「ジオング」の「脚」はホントに無駄なのか? 独自理論AMBACとその実用性
マグミクス / 2024年7月23日 6時25分
![「ジオング」の「脚」はホントに無駄なのか? 独自理論AMBACとその実用性](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_244207_0-small.jpg)
■巨大ロボットアニメの根幹を揺るがす素朴な疑問
『機動戦士ガンダム』には、たびたび盛り上がる定番のテーマがあります。そのなかのひとつが「ジオング」の脚にまつわる議論です。アニメ本編において「現状でジオングの性能は100%出せます」と整備兵は言いましたが、果たして本当なのでしょうか。
●モビルスーツに脚が必要な理由
そもそも『ガンダム』に限らずロボットアニメにおいて、宇宙で戦う兵器に手足が必要なのかという素朴な疑問があります。実際の宇宙開発に使われている探査機や、宇宙飛行士が船外活動の際に装着する有人機動ユニットMMU(Manned Maneuvering Unit)は、スラスター(推進システム:thruster)による姿勢制御を行っており、人型をしていません。
腕については、実際の宇宙船にマニピュレータがついていることから、汎用性のある兵器マウントとしての役割があると言えないことはありませんが、脚に関しては、格闘しないのであればスラスターでよいのではないか、つまり脚がないジオングで良いのではないか、ということです。リアリティのある作品世界を求めるファンからすると、好ましくない結論だといえるでしょう。
しかし、このような疑問に対するSF的な理論武装は存在します。それが人型兵器の有用性を主張するための、ガンダムユニバースにおけるオリジナル理論、「AMBAC(アンバック:Active Mass Balance Auto Control 能動的質量移動による自動姿勢制御)」です。
AMBACとは、胴体から伸びている手足を旋回させることで慣性を生み出し、スラスターによる姿勢制御を補助するというものです。スラスターの生み出す直線的な軌道に変化をつけられそうですし、パイロットの技量が大きく反映されそうです。
またAMBAC機動はYouTubeの「バンダイ公式チャンネル BANDAI OFFICIAL」に動画がアップされていることもあり、ガンダムユニバースにおいて重要な理論だといえます。
このことから、つまり脚のないジオングはAMBAC機動ができないため、やはり不完全だったという見方のほうが有力と思われます。さまざまな「ガンダム」派生作品で、脚のある「パーフェクト・ジオング」が、ジオングの上位機体として存在するのもそのためでしょう。
シャア・アズナブルに対し、ジオングの性能は100%出せるといった整備兵が、AMBACを知らないはずはありません。不完全な機体に搭乗するエースパイロットを不安がらせないよう、「脚がついていない」とこぼしたシャアに、「あんなの(脚)は飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」と強気な発言をしたのかもしれません。
■AMBACはホントに有効なの?
ゲームなどではたいてい上位機種に位置づけられる。「ROBOT魂 〈SIDE MS〉 MSN-02 パーフェクトジオング ver. A.N.I.M.E.」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
ではガンダムユニバースの独自理論であるAMBACは、リアルでも有効なのでしょうか。本当に効果的なのであれば、姿勢制御の際の推進燃料を節約したい宇宙探査機にも脚に該当するパーツがあるはずです。
実はこの点についてもすでに検証がされており、無重力下で推進方向を変化させようと能動的に手足を振り回すと体が逆に回ってしまうため、軌道は変わらないという結果が出ています。
残念な検証結果ですが、一方でモビルスーツの場合、脚部にスラスターを備える機体もあり、それらとAMBACの組み合わせは有用そうに見えます。脚部になくとも体を回転させることで希望の方向に機体のスラスターを素早く向ける、といったことも可能でしょう。重いものを振りまわすことによって生まれる慣性だけでなく、スラスターの角度を調整しつつ、格闘にも使える部位と考えれば、脚があることにも一定の合理性が見出せるのではないでしょうか。
もっとも、オタキングとして知られる元ガイナックス社長の岡田斗司夫さんは、自身のYouTubeチャンネルで、ジオングに脚は不要との意見を述べています。AMBACの実用性を考慮しても脚がないジオングにはおそらく(姿勢を制御するための)ジャイロが入っているはずなので問題ない、そもそも首だけになって飛ぶというのは富野由悠季なりの「平将門」であり、あれはジオンの亡霊である、とのことです。
●シャアはどう思っていたのか?
ちなみにジオングに搭乗するシャア本人の考えについては、富野監督による小説『密会 アムロとララア』で「シャアはジオングの形状に不安を持っていた」と明記されています。なぜかと言うと、「有機体が想像した究極の形は、あらゆる意味で最高の柔軟性を持っている。それを機械的に最高の性能を発揮させることが難しくても、人型という造形の意味はうしなわれることはない。だから、至高の形を与えられた人は、その形を謙虚にうけいれて、その形をつかわなければならなかったのだ」とのことです。
シャアは人型の柔軟性が失われることを嫌っていたようで、やはり足のついたモビルスーツの方が信頼できたようです。そもそもシャアが「赤い彗星」の異名を獲得したのは、撃墜数だけでなく、岩石を蹴りながら加速していく操縦テクニックも大きく影響しています。
シャアはジオングを除いて非・人型のMSに搭乗したことはありません。モビルスーツの戦闘力はパイロットと機体性能の総合力です。機体だけでなく、パイロットとの相性も重要なファクターだといえるでしょう。シャアとの相性といった意味でもやはりジオングに脚はあったほうが良かったと思われますが、みなさんはどのように思いますか。
(レトロ@長谷部 耕平)
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