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基本負ける? 特撮ヒーロー『アイアンキング』が弱すぎた理由とは

マグミクス / 2024年7月9日 7時10分

基本負ける? 特撮ヒーロー『アイアンキング』が弱すぎた理由とは

■変身するのは主人公ではなく相棒

 ウルトラシリーズや仮面ライダーシリーズなどの特撮作品でヒーローが悪党を倒す姿は、多くの子供たちを魅了してきました。まさに「王道」の展開といえるでしょう。

 しかし、言い換えれば、「最後にヒーローが勝つ」という「予定調和」が成立してしまっている面も否定できません。そういった決まった展開を崩そうとした珍しい作品が、『アイアンキング』です。本作は、勧善懲悪の流れに慣れ親しんだ世代にとって、驚かされる設定が多い作品といえるでしょう。

『アイアンキング』は1972年から1973年まで放送された特撮番組で、「国家警備機構」のエージェントである主人公「静弦太郎」とパートナーの「霧島五郎」が、巨大ロボットや怪獣たちに立ち向かうという物語です。

 近年、動画配信サービスが普及したこともあり、「世代ではなかったヒーローもの」を視聴することが増えた筆者は、『アイアンキング』の第1話を観たところ、想像していた特撮ヒーロー作品と違って驚かされました。

 定番のヒーロージャンルであれば、主人公が変身して悪党たちと対峙しますが、巨大ロボットであるアイアンキングに変身するのは、主人公の弦太郎ではなく、パートナーの五郎でした。また、主人公以外が変身しているにしても、ヒーローなら勝利が期待できるものと思いきや、基本的にアイアンキングは敵に負けてしまいます。

 たとえばウルトラシリーズであれば、活動時間は3分までとされているのに対し、アイアンキングの場合は、たったの1分です。体内の水分がなくなると活動できなくなり、時間が経過すれば、胸にある星型のライトが点滅し、活動限界を迎えると五郎の姿に戻ります。このような厳しい設定で悪党たちと渡り合うのは難しく、敗北が多く描かれました。

 第1話「朝風の密使」を例にすると、巨大ロボット「バキュミラー」と対決したアイアンキングは、必殺技「アイアンキック」を繰り出すものの、一撃で仕留められずにあっさりと反撃されています。ヒーローらしく空中で回転しているシーンもあり、「このまま倒すのか」と期待した矢先の展開で驚かされました。

■弱くなった理由は脚本家のこだわり?

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 では、誰が敵を倒すのかというと、主人公である弦太郎です。もちろん、変身はできないため、生身の状態で「アイアンベルト」というムチに変化する武器を使って巨大な敵に立ち向かいます。第1話では、前述のバキュミラーに対してムチで対抗し、最終的にはバキュミラーのコントローラーを投げつけて大爆発(理屈は不明)させ、勝利を収めるのでした。

 本作では基本的に止めを刺すのは弦太郎であり、アイアンキングは巨大な敵たちを足止めする程度の存在なのです。その後も、アイアンキングが勝利することなく話が進行していきました。そして、初勝利を挙げたのは、第16話に登場した怪獣ロボット「トラギラス」との戦いで、その16話以降はアイアンキングが勝利する流れになるのでした。

 16話以降から「ヒーローが勝つ」という王道のストーリーに変わりましたが、なぜ、それまでのアイアンキングは弱かったのでしょうか。

『アイアンキング』の脚本を担当したのは、『ウルトラマン』や『シルバー仮面』などの作品も手がけた佐々木守さんです。バラエティ番組『マツコ&有吉の怒り新党』の2012年11月7日放送の回では、『アイアンキング』が特集されアイアンキングが弱い理由について「佐々木さんが敵役に対する強い思い入れがあったため」と説明されていました。

 では、佐々木さんは敵にどのような思い入れがあったのでしょうか。洋泉社の書籍『夕焼けTV番長』(1996年発行)では、佐々木さんへのインタビューが掲載されています。佐々木さんは「テレビじゃ反体制の側を主人公にはできないよ」と語りつつ、当時の反体制運動への共感から、彼らを登場させたかったことを語っています。敵役である「不知火一族」(第1話から第10話)には、アイヌや沖縄の人びと、サンカ(山窩)など日本の少数民族を、「独立幻野党」(第10話から第18話)には、パレスチナ解放人民戦線、日本赤軍をイメージしていたことも語っていました。

 また、YouTubeチャンネル「シネマ野郎」では、『夕焼けTV番長』でのインタビュアーも担当したライターの岩佐陽一さんによる、2000年の生前の佐々木さん(2006年没)へのインタビュー動画が公開されています。

 佐々木さんはインタビュー内で、「(自分としては)どっちかと言うとね、不知火一族とか独立幻野党の方に肩入れしたいんだよね。ところがそうもいかない」「(不知火一族)彼らもつまり日本原住民だったわけでしょ。つまり弥生時代に入ってきたやつらに我々は侵略されたんだ」「不知火一族とか独立幻野党なんてのは、ああいうところに逆に僕なんかね かなり自分の思いを込めてるところがあるんですよね。ドラマ的には敵役しているけどもね」と、敵キャラたちについての思い入れを語っていました。

 また、佐々木さんは、当時の若者には「世の中を変えたい」という気持ちがなくなったと言及し、自身が若い頃の同世代には「世の中を変えるんだ」「権力と戦うんだ」という精神があったとも話しています。恐らく佐々木さんは、そういった背景を敵役に込めたことで、より思い入れが強くなったのではないでしょうか。

 一般的な「ヒーロー像」とはかけ離れており、昭和の作品なのにもかかわらず、新鮮な感覚で楽しめる『アイアンキング』は、Amazon Prime Videoの「マイ☆ヒーローチャンネル」で視聴可能です。

(LUIS FIELD)

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