憧れの『ドラクエ4コマ』作家 プロデビューの夢を叶えた、たるみ先生インタビュー
マグミクス / 2020年2月27日 11時50分
■ゲームを知らなくても面白かった『ドラクエ4コマ』
1990年にコミックス第1巻がエニックス(現:スクウェア・エニックス)から発行された『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』(以下、ドラクエ4コマ)は、ゲームやマンガが好きな子供たちから絶大な人気を得ました。
読者投稿の企画「ドラクエ4コマクラブ」もファンが多く、投稿者からプロデビューした作家は後に「月刊少年ガンガン」「月刊少年ギャグ王」などの「ガンガン系」マンガ誌でも活躍。個性豊かな『ドラクエ4コマ』の作家は、読者にとって憧れの存在でした。
当時、『ドラクエ4コマ』の熱烈なファンであり、自らも投稿者として作品を執筆。やわらかで愛らしい造形のキャラクターが特徴で、投稿者時代から独自の存在感を放っていた、たるみ先生にお話を聞きました。
* * *
ーー『ドラクエ4コマ』をどのように知りましたか?
弟が持っていた単行本を見て知りました。もしひとりっ子だったら知らないままだったと思います。当時、ゲームはほとんどやったことがなくて、ドラクエがどういうゲームなのか知らないまま何となく手に取りました。
でも、『ドラクエ4コマ』って元ネタが分からなくても面白いんですよ……! 当時1~3巻まで出ていましたが、弟の本をかなり読み込んでしまったので自分用の単行本も新たに買い足しました。
4巻の発売日があまりにも待ち遠しく、いざ当日になるとドキドキで、学校帰りに友人に書店へ付き合ってもらい購入したことをいまだに覚えています。
ーー『ドラクエ4コマ』を投稿し始めたきっかけはありましたか?
『ドラクエ4コマ』単行本の巻末に読者投稿作品が載っていた頃は、掲載倍率が高すぎて載る気がしなくて……。ただ、読者コーナーが盛り上がっていて楽しそうな雰囲気は感じていたんですね。その折に「ドラクエ4コマクラブ」が設立され増ページになったので、「これなら載せてもらえるかも!?」と投稿を始めました。
元々は、当時あった小学生向けの少女マンガ誌「ぴょんぴょん」のギャグマンガ枠を志望していて、投稿する予定もありました。親が厳しいこともあり、小学生の頃に読めたマンガは小学館の学年誌と学研の学習・科学が主でした。そのため自然と児童向け作品を志望するようになったのだと思います。
ただ実際に『ドラクエ4コマ』を投稿し始めたらそちらに夢中になってしまって……ここで大きく運命が変わりました。
ーー初めて入選した作品を覚えていますか?
ホイミンネタで、『もちろん人間』というタイトルです。投稿時に原稿が半ページ空いたため穴埋めのつもりで描いたネタだったのですが、まさかの「キングスライム賞」をいただきとても驚きました。
今思えば、「自分が面白い」と感じるネタと「他の人が面白い」と思うネタには大きな差異がある、ということを初めて体験した瞬間かもしれません。それ以来、面白いかどうか迷ったら、とにかく描いて投稿するようになりました。
ーー初めての投稿から入選までどのくらいかかりましたか?
2度目の投稿で初入選させていただきました。「月刊少年ガンガン」本誌の「4コマクラブ」のページをチェックしていた時は自分が描いた作品だと気付かなくて「変な絵だな~」とスルーしそうになったのですが、一緒に見てくれていた友人に「いや載ってるよ!!」と教えてもらった思い出があります。
ーー副賞の4コマ専用原稿用紙は、実際に使いましたか?
もったいなくて一度も使えませんでした……! 今思えば数枚だけ記念に取っておいて、あとはパーッと使えば良かったです。
ただそれとは別に、印刷ミスで副賞にならなかった4コマ専用原稿用紙というものも存在しまして、それを編集部からたくさんいただきました。枚数が多かったのでそちらはネーム用紙としてめいっぱい使いました。マンガ原稿用紙にネームを描くだなんて贅沢ですよね。投稿用に作られただけあって、とても描きやすい紙でした。
■マンガを描くのに反対していた両親の、手の平返し!?
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ーーご家族は、『ドラクエ4コマ』の投稿を応援してくれましたか?
家が厳しくて、両親からの理解が得られないまま投稿を続けていました。猛反対とまではいきませんでしたが「マンガなんて……」といつも渋い顔をされていた印象ですね。
ただ、デビューが決まってからは4コマの単行本を読んでくれたりあまつさえ親戚中にばらし始めたり(笑)。大きな手のひら返しが来たので、「プロ」という肩書きは非常に大きいものなんだなあと感じました。デビュー以降は仕事という大義名分を得たこともあり、だいぶ描きやすい雰囲気になりました。
ーープロデビューした経緯を教えて下さい。どのように編集部から連絡が来ましたか?
