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『サイボーグ009』の名作「太平洋の亡霊」 ゼロ戦や戦艦大和が蘇り、米国を襲う怪事件に息を呑む!

マグミクス / 2024年8月9日 7時25分

『サイボーグ009』の名作「太平洋の亡霊」 ゼロ戦や戦艦大和が蘇り、米国を襲う怪事件に息を呑む!

■平和のために戦う9人のサイボーグ戦士

 人気漫画家の石ノ森章太郎氏は、23歳のときにマンガ執筆を一時休み、世界一周旅行に向かいました。そのときの体験をもとに、1964年7月からSFマンガ『サイボーグ009』の連載を始めました。世界各地で起きている紛争の裏で暗躍する武器商人や人種差別などの社会問題を盛り込んだ意欲作で、石ノ森氏の代表作となっています。

 サイボーグ戦士たちの生誕60周年にあたる2024年は、9人の小説家たちが競作した『サイボーグ009 トリビュート』(河出文庫)が発売されました。また、1968年にNET(現在のテレビ朝日)系列で放映されたTVアニメシリーズの第1期『サイボーグ009』が、【原作誕生60周年記念】としてYouTube上で期間限定での無料配信が行なわれています。7月19日より毎週金曜日に3話ずつ、全26話が配信される予定です。

 第1期『サイボーグ009』のなかでも名作と評判が高いのが、第16話の「太平洋の亡霊」です。8月15日(木)の「終戦記念日」を前に、「太平洋の亡霊」を振り返ります。

■水爆実験で沈んだはずの「長門」が復活

 島村ジョーこと「009」は、フランソワーズこと「003」、そしてギルモア博士と一緒に、ハワイを訪ねました。太平洋戦争の始まりとなった真珠湾に一行がたたずんでいると、そこで怪事件が勃発します。空からゼロ戦部隊が舞い降り、海からは人間魚雷と恐れられた「回天」が現れ、真珠湾に停泊していた米軍の船を撃沈していったのです。

 夜間戦闘機「月光」や突撃用ロケット機の「桜花」も、米軍に襲い掛かります。日本海軍のシンボルだった戦艦「大和」も復活し、その威容を見せつけます。米軍が反撃しても、まったく歯が立ちません。日本の敗戦から30年、旧日本艦隊が亡霊のように甦ったのです。

 さらに、米国本土を震撼させる事態が起きます。水爆実験によってビキニ環礁に沈んだはずの、日本海軍の旗艦「長門」までもが出現しました。高濃度の放射能を帯びた「長門」は、そのまま米国の西海岸へと向かいます。このままでは米国で暮らす一般市民にまで、災害をもたらすことになります。

 魔物たちが大騒ぎするクラシックの名曲「禿山の一夜」が、BGMとして怪しく流れます。無人のまま進撃を続ける旧日本艦隊に、さしものサイボーグ戦士たちも手も足も出せないままでした。「長門」の米国到着が刻々と迫ります。

■息子の無念を晴らそうとするマッドサインティスト

『サイボーグ009 トリビュート』(河出文庫)

 旧日本海軍を現代に甦らせたのは、超心理学を専門とする平博士でした。平博士にはひとり息子がいたのですが、太平洋戦争の末期に特攻隊員として亡くなりました。息子の無念を晴らすために、平博士は頭のなかでイメージしたものを物体化させるマシンを発明し、米国への報復をもくろんだのです。

 平博士がこの事件にからんでいることを察知した009たちは、平博士のいる研究所へと急行します。平博士はマシンを操作している真っ最中でした。そして009たちに「かつて日本は多くの若い命を犠牲にしてしまった。そのとき我々は彼らの魂になんと誓った?」と語ります。日本だけでなく、米国をはじめとする各国が軍事拡張、兵器の開発を進めていることに平博士は激怒していたのです。

 009が憎しみをさらに広げる行為はやめるように呼びかけても、平博士は聞き入れません。ですが、そこにひとりの人物が現れ、事件は意外な展開をみせていきます。

 海底に沈んでいた「大和」が甦り、その勇姿を見せるシーンはモノクロ映像ながら息を呑みます。人気アニメ『宇宙戦艦ヤマト』(日本テレビ系)のTV放映は1974年10月からなので、6年早い大和の復活劇でした。また、スティーヴン・スピルバーグ監督は、三船敏郎さん率いる旧日本軍の潜水艦が米国の西海岸に出没する戦争パニック映画『1941』を1979年に公開しています。それよりも、ずいぶんと早い作品でした。

■レジェンド作家・辻真先氏が込めた祈り

 放送時間23分ほどの短いエピソードですが、「太平洋の亡霊」はとても濃密な物語です。上映時間3時間の大作映画『オッペンハイマー』(2023年)を難しく感じた人も、「太平洋の亡霊」はドキドキハラハラしながら、いろいろと考えることができるはずです。

 TVアニメのオリジナルとなる本作のシナリオを担当したのは、現在92歳となる辻真先氏です。辻氏は、『鉄腕アトム』や『レインボー戦隊ロビン』など、TVアニメを黎明期から手がけてきた超ベテラン脚本家です。今も現役のミステリ作家として活躍中で、先述した『サイボーグ009 トリビュート』にも参加しています。

 辻氏が中学生のときに、日本は太平洋戦争に敗れ、全面降伏しました。玉音放送が流れた1945年8月15日の正午をきっかけに、世界が一変するのを、辻氏は体感したそうです。

 辻氏は「敗戦」ではなく「終戦」という言葉が使われていることにも、違和感があるそうです。戦時中、日本では「撤退」のことを「転進」、「全滅」のことを「玉砕」と言い換えていました。自分たちの都合のいい言葉に置き換えるという日本人の体質は、敗戦を経験した後も変わっていないのかもしれません。

 石ノ森氏や辻氏ら、戦争体験者たちの平和への祈りが込められたTVアニメ『サイボーグ009』は、YouTubeで視聴できるほか、石ノ森氏のアシスタントだった早瀬マサト氏の作画によるTVアニメのコミカライズ『サイボーグ009 太平洋の亡霊』が秋田書店のWebサイト「チャンピオンクロス」にて配信中です。8月20日(火)には単行本化される予定となっています。

 平博士の凶行を思いとどまらせたのは、いったい何だったのか? ぜひ、「太平洋の亡霊」の結末を確かめてみて下さい。

(長野辰次)

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