なぜ『ガッチャマン』は国民的ヒーローアニメになった? 人気の理由を読み解く
マグミクス / 2024年7月21日 9時5分
■超ロングランになったのは画期的だったから……じゃない?
日本のテレビアニメ黎明期から業界を牽引し、数多くのオリジナル作品を次々と送り出してきたタツノコプロ、その代表作のひとつである『科学忍者隊ガッチャマン』は、今年で放送終了から50周年目を迎えました。最近でも大手企業とのCMがあり、時計などコラボ製品も発売されており、人気は衰えを見せていません。
これほどに定着しているのは、元々のテレビシリーズが幅広い支持を勝ち得ていたためです。1972年10月から1974年9月まで約2年ものロングランで平均視聴率は17.9%、最高視聴率は26.5%を記録しています。押しも押されもせぬ、超のつく人気番組だったわけです。
なぜ2年もの間、安定した人気がキープできたのでしょうか。すべてが画期的だったから……というわけではないでしょう。あまりに新しすぎるものは、視聴者の理解が追い付かず、リアルタイムの評価も恵まれずじまいで「早すぎた名作」と言われがちです。
今の目で振り返ると、本作は「すでに人気のあるアニメや特撮のいいところ取り」をし、「少し時代を先取り」した作品でした。前者については、一つひとつ磨きあげて最高の状態にまで持っていく、後者はまだ荒削りな要素ながらも、視聴者には未来を見せ、後世の作品に進化の種を残した、といったところです。
「怪獣モノ」と「変身ヒーロー」の欲張りセット
まず、本作は「怪獣モノ」でした。雨降りしきるなか、重量感ある巨体がのし歩き、レーザー光線が貯蔵庫を蹂躙、あたり一面火の海になり、赤く染め上げられる鉄の巨獣……第1話を華々しく飾った敵メカ「タートルキング」は、怪獣映画のセオリーに則った威圧感と暴れっぷりでした。
本作が始まる前年の1971年は、第二次怪獣ブームが巻き起こった年にあたります。一度は下火になった怪獣人気は、旧作の再放送や着ぐるみを再利用した『ウルトラファイト』のヒットからソフビ人形の売れ行き増につながり、やがて『宇宙猿人ゴリ』(後の『スペクトルマン』)や『帰ってきたウルトラマン』が放送を開始しました。さらに『仮面ライダー』も始まったことで、変身ヒーローブームとも呼ばれています。
そのようななか、本作は毎回のように「鉄獣メカ」という名のロボット怪獣が世界を混乱に陥れ、ときには地球を滅亡させかねない大惨事を招きました。特撮であれば大がかりなセットを用意する必要がありますが、アニメであれば「絵」さえ用意すればスケールはいくらでも大きくできる強みがあります。各話のサブタイトルにも何度か「怪獣」が入っており、そちらに寄せるのは意図的だったのでしょう。
しかも、本作は「変身ヒーロー」でもあります。「大鷲の健」が変身するついでに愛機の小型飛行機まで変形(原形を留めていないので変態?)するのはやり過ぎの感も……「第2次怪獣ブーム」と合わせた欲張りセットだったのです。
■「5人そろって」はガッチャマンが先だった
左から「みみずくの竜」「白鳥(しらとり)のジュン」「大鷲の健」「コンドルのジョー」「燕(つばくろ)の甚平」 (C)タツノコプロ
第2に、本作は「5人ヒーロー」の原点であり、複数人ヒーローチームの集大成的な位置づけでもあります。
こんにち、「スーパー戦隊」シリーズの第1作として扱われる『秘密戦隊ゴレンジャー』の放送開始は1975年5月のことで、本作『ガッチャマン』はそれよりも3年前に当たります。
かといって、『ガッチャマン』はチーム戦隊の元祖ではありません。それ以前にテレビアニメ『レインボー戦隊ロビン』や『サイボーグ009』もあり、タツノコプロ創始者である吉田竜夫氏が原作の特撮番組『忍者部隊月光』もありました。
それぞれに人気を勝ち得た作品群ではありますが、それぞれ「少年の隊長のもとのロボット部隊」「スパイアクションが大流行していた昭和30年代」という背景を持ち、そのまま現代劇(昭和40年代とはいえ)に持ってくるわけにはいかないでしょう。また9人のサイボーグ戦士も、石ノ森章太郎先生の大長編マンガ原作あればこそで(当時は石森名義)、1話30分弱のオリジナルアニメでは扱いかねていたはずです。
そして本作の5人は、熱血漢、ニヒル、紅一点、子供(ターゲット視聴者と同じ年齢層)、巨漢とハッキリとした個性を与えられています。この中では熱血漢とニヒルのライバル関係、紅一点の恋愛感情、子供の意外な活躍、いざというとき頼りになる巨漢など話のバリエーションが作り放題です。
この型がいかに優れているかは、『ゴレンジャー』や『超電磁ロボ コン・バトラーV』のメンバー構成に踏襲されていることでも証明されています。各メンバーが操縦する「Gメカ」が合体して大型戦闘機「ゴッドフェニックス」になるのも先取り……と言いたいところですが、ゴッドフェニックスは「一番大きなG-5が他の4機をほぼ収納しているだけ」なので、その域には至っていません。
また基本5人という数は最近のスーパー戦隊が引き継いでおり、それぞれのキャラクターを掘り下げられていることでも「最適解」なのでしょうね。
『マッハGoGoGo』と『機動戦士ガンダム』の狭間にあるメカデザイン
さらに注目すべきは、登場メカがどれも秀逸だったことです。本作がアニメ史上初めて、空想メカをデザインする役職として「メカニックデザイン」をクレジットしたのは広く知られている事実です。
その史上初のアニメ・メカデザイナーとされたのが、中村光毅氏と大河原邦夫氏のおふたりでした。つまり、後の『機動戦士ガンダム』での美術監督&メカデザインの名コンビです。
中村氏は美術監督でありながらタツノコプロ作品のメカデザインを早くから手掛けており、『マッハGoGoGo』の「マッハ号」や『ヤッターマン』の「ヤッターワン」が有名でしょう。大河原氏のご活躍は言わずもがなですが、元々は中村氏の弟子であり、背景マンからメカデザインへと転じたのでした。
本作で中村氏はゴッドフェニックスを手がけ、大河原氏は敵メカや自動車などほか全てを任されました。さらには『ファイナルファンタジー』シリーズで知られる天野喜孝氏もタツノコ在籍時代、本作に関わり、天野氏が「ミイラ巨人」を、壊れるにつれ露出するその内部メカを大河原氏がデザインするなどしています。
タツノコにいたふたつの巨大な才能が、やがて違う制作スタジオの『機動戦士ガンダム』に参加し、師匠はスペースコロニーやホワイトベース内部の生活感あふれる美術を手がけ、弟子は主役ロボの存在感を食うほど「ザク」などモビルスーツを続々と量産しました。その原点である『ガッチャマン』が異彩を放っていたのも頷けることです。
(多根清史)
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