「トラウマ級の特殊作画」 普通じゃない手法で作られた忘れがたいアニメ映画たち
マグミクス / 2024年8月11日 12時25分
![「トラウマ級の特殊作画」 普通じゃない手法で作られた忘れがたいアニメ映画たち](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_245433_0-small.jpg)
■「ドキュメンタリーかつアニメ」の映画も
2021年、人形や小道具をちょっと動かして撮影して、またちょっと動かして……という工程をひたすら繰り返す「ストップモーション」の手法で撮られたアニメ『PUI PUI モルカー』と、映画『JUNK HEAD』が大きな話題を呼びました。
近年はストップモーションだけでなく、さらにバラティ豊かで「変わった表現」そのものに魅力があるアニメ映画も多数公開されています。特に、その独自表現がテーマや物語と見事にリンクしている作品を振り返りましょう。
●『化け猫あんずちゃん』
2024年7月19日より公開中の『化け猫あんずちゃん』は、いましろたかしさんの同名コミックを原作とした日本、フランスの合作の映画です。本作で採用されたのは、実写の人間の動きをなぞってアニメにする「ロトスコープ」という手法でした。
ロトスコープはある種の「生々しさ」が出やすいこともあり好き嫌いも分かれるのですが、本作は子供から大人までお勧めできる、とても親しみやすい内容に仕上がっています。実写での撮影を、『天然コケッコー』や2024年公開の『カラオケ行こ!』『告白 コンフェッション』などマンガの実写化にも長けた山下敦弘監督が手掛けたことも大きいのではないでしょうか。
何より、森山未來さん演じる37歳のダメ中年の「化け猫」主人公あんずちゃんを筆頭に、ファンタジーでしか存在し得ないキャラクターたちが、ロトスコープによる「実写らしい芝居」をしているさまがとても楽しいのです。
「あんずちゃんが自転車を盗まれて辺りを見まわし戸惑う」「ゲームで遊んでいるお地蔵さんが小さくガッツポーズをする」「仕事で着ていた汚れたツナギを脱ぐ」といった、細かやかな動作がかわいいキャラクターそれぞれに「落とし込まれている」だけで幸せな気持ちになれます。「走る」シーンに至っては、その動き自体に、大きな感動があるほどです。
全体的にはいい意味でゆるい雰囲気に満ちていますが、映画版は原作にいない主人公の11歳の女の子「かりんちゃん(演:五藤希愛)」の過酷な物語も描いています。彼女の境遇は、冒頭から借金まみれの父(演:青木崇高)に捨てられてしまう(?)など、とてもシビアでした。
そんな彼女が何回も舌打ちをしたり、暴言を吐くほどにやさぐれたりしてしまうのも理解できますし、それを誤魔化すことをせず、かわいらしい作品そのものが「受け止める」ような優しさを感じさせます。現実的に描かれた日常パートが、終盤の本格ファンタジーとしての「地獄」の描写と「地続き」に思えるのも、ロトスコープという手法を使ったおかげでしょう。
●『バイオレンス・ボイジャー』
2019年に公開された『バイオレンス・ボイジャー』は、世界初の全編「ゲキメーション」と銘打たれた長編アニメ映画です。ゲキメーションは、キャラクターの絵を切り取り、それを棒などに貼り付け、カメラの前で動かして撮影をする「紙人形劇」に近い表現が使われています。それだけなら簡単そうに聞こえるかもしれませんが、実は作画枚数はキャラクターの絵だけで3000枚以上、構想段階や脚本執筆を入れると3年半から4年をも費やした労作でもありました。
その甲斐あってか、キャラクターそれぞれの感情表現は豊かで、時にはダイナミックなアクションシーンも構築されています。1980年代のハリウッド映画を連想させる、奇妙な世界観とホラー的表現もグイグイと興味を惹くことでしょう。
おどろおどろしくもユーモラスな雰囲気が漂っていますが、年端もいかない子供たちが次々にひどい目に遭うトラウマ級の物語でもあり、かなりグロテスクな描写もあって、PG12指定がされていることには注意が必要です。
本作のクリエイターである宇治茶さんは監督だけでなく、脚本、作画、撮影、編集、背景作画、出演、操演、特殊効果、効果音、タイトル題字、カラーコレクション、キャラクターデザインまで何と13役をこなしていました。その宇治茶さんは、後に実写ドラマ『妖怪シェアハウス』の昔話パートや、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』のOP&ED映像も手がけており、それぞれに一度観たら忘れられないほどのインパクトがあります。
●『FLEE フリー』
2022年に日本公開された『FLEE フリー』は、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス合作の作品で、なんと「ドキュメンタリーでありながらアニメーション作品として制作された作品」です。アニメで描かれた第一の理由は「当事者の安全を守る」ためであり、この手法によって匿名性が担保されていました。
描かれるのは過酷な逃亡生活と、「同性愛者は存在しない」とされるアフガニスタンで生きてきたゲイの青年がトラウマと向き合う様子です。インタビューや鮮明な記憶は写実的なアニメで、抑圧された記憶は抽象的なアニメで、さらには少年時代の当時のニュース映像が実写として挿入されるなど、シーンによって違った表現がされていました。それぞれが主人公の内面やトラウマ、はたまた「現実にあったこと」と強く思わせるなど、意義のあるものになっています。
難民としてだけではなく、ゲイをカミングアウトできないことの苦悩も伝わる作品でした。2024年の今、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ地区への侵攻という、痛ましいという言葉でも足りない悲劇が怒っている今に『FLEE フリー』を観れば、改めて世界に蔓延る問題を考えられるでしょう。
●『めくらやなぎと眠る女』
さらに、2024年7月26日からはフランス、ルクセンブルク、カナダ、オランダ合作の『めくらやなぎと眠る女』が公開中で、こちらは村上春樹さんの6つの短編小説を原作としています。なかでも注目は「地震から東京を救う話を聞かされる」という『かえるくん、東京を救う』のエピソードで、これは新海誠監督が『すずめの戸締まり』の発想元だと明言していた作品でもあるのです。
本作は「キャラクターの動きを実写で撮影し、そっくりそのままトレースするのではなく、おおまかな動きをその上に重ね合わせてアニメーションに描き出す」という(ロトスコープにも近い)手法が取られています。そのおかげもあってか、いい意味で生々しいキャラクターそれぞれの質感や、つかみどころがなく幻想的でもある雰囲気も出ており、それもまた魅力的です。
なお、日本吹き替え版は『淵に立つ』『LOVE LIFE』などの深田晃司監督が演出を手がけており、淡々とした作風にマッチした磯村勇斗さんや玄理さんなどの俳優陣の演技も絶品で、特にクセの強いかえるくん役の古舘寛治さんは最高にハマっていました。また、「20歳未満の喫煙がみられる」という理由でPG12指定がされているほか、性的な話題やシーンもあって、完全に大人向けの内容であることにはご注意ください。
(ヒナタカ)
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