やはり「ハマーンはシャアにガチ恋」でいいの? 『Z』本編と『C.D.A.』で答え合わせ
マグミクス / 2024年7月30日 7時5分
■ハマーンはシャアと共に歩みたかった
『機動戦士Zガンダム』で初めて登場した「ハマーン・カーン」は、「シャア・アズナブル」との仲睦まじい写真が登場するなど、かつて良好な関係にあったことが示唆されていました。しかし本編では具体的な間柄は明かされず、「ハマーンが一方的にシャアにべた惚れしていたのではないか?」と思われる描写に留まりました。ふたりの関係はどんなものだったのでしょうか。
『Z』最終話「宇宙(そら)を駆ける」でのコロニーレーザーを巡る激しい戦いのなか、ハマーンは「クワトロ・バジーナ」ことシャア・アズナブルと廃棄された軍艦のなかで交戦し、撃墜寸前まで追い詰めます。ハマーンがとどめを刺そうとしたそのとき、シャアはバルカン砲で廃艦の生きている回路らしき部分を攻撃し、爆発の誘発に成功しますがそのまま巻き込まれ、姿を消しました。
脱出に成功したハマーンは、爆風のなかで消滅していく廃艦を見つめながら、わずかに哀しさをこらえるように、「シャア……私と来てくれれば……」とつぶやいています。
それまでも、シャアとハマーンが何か特別な関係にあることは、作中でたびたび描写されていました。しかし、何度かあったふたりのやり取りにおいて、シャアがハマーンに向ける視線と言葉は冷たいものばかりでした。
逆にハマーンがシャアに向けるそれは執着を感じるものが多く、上述した最終話におけるコロニーレーザー内での戦闘シーンでは、シャアに対し「もしも、私の元へ戻る意志があるのならば」と呼びかけています。さらに劇場へ場所を移した「パプティマス・シロッコ」を交えての三者の会話シーンでは、「世界のことをともに考えよう」と語りかけており、シャアに対し大きな未練を抱えているのが分かります。
しかしながら、ふたりの過去が本編中で具体的に語られることはなく、第47話「宇宙の渦」でハマーンとカミーユがニュータイプ同士の共振を起こした際に、「ハマーンがシャアの肩に手を置いて微笑んでいる写真を思い出す」程度の描写に留まりました。なおこの後の戦闘でハマーンはカミーユに対し「恥を知れ! 俗物!」とキレています。こんな記憶を見られたら、相手を殺したくなるのは当然といえるでしょう。
■ハマーンにとってシャアは憧れだった
「クワトロ」を名乗っていた頃のシャア。「GGG 機動戦士Zガンダム クワトロ・バジーナ」(メガハウス) (C)創通・サンライズ
そうしたふたりの過去が詳細に明かされた作品が、北爪宏幸先生のマンガ『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』(KADOKAWA)です。
ア・バオア・クー戦の後、ジオンの小惑星基地「アクシズ」に腰を落ち着けたシャアは、アクシズ総括責任者「マハラジャ・カーン」の次女、ハマーン・カーンと運命の出会いを果たします。このとき14歳のハマーンはシャアに憧れてパイロットを目指しており、シャアに話しかけられた際には頬を赤らめ恥じらう可憐な姿を見せるなど、『Z』での女傑ぶりは垣間見ることもできません。
当然シャアもハマーンからの好意には気付いており、「ララァ・スン」(の意志?)からも「受け入れて差し上げればよろしいのに」と勧められていますが、「憧れているだけ」「まだ子供だ」と、取り合おうとはしませんでした。包容力のある女性を求めるシャアにとって、一方的に好意を寄せてくるハマーンは対象外なのでしょう。
その後、シャアは地球連邦小惑星機動艦隊襲撃事件で囚われの身となりかけたハマーンを救出し、よりいっそうの好意と信頼を得るようになります。武力による独立を目指しつつあったハマーンと、穏健な独立自治権獲得を志すシャアのあいだには意見対立もありましたが、ハマーンがサイド3を視察した際にはシャアも随行するなど、良好な関係を築き上げていました。
しかし、あるひとりの女性を巡り、両者の関係は決定的な対立を迎えてしまいます。彼女の名は「ナタリー・ビアンキ」中尉、ハマーンより4歳上の女性で、優秀なコンピュータ技師として働いていた人物です。ハマーンとは公私ともに姉妹のように親しくしていたものの、ナタリーとシャアが交際を始めたため決別してしまいました。
シャアとの交際のなか、ナタリーは子供を身ごもります。ところが、アクシズ内部で発生した内乱の終息後、暗殺者と化した残党によってお腹の子供ともども殺されてしまいます。ハマーンは暗殺者の存在に気付いていながら、ナタリーに対する怒りのあまりこれを見逃していました。
この件をきっかけに、シャアとハマーンのふたりは袂(たもと)を分かちました。ハマーンは武力闘争による独立を目指して動き出し、シャアは地球圏の偵察を名目にアクシズを退去、物語は『Z』へとつながって行きます。
ハマーンも、二度と手を取り合えないことは分かっていたのでしょう。それでも断ち切れない未練の数々が、『Z』を彩る印象的な言動へとつながっていたのではないでしょうか。
(早川清一朗)
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