劇場版『ガンダム』で「消された」重大な要素 その後の歴史が変わった可能性も…!?
マグミクス / 2024年7月22日 6時25分
■出番が大幅カットされたジオン公国軍の智将とは?
最初の『機動戦士ガンダム』、いわゆる「ファースト」を未視聴の方に勧める際、「TVアニメ版」と「劇場版三部作」のどちらを観てもらうかは悩ましいテーマです。TVアニメ版は全43話もあって視聴に時間がかかるのが難点で、逆に劇場版は総集編的な位置づけなので気軽に観られるぶん、TVアニメからカットされた部分が多々あります。
しかもTV版から「消えた」要素のなかには、ガンダムファンにとって看過できない部分もあり、「お気に入りのエピソードが消えた」と嘆く声は少なくありません。
また、劇場版三部作で出番が大幅に減ったことにより、物語のなかでの運命まで大きく変わった人物もいました。その代表格が、ジオン公国軍の「マ・クベ」大佐です。
マ・クベは、TV版ではモビルアーマー「アッザム」と、モビルスーツ「ギャン」に搭乗し、「アムロ・レイ」の操る「ガンダム」を相手に奮戦します。しかし、ギャンに乗って出撃したテキサスコロニー周辺での戦いでガンダムに敗れ、「おお、ウラガン、あの壺をキシリア様に届けてくれよ」「あれはいい物だー!」という、ファンにとってはおなじみのセリフを遺して壮絶な戦死を遂げました。
劇場版では、このふたつの機体の出番がないうえに、マ・クベ自身の出番も削られています。ちなみに、TV版で描かれたアッザムvsガンダムの戦いのなかには、特殊兵器「アッザム・リーダー」によってガンダムを追い詰めたときに「ガンダムがしゃべりだす」という大変珍しいシーンがありました。
そしてマ・クベが愛機ギャンを駆ってガンダムに挑んだ「テキサスの攻防」は、パイロットとしてのマ・クベの非凡さを感じられた、見どころ満載の一戦です。
マ・クベは、遠距離から「ニードル・ミサイル」「ハイドボンブ」で牽制し、設置型のブービートラップまで活用して、ギャンの真骨頂である白兵戦へとガンダムを誘導します。マ・クベの狙い通り、得意の近接戦闘に持ち込めましたが、残念ながら本物のニュータイプとして覚醒しつつあったアムロの反応速度が上回り、敗れてしまいました。
本質的には指揮官であるマ・クベが、パイロットとしてガンダムの撃破に固執したのは、敬愛する「キシリア」に報いるためでした。それとともに、「ドズル」のもとに居場所がなくなった「シャア・アズナブル」がキシリアに拾われたこともあって、「テキサスの攻防」では、マ・クベがシャアに対するライバル心を剥き出しにしたのです。
マ・クベとアムロが戦っている途中、シャアがガンダムを狙って援護攻撃を行い、その援護が誰のものかわからなかったマ・クベは「味方のモビルスーツか!」とホッとした表情を浮かべました。しかし、その援軍がシャアの「ゲルググ」だとわかると、「シャア、退けぇ!」と激昂したのです。
智将マ・クベなら、ガンダムを効率よく倒すために、シャアの助力を得たほうが得策だと分かっていたはずです。しかし、あの冷徹なマ・クベが己の感情を優先させたあげく、結果的に敗れるという、人間ドラマが描かれた興味深いエピソードでした。
あまり感情を表に出さないマ・クベが、人間らしい部分を垣間見せたTV版のシーンに心惹かれた者からすると、劇場版でギャンの戦いが丸々カットされたのは、少々納得のいかないところです。
ただし劇場版での改変は、マ・クベ好きにとって悪い面ばかりではありません。ギャンの出番が消えたことにより、マ・クベはテキサスコロニーで戦死せず生存していたのです。
また、劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』では、ソロモン要塞を脱出してきたドズルの妻「ゼナ」と、その娘「ミネバ」を救出した場面が描かれています。TV版にも同様の流れはあり、そちらではゼナとミネバが乗った脱出ロケットを一度は見捨てようとして、部下に進言されて渋々回収したという経緯がありました。
こうしたマ・クベの非情な態度は劇場版ではカットされており、劇場版ではソロモン陥落の報を聞いたマ・クベが「ゼナ様とミネバ様をお助けできただけでもよしとすべきか……」などとつぶやいています。
キシリアの政敵だったドズルの妻と娘に対する言葉なので、どこまで本心かは分かりませんが、もしもマ・クベが一年戦争を生き抜いたとしたら、その後のミネバと関わった可能性があったのかもしれません。
ちなみに、劇場版の設定で「その後」が描かれた、北爪宏幸氏によるマンガ『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』(KADOKAWA)では、ゼナやミネバたちを「ア・バオア・クー」から離脱させようとするマ・クベが登場します。彼女たちが乗った艦艇を護衛すべくマ・クベはギャンで随行し、連邦のマゼラン級戦艦による砲撃が直撃して戦死しました。
(大那イブキ)
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