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『Zガンダム』で初登場の「強化人間」はなぜいつまで経っても普及しないのか

マグミクス / 2024年6月22日 6時25分

『Zガンダム』で初登場の「強化人間」はなぜいつまで経っても普及しないのか

■人間には自由意志があるので……

「機動戦士ガンダム」シリーズの「強化人間」は、アニメとしては『機動戦士Zガンダム』に登場した女性パイロット「ロザミア・バダム」が初登場になります。マンガ『機動戦士ガンダムMSV-R ジョニー・ライデンの帰還』(著:Ark Performance/メカニックデザイン:大河原邦男/原作:富野由悠季/原案:矢立肇)では、一年戦争期に、すでにジオン軍によって強化人間「イングリッド0」や「ユーマ・ライトニング」を実戦投入していた描写があり(ただし、身体能力強化を中心としたもので『Z』以降のものとはやや異なる)、人間を人為的に強化するという構想が、シリーズ最初の年代からあったことがわかります。

 考えてみれば、宇宙世紀は「人類が革新した存在」である、ニュータイプに進化していくという思想が強くある時代ですから、「優れた人間」への希求心が強いのでしょう。また、平時であってもスペースコロニー建設など、過酷な宇宙環境で人間が生存するために、身体能力や判断能力の向上にニーズがあったと想像できます。

 一方で「ジオン・ズム・ダイクン」の説く「人類がニュータイプへ進化する」という思想自体が、「そのように見なされる実例」のひとつもなく大衆を扇動できたとは思えません。「人類が宇宙に出て、判断力が異常に向上した」事例はあったのでしょう。

 さて、一年戦争で「アムロ」「シャア」「ララァ」などが「ニュータイプの脅威」を見せつけたこともあり、連邦でもオーガスタ研究所などで強化人間を作り出します。

 冒頭で挙げたロザミアや、『Z』のヒロインのひとり「フォウ・ムラサメ」は、その強化人間です。どちらも「人為的に強いトラウマの記憶を与えたり、薬物を投与したりすることで、ニュータイプ独特の精神感応波を発するようになった兵士」であり、情緒不安定で、命令にも不服従になりがちでした。いずれも人間の性質としてはさして珍しくないものの、兵器としては未完成といえます。続編『機動戦士ガンダムZZ』の強化人間も同じような描写でした。

 宇宙世紀0093年を舞台に描く映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の「ギュネイ・ガス」もやや情緒不安定ながら、この辺りから「精神的に不安定ではない強化人間」が登場します。宇宙世紀0096年が舞台の『機動戦士ガンダムUC』にてネオ・ジオン残党(袖付き)を率いた「フル・フロンタル」は「ジオンの強い指導者であるシャア」の役割を理解して、ある意味、本物のシャアよりも高い情勢判断能力や精神安定を示していました。

 宇宙世紀0123年を描く『機動戦士ガンダムF91』のラスボス「鉄仮面」こと「カロッゾ・ロナ」も、知性的判断と情緒の安定性のある強化人間として描かれていました。カロッゾは宇宙空間を生身で活動し、MSのコックピットハッチを素手でこじ開けるなど、身体能力も常人を遥かに越えていました。

 つまり「人を強化する技術」はこの辺りである程度、完成したようにも思える一方、宇宙世紀0153年を舞台とする『機動戦士Vガンダム』小説版(著:富野由悠季/KADOKAWA)では、強化人間の「カテジナ・ルース」や「ファラ・グリフォン」は、極めて情緒不安定な人間として描かれていました。カテジナの描写を考えると「元々情緒不安定な人間は、強化しても情緒不安定」なのかもしれません。

■強化人間になるにも素質が必要…?

ニュータイプのバナージ(左)と強化人間のフル・フロンタル。『機動戦士ガンダムUC 2』DVD(バンダイナムコフィルムワークス)

 さて、フル・フロンタルや鉄仮面の能力は、ニュータイプである「バナージ・リンクス」や「シーブック・アノー」と大差なく、身体能力では上回っています。

 そうであるなら、MSパイロットになる者は全員強化すれば、それだけで自陣営の戦力が大幅に増強されるようにも思えます。宇宙世紀の戦闘において「戦いは数」ではないことは、ニュータイプ用兵器を搭載したMSが多数の敵をも圧倒することで示唆され、つまりパイロットの能力は戦争の勝敗を左右するものです。

 しかしながら、そのようにはなっていません。

 強化人間を量産しない理由はいくつか考えられます。ひとつ目は「素質」です。「ガンダムフロント東京」で上映された映像作品『機動戦士ガンダムUC One of Seventy Two』には、「ニュータイプ能力の素養を見せた」ことで、「ティターンズ」に誘拐された強化人間「リタ」が登場します。

 つまり「全ての人類がニュータイプになれるわけではなく、元々あるニュータイプ能力を引き出しているのが強化人間なので、素質がなければ強化人間にもなれない」ということも考えられるのです。フロンタルや鉄仮面は、強化する前から鋼メンタルで、ニュータイプの素質もあったという考えです。

 また、ニュータイプ能力を引き出すための、記憶の捏造や薬物の投与などといった手段も、強化人間を量産しにくい理由なのでしょう。ニュータイプは「感応性」が非常に高いことで、相手の気配や思考を読むことなどを可能としています。そうした感受性に優れた少年少女を強化人間にした場合、「優しくされたから寝返る」「相手に共感して戦闘不能」といったようなことが起こり得ます。実際、ロザミアもフォウも敵対組織の「カミーユ・ビダン」と共感して、自らの所属組織であるティターンズへの敵対行動を取っています。

 強化人間は製造コストも高いでしょうし、その能力を維持するために医療的措置を継続する必要があるなど、手間もかかることでしょう。それが寝返ったなら、強化人間を作った組織側は一般兵士による裏切りの何十倍もダメージを受けることになります。

 そうしたことから「寝返る心配がない人物」である組織の指導者や、戦争に負けそうで一発逆転を狙いたい陣営くらいしか、強化人間を作らなくなっていったのでしょう。

 この考察が仮に正しかったとした場合、すなわちニュータイプどころか強化人間になれるかどうかも、結局は持って生まれた素質に左右されるとした場合は、シャアが生涯やろうとしていた「全人類を宇宙に上げることで、ニュータイプへの覚醒を促す」ことは、無意味となってしまうように思えます。ただ、宇宙世紀の年代が進んでも登場人物のニュータイプ率は大差ないことを考えるなら、やはり「選ばれた者だけがなれる」のがニュータイプなのだと結論付けられるかもしれません。

(安藤昌季)

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