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マンガ版『キカイダー』、TV版と違う衝撃の最終回 石ノ森章太郎が描き続けた不完全な主人公像

マグミクス / 2024年7月27日 7時5分

マンガ版『キカイダー』、TV版と違う衝撃の最終回 石ノ森章太郎が描き続けた不完全な主人公像

■「自分は何者か?」に悩む主人公

 手塚治虫氏が「マンガの神さま」と呼ばれたのに対し、手塚マンガに憧れて漫画家になった石ノ森章太郎氏は「マンガの王さま」と称されました。「王さま」の称号にふさわしく、石ノ森氏は多彩なマンガを生み出し、『サイボーグ009』や『仮面ライダー』などアニメ化や実写ドラマ化された作品も多く、マンガ文化の普及に大きな役割を果たしました。

 石ノ森作品の主人公は、ある特徴があります。『サイボーグ009』の009こと島村ジョーのユニークなヘアスタイルも気になるところですが、「自分は何者か?」というアイデンティティーに悩むナイーヴな主人公が多いという点です。

 NET(現在のテレビ朝日)系で1972年7月から放映され、同時に「週刊少年サンデー」(小学館)で連載された『人造人間キカイダー』も、悩める主人公の物語でした。大人気だった特撮ドラマ版とは異なる、マンガ版『キカイダー』の衝撃的だった最終回を考察します。

■不完全な「良心回路」を持つキカイダー

 1971年にTV放映が始まった『仮面ライダー』は、空前の「変身ブーム」を巻き起こしました。強くてかっこいいスーパーヒーローに変身する石ノ森作品の主人公に、子供たちは憧れました。

 仮面ライダーに続く、新しい変身ヒーローとして登場したのがキカイダーです。青と赤との鮮やかなカラーリングに、頭部の一部はスケルトン状。しかも、左右非対称という画期的なデザインのヒーローでした。

 主人公のジローことキカイダーは、天才科学者である光明寺博士によって生み出された人造人間です。ジローには不完全な「良心回路」が埋め込まれています。不完全ゆえに、ジローは悪の首領プロフェッサー・ギルの吹く笛の音色によって、狂わされることがあります。欠陥のある主人公という設定に、子供たちはより関心を持ったものです。

 当時の子供たちは、渡辺宙明氏による軽快なテーマ曲が流れる特撮ドラマに夢中になりました。ライバルであるハカイダーの登場にもワクワクしました。1973年からTV放映が始まった続編『キカイダー01』には、ジローの兄という設定のイチローことキカイダー01(ゼロワン)に加え、女性型ロボットのビジンダーが登場しました。マリ/ビジンダーを演じる志穂美悦子さんの胸の第3ボタンに、視線は釘付けになりました。

 しかし、後年になってマンガ版『キカイダー』の最終回を読んだとき、少年期のそうした思いはすべて吹き飛ぶほどの衝撃を覚えたのです。

■マンガ版最終話、キカイダーが下した驚愕の決断

著:石ノ森章太郎『石ノ森章太郎デジタル大全 人造人間キカイダー』第1巻(講談社)

 プロフェッサー・ギルが率いた悪の組織「ダーク」を壊滅させたキカイダーは、新たなる敵「シャドウ」と戦うことになります。キカイダー01も参戦。ギルの脳を移植したハカイダーがからみ、「シャドウ」から放たれたビジンダーも巻き込んだ戦いとなります。

 さらにジローが作った零(レイ)ことキカイダー00(ダブルオー)がマンガ版では新しく仲間に加わり、ここからマンガ版は独自の展開となっていきます。

 勧善懲悪に徹した特撮ドラマ版に対し、マンガ版『キカイダー』の最終話は史上まれにみるバッドエンディングでした。「シャドウ」を倒すために、キカイダー、01、00、ビジンダー、ハカイダーは共闘します。「シャドウ」打倒に成功しますが、共闘のどさくさに乗じて、ハカイダーはキカイダーたちに「服従回路」を取り付けてしまうのです。

 それまでずっと不完全な「良心回路」に苦しんできたキカイダーでしたが、ハカイダーから手術を受けたことで、「完全形」となるのです。ハカイダーだけでなく、ビジンダー、01、00まで、キカイダーは皆殺しにしてしまいます。

 キカイダーは正気でした。ハカイダーが注入した「悪の心」が、キカイダーをより強くしたのです。ジローの姿に戻ったキカイダーは、最後にこう言います。

「…おれはこれで…人間と同じになった…!! だが それとひきかえに おれは…」
「これから永久に“悪”と“良心”の心のたたかいに苦しめられるだろう…」

 人間になることをずっと願っていた人造人間のキカイダーが、「悪の心」を身につけることで「人間」になるという、苦すぎる「ジ・エンド」でした。

■「創造主」に抗う「創造物」たち

 石ノ森マンガの最終回といえば、『サイボーグ009』の「地下帝国ヨミ編」の最終話「地上より永遠に」が有名です。ジョーとジェットが夜空を流れる「ながれ星」になるという哀しくも美しいエンディングでした。それに比べ、『キカイダー』の終わり方はあまりにも悲惨です。

 しかし、キカイダーが自分の不完全さに悩み続けるというテーマ性は、石ノ森作品全体に通じるものです。石ノ森氏はその後も『ロボット刑事』『がんばれロボコン』など、不完全なロボットたちを描き続けます。また、『サイボーグ009』のジョーたちも、人間でもロボットでもない自分たちの身体のことを悩み続けました。

 ジョーたちが不完全な存在であることを真正面から突き付けられたのは、『サイボーグ009』の「天使編」です。天使の姿をした「造物主」たちが現れ、できの悪い人類を「ハジメカラヤリナオス」ことをジョーたちに告げます。サイボーグ戦士でも、万能の「神」には勝てそうにありません。それでも、ジョーたちは不完全な人類を守るために神と戦うことを決意します。

 結局、石ノ森氏は「天使編」を完結させることなく、『サイボーグ009』は未完のまま終わっています。おそらく、石ノ森氏は『サイボーグ009』の連載を中断した後も、悩み続けたのではないでしょうか。『キカイダー』を執筆しながら、創造主と創造物との関係性を模索していたように思います。

 人間とは、善と悪とのはざまで揺れ動く、不完全な存在に過ぎない。それが『人造人間キカイダー』を連載していた当時の、石ノ森氏が導き出した回答だったのかもしれません。不完全な存在であることを受け入れ、それゆえに強くなろうとした石ノ森作品の主人公たちが、大人になった今ではいっそう愛おしく思えてきます。

(長野辰次)

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