人気作『宇宙刑事シャリバン』トラウマ回で視聴率が低下 「第34話」の恐怖
マグミクス / 2020年3月4日 7時10分
■人気の『宇宙刑事シャリバン』トラウマ回で視聴率が下がる事態に!
1983年3月4日、『宇宙刑事シャリバン』(以下、シャリバン)の放送が始まりました。『宇宙刑事ギャバン』に続く「宇宙刑事シリーズ」第二弾である本作は、科学と怪奇の要素を融合させた世界観をスタッフの熱意により見事に映像化し特撮ヒーロー番組の傑作となりましたが、第34話で起きたある出来事で視聴率が低下してしまいます。果たして第34話で何があったのか、当時を体験したライターの早川清一朗さんが語ります。
* * *
『シャリバン』の本放送当時、筆者は第34話で見るのをやめてしまいました。翌週以降、母親に「シャリバン見ないの?」と聞かれても、慌てて首を横に振っていた記憶があります。
ついこの間まで、「シャリバン見る!」と言ってTVを占拠していた子供が、急に見ないと言い出したのだから、母親としてはかなり不思議だったのではないでしょうか。
筆者が『シャリバン』を見なくなった理由、それは第34話から登場した宇宙犯罪組織マドーの軍師・レイダーが発する圧倒的な恐怖におびえていたからなのです。
第34話を見たその日の夜は、悪夢にうなされました。夢に出てきたレイダーは、筆者や近所の人とその家族を大きな公園に集めて、それぞれの家族のなかで、だれかひとりを生贄に差し出せと迫ってきました。夢の結末は覚えていませんが、レイダーのインパクトはそれほど強烈だったのです。
子供といえども、特撮番組が作りものであることはわかります。画面のなかの存在は役者が演じていることも理解している、それにも関わらずレイダーが発する恐怖は、画面のなかからダイレクトに突き刺さってくる現実感がありました。
レイダーを演じていたのは安藤三男氏。『人造人間キカイダー』のプロフェッサー・ギル役や『イナズマンF』のガイゼル総統役、『秘密戦隊ゴレンジャー』で黒十字総統役、『東映版スパイダーマン』ではモンスター教授役を演じるなど、日本の特撮番組黎明期に、数々の印象的な悪役を演じてきたレジェンドです。
しかしながら『シャリバン』の時期は体調を崩していたそうで、確認できた限りでは、レイダーが最後のレギュラー出演役となりました。はっきりとした没年は分かっていません。
■子供にトラウマを植え付けた、安藤三男氏の鬼気迫る怪演
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この記事を書くにあたり、意を決して第34話「総毛立つ幽鬼は死霊界への案内人」を見てみましたが、レイダーは登場した瞬間から恐怖そのものです。雷鳴と共に現れたレイダーが、足を動かさずスーッと移動するだけでも背筋が凍るものを感じます。
「シャリバンなど赤子の手をひねるがごとし」と淡々と言い放ったレイダーが、実際にシャリバンを翻弄する光景を見た魔王サイコは「マドーの指揮を取らないか」と持ち掛けますが、レイダーは「有象無象の指揮を取るのは骨が折れる」と一蹴します。
これに怒ったガイラー将軍がレイダーに斬りかかり首を跳ね飛ばしてしまうのですが、斬られた首がマドー基地のなかを飛び回り、気付けばガイラー将軍の首がレイダーの首と入れ替わっているのです。今見ても相当の恐怖を感じるので、小学生の頃の筆者はこのシーンで完全に怯え切っていたと思います。
直接戦闘でもレイダーはヒャクメビーストと共にシャリバンを苦しめます。半透明となったレイダーにはシャリバンの攻撃が通じず、逆にレイダーは一方的にシャリバンを痛めつけます。ヒャクメビーストをかろうじて倒したシャリバンでしたが、レイダーの攻撃で受けたダメージは深く、危篤状態に陥り一時はギャバンの復帰が検討される状況になってしまうのです。
かろうじてシャリバンは蘇生を果たしますが、レイダーの底知れぬ力と不気味さに、終始圧倒された回でした。
脚本を担当した故・上原正三氏も、娘さんがレイダーの登場シーンでは画面から目を背けていたと後に語っているので、筆者と同じようにレイダーへの恐怖心を感じていた子供は多かったのでしょう。第34話が放送されてから『シャリバン』の視聴率が低下したというのもうなずけます。安藤三男氏の病身をいとわぬ鬼気迫る熱演が、番組離れを引き起こしてしまったのは悲運としか言いようがありません。
その後、レイダーは第49話で魔王サイコを裏切って倒しますが、復活した魔王サイコとその分身である戦士サイコラーによって殺害されてしまいます。次番組『宇宙刑事シャイダー』 の準備稿ではレイダーがサイコを倒し、万年王国を建設する展開も予定され、レイダーに対抗する霊能力者が登場することになっていたそうです。
筆者は『シャイダー』で「宇宙刑事シリーズ」の視聴を再開していますが、もしレイダーがボスとして健在だったら、どうしていたのかは分かりません。『シャイダー』の挿入歌「不思議ソング」に合わせて踊るレイダーの姿も、今であればちょっと見てみたい気もしています。
※参考文献:『宇宙刑事大全 ギャバン・シャリバン・シャイダーの世界』(双葉社)
(早川清一朗)
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