあったんだ!?」という方は、ぜひチェックしてみて下さい。
(蚩尤)
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