「蛮族の武器」こと「ガンダムハンマー」 連邦はなぜこのようなものを作ったのか?
マグミクス / 2024年7月8日 6時25分
■「ガンダムハンマー」は「ロマン武器」か?
TVアニメ『機動戦士ガンダム』に登場した「ガンダム」の武器のひとつ、「ガンダムハンマー」は、現在のリアルロボット路線から眺めると、少々、その枠の外にあるように見えるかもしれません。
ところが、そのモデルとなった武器が現存します。「モーニングスター」という武器で、棘付き鉄球を柄頭に据えた棍棒の一種です。柄と鉄球の間を鎖でつないだ形状の打撃武器も、同じくモーニングスターと呼ばれています(ただし、これについてはただの美術品という説もあります)。その意味ではガンダムハンマーも、実はリアル路線のガジェットだった、といえるかもしれません。
アニメでは第5話「大気圏突入」で初登場しました。タイトルどおり、「ホワイトベース」の一行が大気圏へ突入する間際、「シャア・アズナブル」率いるモビルスーツ(MS)「ザクII」の部隊がこれを襲撃します。「アムロ・レイ」の搭乗するガンダムが迎撃にあたり、そのなかでホワイトベースへ追加の武器を要請し、そして「ガンダムハンマー」は出番を迎えました。
ただ、その扱いは決して良いものではなかったようです。要請にブリッジで応じた「セイラ・マス」は「ガンダムハンマー『しか』」出せない、といった表現をし、そしてアムロも「それでいいです」と返しています。あまり頼りになる武器という認識ではない様子です。とはいえアムロおよびガンダムはこれを活用し、獅子奮迅の戦いを繰り広げ、シャアたちからホワイトベースを守ることに成功しました。なおガンダムハンマーは最後、柄ごとシャアのザクIIに投げつけられ(そしてかわされ)、おそらくそのままデブリ(宇宙ゴミ)となったと見られます。
ここで、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。ガンダムハンマーはいわゆる質量武器といわれるもので、その鉄球にはMSの破壊に足る相応の質量があると見られます。実際、振り回した鉄球がザクIIのボディ部分に当たり、これを破壊していました。
そのようなものを「単純に」宇宙空間で振り回した場合、反作用の力で、ガンダム自身もかなり動くことになります。ブンブン振り回せば、ガンダムもグリングリン回転することになるのです。地に足をつけた状態でなければ、鉄球の威力もほとんど殺されてしまうはずで、つまり本来、宇宙空間ではとても使える武器ではないはずなのです。
これを「使える」ようにする場合、すなわち、スラスターなどでガンダム自身を動かないようにする(反作用をすべて抑制する)となると、かなり高度な姿勢制御技術が必要となるでしょう。果たしてこの第5話当時、連邦のMSに関する技術はそこまで熟成されていたでしょうか。少なくとも、悲鳴嶼さん(『鬼滅の刃』岩柱。得物はガンダムハンマー、のようなもの)のような戦いは到底、無理でしょう。
つまり第5話の時点では、実はハンマーの使用に相当、制限がかかっていた(単純な動きしかできない、等)可能性が考えられます。そのような武器であの戦闘を切り抜けたアムロはやはり、只者ではありません。
■連邦はどうしてそのような武器を作ったの?
遠い未来のハンマー使い。「ROBOT魂 ターンエーガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
ではなぜ連邦軍は「ガンダムハンマー」なる武器を作ったのでしょうか。無論、ガンダムそのものが試作機であり、これでいろいろと試そうとしている、という大前提はあります。
そしておそらく本来は、地上戦およびスペースコロニー内での使用を想定していたものでしょう。特に人が居住するスペースコロニー内での戦闘は、コロニーそのものへの損傷や近隣住民への被害などを考えると、「ビームライフル」など飛び道具の使用は本来、相当ためらわれるはずです。そうした状況に、ガンダムハンマーは合った武器といえるでしょう。地球上やスペースコロニー内など「地に足のついた」状態であれば、高度な姿勢制御の必要はありません。アムロが搭乗するガンダムなら、岩の呼吸を使い始めるのも時間の問題です。
もうひとつ考えられる理由、こちらは鉄球のあのトゲトゲに読み解くカギがありました。あの物語世界において、頻繁に目にするトゲトゲといえば、そう、ザクIIの肩のスパイクです。
ザクIIのショルダータックルは、連邦の艦艇にとって大いに脅威だったはずです。これをガンダムの武器に落とし込むとすれば、ハンマーの形になるのはそう難しい発想ではないでしょう。たとえば敵艦に「足をつけて(何らかの方法で固定して)」振り回せば、とても有効な武器になりそうです。つまりガンダムハンマーは、MS戦ではなく対艦戦闘を想定した武器、という側面もあったのではないでしょうか。
なお、よく混同される「ハイパーハンマー」は、ガンダムハンマーの鉄球部分にバーニアを仕込みその破壊力を増大させるという、恐ろしい武器です。初登場は第26話でした。ところが、こちらも初登場のジオン軍モビルスーツ「ゴッグ」には通用せず、それどころか手でキャッチされるという始末でした。かくして「ガンダムハンマー(ハイパーハンマー)」はとてもとても残念な印象を残しつつ、『機動戦士ガンダム』の表舞台から消えていきます。
それから幾星霜、物語上においても気の遠くなるような年月が流れた後の『∀ガンダム』において、ガンダムハンマーは再び出番を得ます。「遺物」として発掘され、当初は主人公の「ロラン・セアック」に「ふざけてるのか」などと評されるものの、改良が加えられたこともあり、物語を通しなんだかんだ使える武器として扱われていきました。
その終盤、ヒロインのひとり「ソシエ・ハイム」が、自身の操るMS「カプル」でガンダムハンマーを手に戦います。腕部がハサミ状である敵の格上MSに一杯食わせ、「チョキでグーに勝てるわけないでしょ」と彼女が言い放ったシーンに、シビれたガンダムハンマー愛好家は多いことでしょう。やっぱりすごいぞ、ガンダムハンマー。
(マグミクス編集部)
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