ジムとは違う「量産型ガンダム」の系譜 悪コスパで次々と計画中止→量産化に80年!
マグミクス / 2024年7月24日 6時55分
■実は一年戦争でも量産されていた「ガンダム」
『機動戦士ガンダム』の主人公機である「RX-78-2 ガンダム」、その量産型と「一般的に」いわれているのが「RGM-79 ジム」です。しかし、厳密にいえばそうではありません。
ジムはガンダムをもとにした量産型MS(モビルスーツ)ですが、高価な機能や装備を廃し、生産コストを下げて大量生産に適するよう、デチューンした機体です。それはMSの開発で出遅れた地球連邦軍が、一刻も早くジオン公国軍のMSの数を上回るために大量生産しなければならなかったからでした。
もっともビーム兵器が使用できるジムは、それだけで、「一年戦争」ではジオン軍のMSより優れていたともいえます。とはいえ、単体でのスペックは最低限のものとなりました。単体のスペックよりも、集団戦闘という物量でジオンの高性能なMSに戦いを挑んだわけです。
そのためか、ジムではなく高性能なガンダム自体を量産化しようとする動きがたびたび見られました。一年戦争中にはすでにあり、具体的に「RX-79[G] 陸戦型ガンダム」となります。もっとも、この陸戦型ガンダムの量産は、RX-78ガンダムの量産断念から始まったものでした。
RX-78は生産性を度外視した高性能機です。しかし、必要とされるパーツは使用する以上に生産されました。つまりRX-78を量産しないことで、これらのパーツが宙に浮いたわけです。この使われなかったパーツを使用し、宇宙用装備を取り外して再設計したものが陸戦型ガンダムでした。
どうして地上用に特化させたのでしょうか。それは開発された時期を考えれば容易に想像ができます。つまりその頃は、地上にいるジオン軍を掃討することが急務だったのでしょう。こうして量産された陸戦型ガンダムは、しかしその数はそれほど多くありませんでした。
そして前述の理由から、予備パーツが極端に少ないというネックがあったのです。そのため、頭部を失ったがために「RGM-79[G] 陸戦型ジム」の頭部を代わりに据えたこともありました。また修理するにも純正のパーツが足りなくて、「RX-79[G]Ez-8 ガンダムEz8」のようなカスタム機になったこともあります。
こうしてガンダムの量産化は早くも一年戦争中にスタートし、その後も困難な高性能機を量産しようという動きはたびたび見られました。
■高性能なガンダムのままで主力量産機になるまで
「百式」も再現可能なキット。「MG 1/100 量産型百式改」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
厳密にはガンダムではない「MSN-00100(MSN-100) 百式」も、再設計された「MSR-00100S(MSR-100S) 百式改」を経て、「MSR-00100S(MSR-100S) 量産型百式改」が生産されました。これを「カラバ」が地上用に再設計したMSに「MSK-100S 陸戦用百式改」があります。
この百式と同じく「グリプス戦役」で華々しい戦歴を重ねた「MSZ-006 Zガンダム」にも、量産化を検討された機体がありました。それが「MSZ-007 量産型Zガンダム」です。しかし、Z最大の特徴である可変機能をオミットしたことがアダとなり、前述の百式改とのコンペティションに敗れました。
もっともZの量産型は別の形で花開きます。それが、カラバが地上用に再設計した「MSZ-006A-1 ZプラスA1型」でした。少数ながら量産されて、後に宇宙用となった「MSZ-006C-1 ZプラスC1型」というバリエーション機も生んでいます。
これらZ系のMSのコンセプトは「RGZ-91 リ・ガズィ」に受け継がれ、「RGZ-95 リゼル」という形で量産に至りました。とはいえ、ガンダムの量産化とはかけ離れた形になったことは否めません。
「MSZ-010 ZZガンダム」にも「MSZ-013 量産型ZZガンダム」というデチューンされた機体がありました。合体変形機能はオミットされたものの、ZZの特徴的な武装「頭部ハイメガ・キャノン」は装備されています。もっとも発射は2回が限界でした。
量産型ガンダムのなかでも比較的出番が多いのは、「RX-93 νガンダム」のデチューン機にあたる「RX-94 量産型νガンダム」でしょうか。「スーパーロボット大戦」シリーズなどのゲームに多く登場しています。
もともとνガンダムは量産化を前提に予算をねん出していたという設定があり、「シャアの反乱」が長期に渡った場合を想定し、エース・パイロット用に開発されたのが量産型νガンダムでした。そのため、ニュータイプ用の「フィン・ファンネル」装備と、オールドタイプでも使える「インコム」装備の、2種類の装備を換装できるようになっています。
実は量産型νガンダムは、アニメにも登場する予定がありました。『機動戦士ガンダムUC』で登場が検討されたそうです。その代わりとして新たにデザインされたのが、「ARX-014 ドーベン・ウルフ」の改修機「ARX-014 シルヴァ・バレト」でした。
こうして量産型ガンダムの歴史は続いていき、宇宙世紀0153年にその最終系ともいうべきMSが誕生します。それが「LM312V04 Vガンダム」でした。
Vガンダムはほかのガンダムとは異なり、最初から量産を前提に生産されていたMSです。つまり、ここに至ってついに「ガンダムの量産化」という夢は果たされました。もっとも皮肉なことに、それを成し遂げたのはガンダムの生みの親である連邦軍ではありません。民間抵抗組織「リガ・ミリティア」でした。
当時は宇宙戦国時代といわれるほどの紛争が勃発する時代で、その中心にいたサイド2の「ザンスカール帝国」による地球侵攻に対して、弱体化した連邦軍に代わって立ち上がったのがリガ・ミリティアです。
Vガンダムは量産型ながら、当時の連邦軍MS以上の高性能機で、「コア・ファイター」を中心にした分離合体機構や、それを生かした戦法でザンスカール帝国配下の「ベスパ」相手に多大な戦果を挙げることになりました。もっともベスパには忌み嫌われていたらしく、「白いヤツ」や「ガンダムもどき」などといった俗称で呼ばれることになります。
こうして誕生から80年以上かけて、ガンダムは主力MSとして量産化されることになりました。もっともこの間、紛争もなく平和な時代もあったでしょうから、兵器の量産はゆるやかに停滞していたのかもしれません。
(加々美利治)
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