『マクロスΔ』は何が“ザンネン”だったのか? 「ワルキューレ」大躍進もアニメの評価はイマイチ
マグミクス / 2024年8月6日 6時25分
■「聴かせてあげる! 女神の歌を!」楽曲は最高だったのに!
『超時空要塞マクロス』に始まった「マクロス」シリーズの新作アニメーション企画が、サンライズの制作で進行しています。現時点での最新作となるタイトルは、2016年に放送されたTVアニメ『マクロスΔ』です。『Δ』は、5人の女性で構成された戦術音楽ユニット「ワルキューレ」の圧倒的な存在感が目立ちましたが、作品全体としての評価はいまひとつでした。何が原因で、「残念」な評価となってしまったのでしょうか?
改めて『Δ』を観返しましたが、1話は本当に見事な出来栄えでした。主人公「ハヤテ・インメルマン」が、課役作業用のワークロイドを踊るように操る姿には、圧倒的なパイロットの才能を感じました。ワルキューレに憧れ新メンバーのオーディションを受けるため、密航していた少女「フレイア・ヴィオン」と、密航者として追われる彼女を助けるために飛び込んでいくハヤテの姿も、実に良い「ボーイミーツガール」でした。
ワルキューレのメンバーたちと、可変戦闘機「バルキリー」のエースパイロットぞろいの「Δ小隊」がからむシーンも、短い時間のなかで各自の個性と、両チームの関係の良好さ、協力して役割を果たしている状況をしっかりと描いています。フレイアを偶然押し倒したハヤテを、誘拐犯だと勘違いして取り押さえようとした「ミラージュ・ファリーナ・ジーナス」のシーンなどは、彼女の軸であり悩みである生真面目さがよく出ています。これだけ早い段階で、三角関係の一端を担うキャラをスピーディーにからませたのは脚本の妙でしょう。
その後も「ヴァール・シンドローム」発生による戦闘の勃発、音楽とともに次々と戦場に姿を現すワルキューレの雄姿、Δ小隊と連携しての戦闘、生身で敵に取り付きヴァ―ル・シンドロームを癒やすエースの歌姫「美雲・ギンヌメール」の圧倒的な存在感など、見どころしか存在していません。さらに突如として現れた「ウィンダミア王国」の「空中騎士団」とΔ小隊の死闘は「これぞマクロス!」といわんばかりの圧倒的な空中戦が描かれ、今後への期待を大きく持たせてくれるものでした。
しかしながら、その後もワルキューレについては文句も付けようがない展開が続きましたが、その他の点において、「難しい」と考えるようになりました。処理しなければいけない情報量があまりにも多すぎたのです。
■登場人物・勢力・惑星が多すぎた?
ワルキューレのライバル「闇キューレ」も高い人気となった『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』 (C)2021 BIGWEST/MACROSS DELTA PROJECT
まず今回「Δ」の文字が冠された理由としては、「歌」「戦闘」「三角関係」を忘れないようにあえて付けたと事前に説明がありました。なぜあえて「忘れないように」と付け加えねばならなかったのか。おそらくは、歌姫がふたりだった前作『マクロスF』から一気に5人に増えた、ワルキューレに力を入れるあまり、他の要素が薄くならないように最初から気を付けなければいけない状況だったと思われます。
また『Δ』ではチーム戦もコンセプトのひとつとして挙げられており、Δ小隊&ワルキューレVS空中騎士団の3つのチームが激しい戦いを繰り広げています。これだけでも描写しなければいけないキャラクター数が二桁を超えており、関係性を丁寧に描くのは難しくなっています。
主人公側だけでも動かすのが大変なキャラクター量の上、敵方の描写に割かれる尺も多く、結果として恋愛がらみの「三角関係」が十分に描き切れなかったのではないでしょうか。
また、厳しいと感じられたのが、舞台となる惑星がコロコロと変わる点です。風土気候の違いや登場する民族が増加するなど、さらなる情報量の増加につながっていました。どこかで情報を取り損ねると、今どこで誰が何をやっているのか分からない状況になりがちだったように思えます。こうなるとストーリーではなく、ワルキューレのパフォーマンスを楽しむ傾向が強くなるでしょう。
戦闘面ではΔ小隊のエースパイロット「メッサー・イーレフェルト」と空中騎士団のエースである「キース・エアロ・ウィンダミア」のライバル性が非常に力を入れて描かれ、一騎打ちの結末など見るべき点は数多くありました。しかし主人公であるハヤテは割を食ってしまい、存在感が薄くなってしまったのは否めません。
主人公の存在感が薄まれば、ハヤテ&フレイア&ミラージュの三角関係も力のある描写とはなりません。この点、2021年に公開された劇場版『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』はワルキューレのパフォーマンス、そしてハヤテとフレイアの純愛にほぼ特化しています。ミラージュにも、初代『マクロス』から登場している、祖父である「マクシミリアン・ジーナス」とのからみという特別な出番がありました。とはいえ、生真面目さゆえにパイロットとしても恋愛相手としても、なかなか殻を破れなかった彼女には、マックスくらいの劇薬が必要だったということでしょう。少々不憫な気もします。
(早川清一朗)
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