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『サイボーグ009』最終回はどうなった? 「マンガ史上最高」と「賛否分かれる」2つのエピソード

マグミクス / 2024年7月7日 8時25分

『サイボーグ009』最終回はどうなった? 「マンガ史上最高」と「賛否分かれる」2つのエピソード

■生誕60年を迎えた『サイボーグ009』

 7月7日は七夕です。織姫(ベガ)や彦星(アルタイ)が輝く、夏の夜空を眺める人も多いのではないでしょうか。星空といえば、マンガ史に残る名エピソードを残した石ノ森章太郎氏の人気コミック『サイボーグ009』も思い出されます。

 個性豊かな9人のサイボーグ戦士たちの活躍を描いたSFマンガ『サイボーグ009』は、1964年7月から「週刊少年キング」(少年画報社)で連載が始まり、2024年で誕生から60年となります。集団ヒーローものの先駆作であり、とりわけ1966年から「週刊少年マガジン」(講談社)で連載された「地下帝国ヨミ編」の最終話「地上より永遠に」は、屈指の最終回として知られています。

 石ノ森氏のライフワークとなった『サイボーグ009』とその最終回について、考察します。

■首領の正体が明かされた「地下帝国ヨミ編」最終話

 漫画家としての新人時代を「トキワ荘」の仲間たちと過ごした石ノ森氏が、「トキワ荘」を出て、プロ意識を持って挑んだ最初の連載が『サイボーグ009』でした。連載がスタートした1964年はベトナム戦争が始まり、「地下帝国ヨミ編」を執筆した1966年から1967年はベトナム戦争がますます激化した時代でした。

 009こと島村ジョーたちが戦う相手は、武器商人たちの秘密組織「ブラック・ゴースト」です。実はジョーたちも、「ブラック・ゴースト」によって改造手術を受けた「人間兵器」でした。しかし、ジョーと8人の仲間たちは「ブラック・ゴースト」に利用されることを嫌い、生みの親であるギルモア博士と一緒に逃げ出したのです。

 各国でそれぞれ平穏な生活を送っていた9人のサイボーグ戦士たちは、「ブラック・ゴースト」を倒すために再集結します。地底から来た美女ヘレンに導かれ、「ブラック・ゴースト」の基地がある地下帝国を目指すことに。地下帝国の旧支配者だった食肉トカゲ「ザッタン」、ロボット兵を操る「ブラック・ゴースト」、009たちの三つ巴(どもえ)の戦いとなります。

 敵味方が入り乱れての攻防の末、「ブラック・ゴースト」の首領がいる魔神像に009たちは肉薄します。成層圏への脱出を図る魔神像を追い、001の超能力によって009のみが魔神像内に瞬間移動するのでした。首領の意外な正体を知った009は、「黒い幽霊(ブラック・ゴースト)は、人間の心から生まれたもの。地球上のすべての人間を殺さないと、黒い幽霊も死なない」というシビアな言葉を首領から浴びせられます。

 魔神像は009によって破壊されますが、そこはすでに大気圏外でした。爆発した魔神像から投げ出された009のもとに、飛行能力のある002ことジェットが飛んできます。しかし、ジェットもすでにエネルギーを使い果たしており、ふたりは抱き合うようにして地球の引力に引き寄せられていくのでした。

 このときのジェットの言葉「ジョー! きみはどこにおちたい?」はマンガ史に残る名言となっています。

■流れ星に祈りを捧げた少女の存在

「天使編」が描かれる文庫版コミックス『サイボ-グ009』23巻(秋田書店)

 ジョーとジェットのふたりが抱き合い、夜空を駆け抜ける流れ星になるという、あまりにも美しく、そして哀しいエンディングでした。当時は「BL」という言葉はありませんでしたが、固い友情で結ばれた009と002の最期は、読者に強烈なインパクトを与えました。

 この最終話のプロットは、米国のSF作家レイ・ブラッドベリが1951年に刊行した短編集『刺青の男』の一編『万華鏡』からの影響が指摘されています。『万華鏡』は宇宙ロケットが爆発を起こし、搭乗員たちが宇宙空間に放り出され、そのなかのひとりが地球へ落ちていくまでを描いたものです。

 SF小説を愛読していた石ノ森氏は、間違いなく『万華鏡』を読んでいたでしょう。しかし、『万華鏡』はひとりで地球に落ちていくのに対し、『サイボーグ009』は信頼しあう男たちがふたりで落ちていくという違いがあります。

 その流れ星を地上で見つけ、「世界に戦争がなくなりますように」と願う少女の姿が最後のページに描かれています。幼い弟を連れたその少女は、石ノ森氏の姉である小野寺由恵さんがモデルだと思われます。石ノ森氏の最大の理解者であり、22歳という若さで亡くなったお姉さんをモデルにして、石ノ森氏が世界平和を願ったエピソードでもあったようです。

■未完のままとなった「天使編」「神々との闘い編」

 感動的な最終回を飾った『サイボーグ009』でしたが、009が002と殉死するという結末は大反響を呼び、編集部や石ノ森氏の自宅には抗議や助命嘆願が殺到したそうです。そのため石ノ森氏はわずか2か月後に、月刊誌「冒険王」(秋田書店)で『サイボーグ009』の連載を再開することになりました。

 復活した009たちは、やがて「ブラック・ゴースト」以上の強敵と戦うことになります。美しい天使の姿をした「神々」が、最強にして最後の敵でした。

 壮大なスケールの物語が展開される「天使編」でしたが、本格的な戦いを前にして001が他の仲間たちに「新しい力をつけてあげる」と伝えるところで連載は中断されました。その後、「天使編」を受け継いだ「神々との闘い編」も、未完のまま終わっています。

 1998年1月に、石ノ森氏は60歳で亡くなりました。石ノ森氏が病床で伝えた『サイボーグ009』のクライマックスの構想は、長男の小野寺丈氏によって小説化され、元アシスタントたちによってコミック化もされています。しかし、やはり石ノ森氏本人の気力と体力が充実していた時期に、『サイボーグ009』の完結編が執筆されていれば……と思ってしまいます。

 001が009たちに与えた「新しい力」とは何だったのか? 時折、そのことを考えます。009が「あとは、勇気だけだ!!」という名ゼリフを口にした「ミュートス・サイボーグ編」や、観念的な世界が描かれた「神々との闘い編」を読む限り、単に009たちの能力をそれぞれパワーアップしたものではないように思うのです。

 世界から戦争がなくなることを、流れ星に祈ったあの少女の無垢(むく)な願いにこそ、そのヒントがあるのではないでしょうか。『サイボーグ009』の真の完結は、争いが絶えない現代社会を生きる私たち読者の心のなかに委ねられているのかもしれません。

(長野辰次)

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