「R指定じゃなくて大丈夫?」 24年上半期の「トラウマ級」アニメ映画たち
マグミクス / 2024年7月8日 19時5分
■公式からの「注意喚起」がそれぞれあった
2024年の上半期が終わり、多数のアニメ映画が公開されました。そのなかには、強烈なインパクトのある、いい意味でトラウマ級の恐ろしさがあるとも語られた作品もあります。これから振り返る3本にはいずれも、公式からの「注意喚起」もあったのです。
●『トラペジウム』
『トラペジウム』は元「乃木坂46」の高山一実さんが、現役アイドル時代に執筆していた小説を原作とした作品です。アイドルを目指す主人公「東ゆう」の物語で、もちろん物理的に誰かを傷つけるような残酷描写はなく、レーティングは全年齢指定なのですが、「心の痛み」を届ける場面の描写は「本気」でした。
主人公が「ガンギマリ」の目で両手を前に出して「こんな素敵な職業ないよ!」と言い、それを見た(一緒にアイドル活動をしていた)友達が「今の東ちゃんは…変だよ…怖いよ」などと涙ながらに口にする場面を、一生忘れることはできないでしょう。
実は、同作は「公開直前PV」から「途中から不穏な場面と言葉が展開していく」内容になっていました。YouTubeの「本編シーン映像」には「彼氏がいるんだったら友達にならなきゃよかった」編もあり、「こんな『編』があってたまるか」というツッコミも出ています。公式から「女の子同士のギスギスがある」どころか、「狂気的」な内容でもあると、はっきり示されていたのです。
そのように露悪的とさえいえる場面がどうしても目立つ一方、それだけを取り上げるのもまたもったいない、「若者が失敗を経験し大切なことに気づく青春物語」として真っ当な作りになっている、全体的には楽しい場面も多いことも重要でしょう。主人公が友達を深く傷つけ、限界まで追い込んだ事実は確かに重いのですが、種々の場面を思い返せば、彼女が友達からどれほどに好きだと思われていたか、いや救いになっていたかが、丹念に示されていたことにも、ぜひ目を向けてほしいところです。
個人的に『トラペジウム』は見るごとに新たな魅力に気付き、現時点で2024年アニメ映画のNo.1で、ずっと大切にしたい作品になりました。多くの劇場で上映は終了となりましたが、7月5日よりセカンド上映がスタートした劇場もあるため、ぜひスクリーンで観てほしい作品です。
●『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』前章/後章
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(略称:デデデデ)の『後章』は 、「拳銃や刃物による殺傷流血の描写がみられる」という理由でPG12指定がされています。浅野いにおさんによる原作マンガからそうだったのですが、宇宙人たちが一方的に虐殺され、人間もまたナイフで出血死する描写もはっきりあり、作中のテロリストたちの言動もかなり危険でした。
また、『前章』では全年齢指定でしたが、公開されている「本編映像」の「門出&おんたんの青春の一コマ編」では、「おんたん」こと「中川凰蘭」が「セックスはしたのか!みだらなセックスは!」と大声で問いかける場面があり、そこからも小さなお子さん向けの内容ではないことが示されていたとも思います(ただ、言葉で語られるだけで、直接的な性描写はほとんどありません)。
その『前章』の終盤では、主人公たちが小学生だった頃の出来事が描かれており、それぞれの心理描写には称賛が集まりました。一方で、ほぼ「絶望」といっていいほどの重い感情も描かれているため、そちらもトラウマになってしまう人もいるかもしれません。
もちろん、それらの残酷描写や心理描写は、作品には必要なものでした。現実にも存在する「正義の暴走」や「人間はこれほどまでに残酷になれること」を示し、一緒の「諦観」的な視点を踏まえつつも、「それでも」な絶望と隣り合わせの希望を提示する物語は、複雑な思考を促してくれます。オリジナルのラストを迎えた『後章』は賛否両論も呼びましたが、それも含めて語り合うことにも意義があるでしょう。
●『ユニコーン・ウォーズ』
『ユニコーン・ウォーズ』は、スペインとフランス合作の、見た目はかわいいキャラクターが登場する作品ですが、「殺傷流血の描写がみられる」という理由でPG12指定がされています。ユニコーンとテディベアの「宗教戦争」を描いた本編では、そのレーティングでもギリギリ(アウトでは?)と思える、銃殺、爆殺、ユニコーンのツノによる串刺しなどの残酷描写が目白押しでした。
さらに特筆すべきはある生物を食べたことによる「ドラッグ」の描写で、その気持ち悪さが伝わる表現と、巻き起こる悲劇から「クスリ、ダメ絶対!」と思えることは間違いないでしょう。
同作のキャッチコピーは「キュートな見た目に騙されるな!小心者、ミルベカラズ」「『地獄の黙示録』×『バンビ』×『聖書』 混ぜるな、危険!! “アブナイ表現”をたっぷり混ぜ込んで作り上げた、“究極の反戦アニメーション”」といったものでした。ポスターの背景でも、よく見るとテディベアの死体が転がっており、かわいい見た目のキャラクターとのとんでもないギャップも、大いに示されていたのです。
グロやドラッグ描写以外でも、主人公のテディベアの兄弟の弟「アスリン」が他人にすぐ嫉妬し、見下し、暴力も振るうなど最低最悪な性格をしていることも、いい意味でイヤな気分にさせてくれます。テディベアたちは全員男であり、アスリンを中心に描かれる「有害な男らしさ」が起こす悲劇にも注目です。
そして、真にトラウマ級なのは衝撃のラストでした。この物語が決してアニメで描かれたファンタジーの絵空事なのではなく、「現実と地続き」なのだと突きつけてくれているかのようです。同作は口コミで評判が広がり、7月中旬から新たに上映館が拡大予定で、ぜひ劇場情報を確認してみて下さい。
(ヒナタカ)
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