元々、期限を決めていて、2年間でプロデビューできなかったら諦めて他誌に投稿しようと考えていました。
『ドラクエ4コマ』の投稿をし始めた時に半年間でノート5~6冊分ほどネタを描き溜めたのですが、1冊30枚のノートだとしても1か月に120本ネタを出しているんです。半年だと120×6か月で720本以上。ずっとそのペースでネタ出しをするのは、さすがに難しいかなと思っていて。
もちろん投稿しながらもネタは継ぎ足していましたが、そもそも2年で芽が出なければデビューも厳しいだろうと判断していました。
その2年が近付いているタイミングでエニックス出版局さんからデビューのお電話があったのですが、投稿時代が長かったのでちょっと現実とは思えなくて……。電話を切ったあとも「今の電話、本物だったのかなあ~」とふわふわした気持ちで、たまたま自宅にいた友人にしっかりしてよ、と励まされていました。
ーー初めてプロとして『ドラクエ4コマ』に自分の作品が掲載された時の気持ちは?
「うれしい!!」「すごい!!」です。
自分のマンガが本当にドラクエ4コマに載ってる……セリフに写植が入っていてあおり文もあって、「えええ……すごおおおお……!」と感動ばかりしていました。あと自分自身が『ドラクエ4コマ』のファンでもあるので、大好きな本に載せていただけたことが誇らしかったですね。
自分のページのひとつ前が池野カエル先生で、ひとつ後が牧野博幸先生だったので自身の作品の拙さに悶えましたが、これはどの先生に挟まれても変わらなかったと思います。
後、ネタ出しがものすごく厳しくて、10本に1本も通らないんですよ。50本以上出しても規程のページ数に届かないときはもうダメかと思いました。何とかくぐり抜けられて本当に良かったです……。8巻でデビューさせていただいたのですが、マーニャとスタンシアラ王のネタ『ウケなかったね』は今でも気に入っています。5コマ必要だったので投稿時代は使えずに温めてきたネタでした。これが通った時はとてもうれしかったです。
ーー楽屋裏(作者のあとがきにあたるページ)で「彼氏はいますか?」という質問に答えていらっしゃったのが印象に残っています。
回答はぼかしているのですが、そもそもなぜその質問に触れちゃったんでしょうね……。当時、本当に質問が多かったので、答えないわけにはという気持ちになったのかもしれません。今ならスルーすると思います。編集さんには止めて欲しかった(笑)。
他にも読者の方からの質問といえば「男性ですか? 女性ですか?」という問いをファンレターで数件いただいたことがありました。自分の女子まるだしの作風から男性っぽさを感じ取る人もいるんだ……! と感動したおぼえがあります。面白かったです(笑)。
ーーゲームを実際にプレイする必要もあったでしょうし、ネタ出しや作画などでお忙しかったと思います。作家時代、どんなふうに時間をやりくりされていたのでしょう?
当時は学生だったので、学業の時間が圧迫された感はありますね……。睡眠時間も削っていました。ネタがなかなか通らず作画時間が押してしまい、マンガが描ける友人に手伝ってもらうこともよくありました。マンガを読むのも描くのも好きな友人が身近に複数人いてくれた点は恵まれていたと思います。技術面以上に精神面で大きな支えとなりました。
後はゲームが面白すぎて、ネタ出しそっちのけでやり込んでしまったケースもありました。4コママンガのお仕事をしていなければ出会えなかったゲーム作品がたくさんあります。
■『ドラクエ4コマ』という大きな舞台にいたことを、改めて実感
たるみ先生がデビューした『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』第8巻(画像:たるみ先生提供)
ーー現在は商業作品には関わっていらっしゃらないようですが、同人など、創作はどのような活動をなさっていますか?
5~6年ほど前まではコミケに定期的にサークル参加していたのですが、今は思い立ったとき不定期に同人誌を出すくらいですね。できれば今後も同人・お仕事を問わず絵やマンガは描き続けたいと思っています。
ーーたるみ先生にとって『ドラクエ4コマ』はどんな存在でしょうか?
憧れの舞台であり、やりがいと誇りを感じるお仕事でもあり、自分と同じく『ドラクエ4コマ』が好きな人たちと「好き」の気持ちを共有できる貴重な場でもあり……。まるで宝物のような存在です。憧れの『ドラクエ4コマ』に作家として携われたことを光栄に思います。
Twitterを始めてから当時の読者様と直接お話しする機会が増えましたが、当時子供だった多くの方々が、大人になった今でも自分の作品を覚えていてくださることに驚き、うれしく思いました。なかには「絵を真似した」「影響を受けた」とおっしゃってくださる方もいます。
投稿者や作家として描いていた頃は「『ドラクエ』と『ドラクエ4コマ』が大好きでマンガを描くのも大好き! だから描く!」の一心で突っ走ってきたので、載せてもらっている本の規模を深く考えたことはありませんでした。
当時の読者様に声をかけてもらうたびに、まさかこんなに大きな場だったなんて……と驚かされますし、本当にすごいところにいたんだなあと胸がいっぱいになります。
こちらが一読者として楽しんでいた作品の作者さんが『ドラクエ4コマ』を通して自分のことをご存知だったというケースもありました。とてもびっくりしました……。
現役を退いて何年も経ってから、子供たちに携わるお仕事の大きさや重さというものを肌で感じたように思います。描いたものを多くの方に目にしていただいて、さらに長いあいだ記憶の片隅に留めていただけて本当にうれしいです。
当時の自分を拾って支えてくださった編集の方や応援してくれた周囲の人々、そして拙い私のマンガを読んでくれて今でも覚えていてくださる当時の読者様……。『ドラクエ4コマ』を通して関わったすべての皆様に感謝しています。『ドラクエ4コマ』が大好きです。
(C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
(マグミクス編集部)
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