『風立ちぬ』庵野秀明の主人公起用の裏側 他スタッフの「マジか」顔が忘れられない
マグミクス / 2024年7月26日 21時25分
■プロデューサーの何気ないひと言から生まれたキャスティング
当時『風立ちぬ』は宮崎駿監督の引退作といわれ(そのたびに撤回して今日に至るわけですが)、荒井由実さんの主題歌「ひこうき雲」がフル尺で流れる予告編が話題を呼ぶなど、公開前から大きな注目を集めました。
そのような話題作となった主人公「堀越二郎」を、いったい誰が演じるのか。決定までの生々しいプロセスが、『夢と狂気の王国』(2013年)という映画に収録されています。本作は、その時点でまだ『エンディングノート』(2011年)という作品しか発表していなかった砂田麻美監督の手によるドキュメンタリーです。
彼女はひとりカメラを担ぎ、東京都小金井市にあるスタジオジブリに足を踏み入れ、宮崎駿監督という、まごうことなき天才の「創作の秘密」に迫ったのです。その結果、アニメーション史上に残るキャスティングの現場に立ち会うことになりました。
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「素人がやった方がまだ感じが出そうですよね…(例えば)庵野」。
きっかけは、鈴木敏夫さんの何気ないひと言からでした。キャスティング担当のスタッフが用意した候補リストに明らかに不服そうな宮崎監督は、その名前に飛びつきます。
一同はさっそく庵野秀明さんのインタビュー動画をチェックし始めました。ちょっと甲高くて抑揚のない、なんとも不思議な声が会議室に響き渡ります。宮崎監督は「これ、ものすごく誠実な男ですから。嘘つかない男ですから」と、興奮を抑えきれない様子でした。対してほかのスタッフたちは、茫然自失の表情を浮かべます。その対比を、砂田監督は抜け目なくカメラに収めていました。
オーディションに呼ばれた庵野さんは必死にセリフを読み上げますが、明らかにおぼつかない口調です。それでも宮崎監督は「やって! 声の質とかはいいから」と主役に即決し、「堀越二郎=庵野秀明」が誕生しました。
●宮崎駿を受け継ぐ者
宮崎監督による『風立ちぬ』の企画書の冒頭には、「飛行機は美しい夢」という一文があります。それは、「アニメは美しい夢」にそのまま置き換えられる言葉です。三菱重工に入社し、飛行機の設計士として日々懸命に働く堀越二郎は、スタジオジブリでさまざまな傑作を作り続けてきた宮崎監督その人なのです。
となれば堀越二郎役は、宮崎駿を受け継ぐことができる人物でなくてはなりません。そのお眼鏡に叶ったのが、庵野さんだったのです。この時点で引退を決めていた宮崎監督が、その座を禅譲するのにふさわしい相手という気持ちもあったことでしょう。
まだ学生だった庵野さんは、アニメーターとして『風の谷のナウシカ』(1983年)に参加しています。映画の終盤、巨神兵がドロドロに崩壊していくパートを担当したのが、彼でした。庵野さんは突然阿佐ヶ谷にあるスタジオに現れ、宮崎監督に会わせて欲しいと直談判し、見事アニメーターの座を勝ち取ったのです。宮崎監督と庵野さんの師弟関係が始まった瞬間でした。
鈴木さんはインタビューで、ふたりが初めて出会った日のことを以下のように述べています。
「(庵野秀明との)面接が終わった直後、宮さんに聞いたんです。何が良かったんですか?って。(中略)そうしたら宮崎駿が、“雰囲気が良かった”って言ったんですよ。“何ですかそれ?”って言ったらね、“テロリストみたいだった”って」
宮崎監督は、庵野さんに堀越二郎役を託したとき、「声に何を考えているか分からないところがいいよ」と語っています。相手に決して正体をつかませない、テロリストのような男。おそらく宮崎監督は、自分自身を投影した堀越二郎というキャラクターを、観客がたやすく理解できる人物にしたくなかったのでしょう。
確かに庵野さんが発する独特の声とセリフ回しは、「堀越二郎=宮崎駿」の内面へのアクセスを拒否し続け、他者の理解を拒み続けます。まるで主題歌「ひこうき雲」の一節「ほかの人には分からない」のようでしょう。一見型破りにも思える庵野さんの起用は、宮崎監督にとって必然の結果だったのです。
(竹島ルイ)
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