今更だけど『ドラゴンボールZ』の引き延ばしすごかったな… 「1ページを5分に」した驚き
マグミクス / 2024年7月24日 19時5分
■アニメがマンガの展開に追いついてしまう
『鬼滅の刃 柱稽古編』の終了に合わせて、鬼たちとの最終決戦となる「無限城編」の映画三部作での公開が発表されました。「無限列車編」のようなハイクオリティなアニメーションが期待できそうです。
しかし一部のファンからは、十分なエピソードが足りなくて上映時間が間延びするのではないかと懸念する声があがっています。彼らが危惧する「尺稼ぎ」とは、いったいどのような演出なのでしょうか?
この記事ではアニメ『ドラゴンボールZ』が、どのように原作マンガを引き伸ばしていたのか振り返ります。
●バトルシーンはアニメにすると一瞬!
マンガをアニメにする際に生じる根本的な問題のひとつが、コンテンツの消費速度です。マンガではバトルシーンを何ページ、場合によっては何巻にもわたって描くことは珍しくありません。緻密に描写するほどにページ数はかさんでいくものです。
しかし膨大な描写によって描かれたバトルシーンも、映像化してしまえば一瞬です。ハイクオリティなアニメーションほど、一瞬の動きに原作のエッセンスを取り込んで視聴者の心を惹きつけるものです。アニメには数週間、数ヶ月にわたって少しずつ楽しんできたマンガをほんの数分で一気に消費する贅沢さがあります。
その結果、アニメが原作に追いついてしまうケースが多発しており、その代表ともいえる作品が『ドラゴンボール』です。特に「孫悟空」が大人になってからのパートを描いたアニメ『ドラゴンボールZ』はバトルが中心ですから、アニメ化に伴う原作消費速度には目を瞠る(みはる)ものがあります。
そこで原作消費を抑えるために取り入れられたのが、アニメオリジナルエピソードの挿入と「尺稼ぎ」と言われることになる演出のペースダウンです。アニメ『ドラゴンボールZ』ではその両者が取り入れられました。超サイヤ人になった悟空と「フリーザ」の最終決戦では、幼いファンも不自然に感じられるほど尺稼ぎ演出が多用されたことで知られています。
■1ページが5分に?
『ドラゴンボールZ』17巻(ポニーキャニオン) (C)バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
アニメ『ドラゴンボールZ』では、原作の第320話「消え去るナメック星と希望」から第327話「ナメック星消ゆ」までのエピソードが、10話にわたって放送されました。原作7話分を10話にすると聞くと、それほど引き伸ばしたように感じないかもしれませんが、このパートはほとんどすべてが悟空とフリーザのバトルパートです。
悟空がフリーザを殴り飛ばすシーンや、フリーザが自分の放った気のカッターで切断されるシーンは1ページ1コマのド迫力演出が光ります。つまり7話といっても大コマが多いせいで展開自体はシンプルなのです。
そこでアニメでは頻繁に場面が転換し、そのたびにギュインギュインとオーラが燃え盛り、ズゴゴゴゴと大気を震撼させるシーンが描かれました。実際に確認してみましたが、1回につき大体20から30秒ほどの長さです。
またシーンが転換したときには「引き」の状態からキャラクターに寄っていくため、会話やバトルが始まるまで間があります。しかも話を切り出す前に半透明で再生された過去シーンがキャラクターに重なるなどして、なかなか話が進みません。視聴者がもっとも違和感を覚えた演出だといえるでしょう。
この「尺稼ぎ」演出は、フリーザが「ナメック星」に「エネルギー玉(デスボール)」を打ち込んでから、崩壊しつつあるナメック星が描写されるようになったことで、さらに強化されます。気を練りながら対峙するシーンに加えて、マグマが荒れ狂い、暴風が吹き荒れ、水が竜巻になって大気に巻き上げられる様子までもが場面転換に加わったのです。
また各種オリジナル演出も目立ちます。例えばマンガでは崩壊寸前のナメック星から脱出するため、「悟飯」が「ブルマ」を担いで宇宙船に移動するシーンが1ページで描かれていました。崩落する岩石に押しつぶされそうになったところをギリギリで助けられたブルマは、悟飯に抱えられながら「なにやってたのよ あんたたちは! 不安でたいくつで もうしょうがなかったじゃないの!」と不満をこぼします。
しかしアニメのブルマは崩壊するナメック星の環境に翻弄されていました。「こんなところで死にたくない!」と叫びながら強風に吹き飛ばされそうになって岩にかじりつくなど、悟飯の到着までかなりの極限状況を強いられます。
またフリーザの状態をモニターしていたフリーザ軍の基地では、フリーザに匹敵する強者(悟空)の出現に不満分子が登場して射殺されたり、戦闘力をモニターする機械が暴走して大爆発を起こしたりするトラブルが発生しました。ちなみに悟空とフリーザの決戦中にも関わらず、およそ7分もこの展開が描かれます。
●制作スタッフの苦悩
こうして振り返ると、さまざまな大人の事情や当時の制作状況の厳しさが伺え、無理を承知で演出している様子が目に浮かびます。もしも当時SNSが存在すれば、単に低クオリティだと批判されるよりも、このような内容を放送せざるをえない制作側の事情のほうが大きな話題になっていたかもしれません。
そして『ドラゴンボール』の例があったからこそ、現在のアニメは露骨な「尺稼ぎ」演出がめったに見られないのでしょう。今に至るアニメのクオリティ維持のため、一度は通過しなくてはならない「試練」の時期だったのかもしれません。
(レトロ@長谷部 耕平)
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